ラスボス登場!に若干ビビる。

しこりを集中的に撮る。

マンモは、台と透明プラスチックの板で肉(患部)をはさんで、なるべく薄く伸ばす必要がある。

何もない、ほぼ皮だけの左胸は痛くない。

ただ、あまりに肉がないので、皮を引っ張るたびに乾燥して伸ばした皮膚片が粉のように台につく。カサカサだから仕方ないけど、恥ずかしい…。

 

右胸のしこり部分、最後の戦い。

「ちょっと痛いかなー。すぐとりますからねー。」

何を言っても、聞こえない。自分の呼吸に集中する。「ふー、ふー、ふー」

「はい、息を止めて。・・・・・・・・おしまいです。」

 

終わってしまうと、過ぎたこと。

この女性技師さんの心遣いもあって、痛さはそれほどでもなかったのではないか?

「良く頑張りましたね。長くなってすみませんでした。お疲れさまでした。」

そういわれて、

「おかげさまで、そんなに痛くありませんでした。ありがとうございました。」

まったく嘘ではないが、とにかく終わったんだし、ここで恨み節をうなるより、気持ちよくお礼を言ったほうが、お互いに気持ちが良いと思った。

 

着替えて、乳腺科の受付に戻って、全部のスタンプを集めたことを報告する。

 

しばらく待たされると、小走りに看護師が私の名前を呼びながら出てきた。

 

「これから、穿刺ですよね。」「はい。15時からだと聞いています。」

「穿刺の先生が今ちょうど空いているので、すぐに行ってください。」

「…?は?いますぐですか?」

「はい。心電図検査をした部屋の隣に、超音波の検査室がありますので、そこへ。」

「?え?超音波をやるんですか?」

看護師さん、きっと忙しいんだろうな。声が走ってる。

「ははは。ごめんなさい。針を刺すのにガイドがないとどこに刺せばいいのかわからないので、超音波(エコー)で見ながらさすので、超音波の部屋でやるんです。ははは、わかりませんよね。ごめんなさい…。」

別に、嫌な感じじゃまったくなかった。「ごめんなさい」と言いながら、軽く私の背中に手を当てて、不安を逃してくれているようだった。 実際その「手当」はとてもよく効いた気がした。

 

彼女が待っているところに急いで戻り、これから急だけど穿刺検査に行くといって、超音波の部屋へ行った。

 

「Yです。よろしくお願いします。これから胸の細胞をとって、検査します。」

若い、イケメン(私の中の)の、多分うちの息子と同じぐらい…。

マスクから”鼻”が出ている。 医師として、どうなの?

ちょっと残念。 マスク。いいの?それで。そして、背が高くない。というか、私より低い。

…大丈夫か?できるのか?私の胸に穴をあけて細胞を取り出すのだよ!?

もし、これが自分の息子だったら、いろいろとダメ出しをする。

「マスクから鼻を出さない!挨拶をきちんとする!患者を不安にさせない!患者の確認はどうした!!」

 

もちろん。声に出して言わない。でも、怖くなってきた。

 

「上半身裸になって、そちらに横になってください。寒いのでそちらのバスタオルをかけて。準備をするので、待っててください。」

 

隣の部屋と寝台と超音波がある部屋を行き来している。落ち着かない。

まさか、始めてやるんじゃないよね。 それに、なんだか違和感が。

あ、あれほど聞かれていた「お名前と生年月日」を聞かれてない。

さらに不安。 どうしよう。 この人、偽物じゃないよね…。

 

ええい!ままよ。 俎板の鯉とは私のことだ。

 

「じゃあ、始めますね。初めにもう一度超音波で患部を診ます。T(先生)から聞いているとは思いますが、細胞を針で採って詳しく診ます。 リンパ節にもぷくっとしたところがありますのでこちらからも取りますね。 針は…(と言って、はさみのような形状の長くて太い針状のものを見せて)こちらで、ちょっと音がします。バチン!としたら採れます。それを、しこりのところで4回か5回、リンパ節で2回採ります。」

 

「い、痛いのは嫌です…。」絞り出すようにいった。 本当に怖い。 とても不安だった。

ちゃんとできるの?

 

「痛くないように、麻酔をします。歯医者で使うのと同じ麻酔です。気分が悪くなったりしたことはありませんか?」

といって、すごい太い注射器に満タンに入った、麻酔薬を見せてくれた。

逆効果! そんなに入れないと痛みが出るようなヤツか?

 

「全部入れるんですか?」 

「いいえ、こんなに使いません。余分に吸いました。」

「・・・・・・・。」

「いやあ、人が足りなくて、看護師もつけてもらえなくて僕一人でやるんですよー。」

「!!!!」

 

あーーーーー。それだーーー。 看護師のフォローがないーーー!

はじめから感じていた違和感。

第一、針の位置を確かめながら穿刺するとか言って、片手で超音波の機械を操作しながら、片手で針を刺すのか???

ひとりでやるからさっきから隣の部屋とこっちの部屋を行ったり来たり。

消毒してよね! 変なところに針刺さないでよね! お願いだから痛くしないで!!

 

ああ、俎板の鯉…それも、太いくぎで急所を押えられている。

 

「じゃあ、まず麻酔をしますね。初めにリンパから採ります。」

ずっと、目をつぶっていた。 超音波のパッドで位置を確認している。

麻酔の針を「ちくっとします。」と言って、刺した。 たいして痛くない。

「ちょっと、変な感じがするかもしれません。はい、麻酔がきくまでちょっと時間を置きます。」

 

次は何?針刺す?

 

「次は針を入れるための穴を1mmほど、開けますね。」

(!!!穴?開けるの??聞いてない…穴、開けるのか…)「はい…」

「はい。では、先ほどの針を入れていきます。細胞採るとき”バチン”とします。『バチン!』」

痛くはなかったが、針が入っている感覚と、バチン!の衝撃があった。

「はい。ちゃんと採れましたよ。同じところからもう一つ採りますね。」

『バチン』

 

「次はしこりのところから採ります。4回か5回です。麻酔しますね。」

もう、私はうなずくだけ。左手で上半身の半分だけ掛かっているバスタオルの端をぎゅーっと

握って、右手はバンザイしたまま…。

「麻酔がきくまでしばらく待ちます。大丈夫ですか?」

またもやうなずくだけ。

 

麻酔をしたので、どの辺に穴をあけたのか、わからなかった。

ただ、穴をあけたところから針を差し込むときに「ちょっと上から押さえますよー」といって

乳首あたりをおさえて、ぐいぐい入れている感じがした。

麻酔とは、偉大なものだ。 痛くない。 でも、頭の中で怖い想像がわんわんしていた。

「はい、今のところちゃんと採れています。これで最後ですよ。『バチン』」

 

…はぁ。終わったか…。

 

「穴をあけたので、ちょっと止血しています。 止血用の医療テープを貼ります。

これは一週間したらとってください。 今日はお風呂はやめてください。お酒もダメです。運動もダメです。テープの上から防水テープを貼っておきますね。こちらは2日したらはがしてください。」

「麻酔はどのぐらいで切れますか?」

「3~4時間ぐらいです。」

「痛くなりませんか?」

「痛くなったら、市販の薬、鎮痛剤を飲んでください。」

「わかりました。ありがとうございました。」

 

彼女のところに戻って、事の顛末を一気に話した。

彼女は「あら、どうしちゃったのかな?暑くなっちゃってマスクから鼻出しちゃったのかな?」

私:「それと!一人だったの!!看護師いなくて…怖かったー、普通器械出ししたり、消毒したりする看護師、いるでしょう!?」

彼女「あら。私が行って手伝えばよかったわねぇ…。」

と、にこやかに言われて、なんだか拍子抜けして、無事に終わったことを感じた。

 

当初、15時から穿刺検査だったはず。

15時には会計も済んで、病院を後にした。

安心して、体の力が抜けたら、飲まず食わずだったことに気が付いた。

やたらとのどが渇いたので、とりあえずコンビニでお茶を買って一口飲んだ。

気のせいか?麻酔が切れてきた気がした。

 

「もし、痛くなったら、我慢しないで鎮痛剤を飲んでくださいね。我慢すると血圧が上がって、傷口から血が噴き出しますよ!」

穿刺検査の後、乳腺外科の看護師からこれからの予定と検査についてのレクチャーを受けているときに、注意されたところだった。

買ったお茶で、もっているロキソニンを飲んだ。

 

結局、ほとんどの検査を終わらせることができた。

今日は、診察だけで終わりだよねーって、来る時に話していたけど。

一日拘束してしまった。 申し訳なかった。

途中で一緒にご飯を食べようと思っていたのに、そんな時間じゃなくなった。

彼女の運転で、途中で何か食べようと、病院を出たが、私はもうお腹も胸もいっぱいだった。

彼女に「途中でどこかに寄ろう!」とは言ったが、きっと店に入っても大したものは食べられないと思っていた。

家まで半分くらいのところまで来て「やっぱり、今日はこのまま帰るね。」と彼女が言った。

 

彼女は、ベテラン看護師だ。