古いアルバムに思う事
実家を売りにだす。築年数としては35年ぐらい。
中は両親が居た頃のままなので少しずつ片づけでもと思い亡き父の部屋に。
いろいろとガラクタもあるものの、古いアルバムも数点みつかる。昭和10年生まれの父が生まれる前の
もので、祖父母の若いころなどの写真も見られる。
中でも気になったアルバムは祖父の弟さんの物。祖父の弟さんは遺影で顔なじみの人物。
田舎の家に行けば仏間に数枚は遺影が飾られていると思うが、その中の1枚の人って程度の認識。
ただ、遺影は軍服を着ているがどうみても10代後半の色白の好青年。本当は20代独身だったらしいが。
とまあこれが知っている情報。あと名前ぐらい。
彼の古いアルバムに写真がたくさん貼ってある、もちろんすべて白黒。
その中の1枚、夏の頃だろうか、中学か高校だかの友達と野原をバックに白いランニングシャツを着て座って写っている写真、
冬の頃だろう、ハットに外套を着て数人で写っているもの。当時はいまのようにポーズをとったり
笑っているものは少なく、被写体の人々はそれぞれきちんとカメラ目線。
他にはおそらく彼の妹さんであろうか結婚式の花嫁姿の写真などもあった。祝いの写真だな。
最後に遺影の元となった軍服の写真。澄んだ眼差しに、綺麗な眉毛、口は一文字にきりっと
結ばれているがどこかあどけなさが残る顔。
これを撮ったあとに残念ながら戦死という事だったんだろう。
ずっと仏間にあった無味な一枚の写真が80年後に動きと色と匂いを伴って私の中に現れた感じがした。
父方は誰も残っていないのでその人の事はこれ以上知る術はないが、私の中でその人の事を考え
思いを巡らすここ数日。昭和の時代と戦争と一人の若者の青春とそれを置き去ってきた現在と。
明るく彩られた事務所ではヒップホップが流れながらPCを叩いて仕事をしている自分と。
今後、彼の事は折あれば思い出したい。