長いな……
気になってトイレへ迎えに行くと
うぇっ……という声が微かに聞こえた。
え?
カチャ…
ドアが開くと顔面蒼白のサトシが出てきた。
「大丈夫?…吐いた?」
『…うん。心配かけてごめん……前は食べられたんだけど……』
「きっと、体調が悪いんだよ…」
何だか…こんなはずじゃなかった。
あんなに楽しみにしていたのに、お天気にも、サトシの体調にも恵まれず…予定が狂ってばかりで、出鼻をくじかれたようだ。
席に戻り、オレもまだ半分しか手を付けてないシチューを食べながら、提案した。
「今日は、もう中止して帰ろう…」
『……ごめんね。せっかく……』
「いや、良いよ…サトシの体調が心配だ」
食べ終わって席を立とうとすると
『あの……』
言いにくそうに
『今朝…叔母さんの機嫌が悪いみたいで……もしかしたら、僕のせいじゃないか?って思うんだ』
「考え過ぎだよ」
否定はしたけれど、その言い方で
家に帰りたくない事がわかった。
以前も、櫻井の家に居ることがストレスになってる。と聞いたし……
「帰りたくないの?」
『まさか……』
それにしても、今朝の母さんは普通だったと思う……
サトシのことも、気に入ってるようだったけどな……
機嫌が悪いと感じたのは何故だろう
幸いこの店から北鎌倉の駅は近い
近くにコンビニも無いから傘も買えず…
雨に濡れながらホームで鎌倉行きを待っていた。
雨は、増々強くなり
「結構な降りだね…」
『うん…』
ホームに到着した、電車の車内は空いていた。
座ってタオルで濡れた腕を拭いていると
隣に座るサトシの腕が、ピタリとくっついて……
普通なら嬉しいんだけど
体温が高いことに気づく……
「サトシ…熱があるんじゃない?」
綿の素材が吸い込んだのか、シャツまでびしょびしょだった。
「サトシ…寒いでしょ」
きっと、濡れないようにオレの方に傘をさしていたんだろう。
早く着替えを買わなければ
『大丈夫だよ…』
って言いながら、体が小刻みに震えている。
どうしたら……
「父さん……」
オレは心細くなって父に連絡を入れる
雨でサトシの体調が悪いこと
家に帰らせるのがキツそうだと伝えると
‹近くに医者か宿があれば、休ませたほうが良い›
とアドバイスをくれた。
そもそも、最初から父は1泊のつもりだったから…
でも、オレはサトシが大丈夫そうなら
家で休ませたいと思っていた。
気がつくと、電車は鎌倉に着いていた。
駅前の薬局でタオルと解熱剤を買って
まだ、何も食べてないサトシのために
軽いお弁当とサンドイッチも購入した。
「少し食べて、薬を飲もう」
『ありがとう…』
観光地だけあって
宿泊施設はそれなりにあった。