とんでもない高低差の道を抜け、やっと銭洗弁財天入口が見えてきた。
「このあと、北鎌倉に行こうか?」
『翔…無理しなくて良いよ。お天気も怪しくなって来たし。』
確かに雨が降ってもおかしくない状況だけど…お腹も空いてきたし。
銭洗弁財天で、お金を出して洗っている時だった。
突然の雨……
「参ったな……」
お札を干すところがあっても、これでは乾かないし…
「サトシ…傘持ってきた?」
『うん』
「オレ…持ってない」
えっ?!と言うほどびっくりしていたけど
『じゃあ、一緒にさそうか』
って、バッグパックから折りたたみ傘を出している。
ちょっとお土産を見て
「ねぇ…お守り買わない?」
『そうだね…』
今日の支払いは全部オレ……
タクシーを呼ぼうとしたけど
近場のタクシー会社は全然電話に出ない…
観光地の雨で、出払ってしまったのかな?
2人で入るには、傘が小さく
お互いの半身は濡れていた。
それでも、やっと送ったタクシーを見つけて、タンシチューの店に着いた。
お天気のせいか、並ばずに入れたのだけど……
サトシから、聞いていたように
店の名物というタンシチューとレアチーズケーキを2人分注文。
ここで、英気をつけて後半に臨むところだった……
だけど…
目の前に運ばれた料理を見て、サトシが困惑の表情を浮かべていた。
「美味そうだな。いただきます……智?」
『あ…うん。あの…これ…牛の舌なんだよね?』
「そうだけど……」
『ごめんなさい…ちょっと…』
「ダメ?」
あんなに楽しみにしていたのに
素材がわかると、尻込みしてるようだった。
仕方ないので、早めにチーズケーキを持って来てもらう。
と……
こちらも、少し口に運ぶと
「どう?」
『うん……ちょっと重いかな?』
チーズケーキが重いと……
『………』
「サトシ?」
どうしたのだろう?
サトシは黙りこくってしまった。
「あ、食べられなかったら、無理しなくて良いから……」
『あ、ううん…、ごめん、ちょっとトイレへ…』
「あ…あぁ…」
明らかに変だった
顔色が悪かった気がする
それから、暫くサトシは戻ってこなかった。