「君の母さんのことなんだ。」
『ママ…お母さんの?上手く話せるか、自信ないけど……。』
麗子叔母さんは、写真でしか知らなかったけど、美しい人だった。
『(自分が)産まれる前の事はわからないけど、覚えてるの子供の頃は、もう父親という人は、いなかった。』
「えっ?そうなの?」
親父から聞いていた話では、まだ学生だった麗子叔母さんは、英会話スクールの教師と恋に落ちて、父親の反対に逆らって、アメリカに駆け落ちした。というくらいだった。
美人で優秀だった麗子叔母さんは、お爺さんの自慢の娘だったそうだ。
『母さんは、日本語の他にスペイン語も話せたから、サンタアナ(ジョンウェイン)飛行場で働いていたんだよ。』
お爺さんだけでなく、サトシにも自慢の母親だったんだ。
再婚もせず、ロサンゼルス郊外で一人息子のために……
『病気になって、チョット日本行きたいって言うから………』
なるほど…
大体わかった…
『日本に来て、アシナガイクエイ…の……』
「……さぁ、そろそろ寝よう。眠いだろ?」
彼には血の繋がった父親は、いるみたいだけど、天涯孤独のようなものなんだ。
不安と悲しみの中で
突然、うちの親父が現れたって訳か……
『……………』
「サトシ?」
『………母さんは僕のために死んだ』
「違うだろ?病気だったんだよ。」
『CAをしたかったけど、僕のために諦めたんだ。地上勤務をして僕を大学に入れるために、無理した…』
サトシの瞳は、みるみる潤んできて
「わかった。もう話さなくて良いよ」
『僕は……病気に気づいてあげられなかった』
泣き出した彼を、思わず抱きしめた。
「違う、サトシのせいじゃない」
『しょお……』
サトシは明るそうに見えても、大切な母親を失って、悲しみと不安の中、自分を責めながら生きていたんだ。
いつの間にか、オレも泣いていた