オーストラリアに時差ボケは、無い。

サイクルもそう狂わないはずだ。

と、聞いていたけど疲労のせいか、やたらと眠い。


オレは、夜まで起きていられずに、ここ何日か、朝晩が逆転の生活だった。



そのせいだろうか?

この部屋を使っていたらしい

智という名の従兄弟の事など、すっかり忘れていた。

やっと、日本での生活に慣れた頃

夏休みも終わりに近づいていた。


チャリン………


あれ?

棚の上から紙とお金が落ちてきた。

それは、タクシーの領収書と小銭

え?


オレは思い出した。

あの日、タクシーに壱万円を渡したのは、その智だった。

「いっけねェ…返さないと」

高校生にとって、1万は大金だ。

オフクロの話だと、家にいた智に立て替えて貰ったというのだが、一向に返してる気配がない。



いつの間にか、リビングのソファが変わっていて、智が帰ったらここでオフクロは寝て、智は親父と同居するらしい。

それは、さすがに可哀想だけど……



だからと言ってオレは、部屋を貸すつもりは全く無い!



いくら従兄弟でも嫌なものは嫌だ。

何なら、ずっと松本の家にいて欲しい。


なんて考えていたら

“何言っているの!そんなのダメに決まっているでしょう!?”

珍しくオフクロの、イライラしている声がした。



「どうしたの?」

“あぁ、翔!あなたからも言って頂戴。智くんったら、この家を出ていくって言うのよっ”

「何がいけないの?」

“えっ……、翔……”

 


『出ていくって…………このまま松本さんの家で暮らさないか?って…お父さんに言われただけで……』

まぁ〜っ!松本さんのご主人ったらっ!!智くんは、ウチの主人の大切な妹の子供なのよっ!”


それにしては、今まで探さなかったくせに………



『オバサン…オレ…この家に居られますか?』

“当たり前じゃないっ!主人と同じ部屋が嫌なら、翔の部屋を使うと良いわ。”



「冗談じゃないっ!個室が良いなら納戸を片付ければ良いだろっ!」


身勝手な采配に、頭にきて声を荒げた時

智が踵を返すように、家を出ていった。


“智くんっ!”


慌てて追いかけるオフクロの姿が、スローモーションに見える……


それが、オレのせいでも

映画の1シーンのを見ているようで……

ワクワクとドキドキする……

楽しいような

不思議な気持ちになった。