「疲れた……」

とにかく、母親とリビングで腰をお下ろした。

“あなたってば、日付変更するの間違えたんじゃないの?”

お帰り

より、先に言う言葉か……


それより、アイツ何処行ったんだろう?

家に入った様子も無いし

外にもいない


“で?どうでした?シドニーは?”

「メルボルンだし。」

行き先も覚えてないのかよ。

だけど、つっこみどころは、そこじゃない。

「ねぇ、知らない人にタク代払ってもらったんだけど…」


“あぁ、そうね!忘れていた。サトシくぅ〜ん”

えっ?アイツの名前か?

そして

どこからともなく、音もせずに現れた色白の彼


「(やっぱ、見覚えない)…キミ…誰?」

“翔は、覚えてないかもだけど…麗子叔母さんの子供よ”

子供って言うほど小っさくないだろ


父さんに、麗子って妹がいたのは知ってるけど……

確か、結婚を反対されたハーフの男と海外に駆け落ちして、爺ちゃんに絶縁されたって聞いていたな…

その子供かぁ……

でも……それが何で今頃……


ピンポーン

あぁ、また邪魔が入った


“あら、潤くんいらっしゃーい”

え?潤?何でまた?


松本潤って、生徒会長の…

今まで、家を訪ねてきた事なんか無いのに………何で、オレが帰ってるのを知っていたんだろ?

もう、時差ボケも手伝って頭がパニックになりそう



《おばさん、お邪魔します。》

慣れたように、スリッパを履いた会長が我が家のリビングに現れた。


《あれ?櫻井君…留学から帰っていたの?》





「今、着いたばかりだよ」

オレが、居るのを知らないで来たんだ。


“Coffeeでも入れるわね”

《あぁ、お構いなく。でも、サトシ…》

さっ、サトシ?

既に知り合いか?!

ってか、智目的で来たんだ!コイツ……


《翔さんが帰ってきたんじゃ、部屋はどうするの?》

『ウーン……廊下で寝たいかなって……』

初めてコイツの声を聞いた

男子にしては肌のように透明で細い

その第一声が

廊下で寝たいぃ………?


どんな環境で暮らしていたんだよっ!


“ダメダメ!主人に怒られちゃうわ。そのまま翔と使えば良いじゃないの”

「え?オレの部屋を使わせていたの?」

呆れた……


“あの部屋は一番広いんだし、もう一つベッドも入るでしょ?”

『it ok……ロスでも…』

えっ?ロサンゼルス?コイツアメリカに居たんだ


“確かに、外国では、部屋があるのにわざわざ廊下で寝てる人がいるのは知ってるけど。アメリカの住宅ほど、日本の廊下は広くないし。あくまでも通路なのよ。部屋にできる程の広さはないわ。”

『?』



《…おばさん、今日は翔くんも疲れているだろうし。夏休み中だけでも、智くんはオレの家に来てもらうってのは、どうですか?》

それは有り難い!

夏休みと言わず、一生でも良いくらいさ。


“でもあなたのご両親の許可もなく……”

《大丈夫ですよ。英語の勉強にもなる》

会長グイグイ来るな。



“でも、主人が何と言うか…”

まだ、オフクロは煮えきらない。

《………ダメならまた、送ってきますから。サトシ、着替えと宿題を持ってきて…》



夏休みが終わるまであと2週間

少なくとも、2週間はオレの自由は守られそうだった。





10代の頃ロサンゼルスの知り合いの家に行き、立派な寝室があるのに、主人は廊下で寝起きをしていた。光が燦々と照らす広い廊下の行き止まり空間はどこの部屋よりも開放的で憧れだった。

その光景は今でも斬新に焼き付いている