智くんが、立ち上がって俺に渡したのは、一冊のファイルだった。
『はい、お終い』一瞬だけ見えた気がした、目はジュニア時代の俺だった。
サッとファイルを取り上げられてしまった。
あっけに取られてると
「翔くん、駅まで送っていくよ。」
結局帰りたいと、言わないうちに強制的に駅まで行かされることになった。
玄関にいくと
「お構いもせずに、ごめんなさいね。この子ったら、いつもこんな風で、ご迷惑かけてるでしょ?」
「いいえ、そんな。」
お母さんに言われた。
「仲よくしてやってくださいね。」
ヤッパリ、親だな。
心配しているんだ。
(仲よくどころか、愛してます。
いつも、貴方の大事な息子さんを、抱いてみたいと思ってます。)
そう言ったら、二人はどんな感じになるだろう。
言ってみたい。
イタズラ心がウズウズしてくる。
外に出ると、智くんが待ちきれないように言った。
『さっきのファイルさ、見たでしょ❓翔くんは、取材が沢山あって忘れていたと思うけど、俺にとっては翔くんとのツーショットは、宝ものなんだ。カメラさんに言って、大きくしてもらった。』
「え?わざわざ?……なぜ?」
『なぜ?………翔くんはさ、俺との事は自分の片思いだと思ってるみたいだけど、先に好きになったのは、多分俺だよ』
思わず足が止まる。
衝撃的だった。
まさか、智くんにもその気持ちがあったなんて。
想像もしてなかったけど。
頭が、真っ白になった。
「それ………ほんとう?」
やっと言えた言葉
嬉しすぎて言葉が出ない
その様子に、智くんはちょっと笑っていた
『本当だよ。可愛くて優秀で、同じグループになれた時、とても嬉しかった。』
それを聞いて俺はさっき、智くんをベッドに押し倒したことを、心の底から後悔していた。
あんなことしなくても、智くんは手に入れられた。
今夜の智くんは、素敵な饒舌だ。
『相葉の家に行ったとき、今度は俺の家にきてもらって、翔くんにファイルを見せて、気持ちを伝えようと思って』
俺は夢にも昇る気分だった。
「ありがとう」
胸がいっぱいだ。
駅が見えてきた。
あ~なんて近いんだよ。
もっと沢山話したかったなぁ……
やっぱり大学なんか遅刻して、泊まらせてもらえば良かった。
改札を通ったら、振り向いて智くんを見た。
『遠くまでありがとう。
翔くんは、俺みたいになっちゃダメだよ』
え?
「どういうことだよ?智くん?」
意味がわからない
慌てて改札を通ろうとしても、ブロックされた。
『大学に遅刻するなよっ』
そう言って、智くんは今来た道を走って行ってしまった。
どういう意味だよ
ただ、俺にとっては良い意味ではないのがわかった。
おれは、駅の改札で呆然と立ちすくんでしまった、