前回の記事を書いてみて、「自分の一面だけを必要とされることの悲しみ」について考えました。
それは、「人を愛するとはどういうことか」に通じるものです。
「愛すること」の価値観は人によって違うと思います。
私のように「その人を深く理解し共鳴すること」が「愛すること」の人もいますし、その人に「いい暮らしをさせること」が「愛すること」の人もいて、それぞれにその愛を受け取りたい人がいます。
今回お伝えする絵本は、私がその価値観にとても共感できたものです。
ヒグチユウコさん作「すきになったら」 です。
私は「星の王子さま」の記事でも書きましたが、詩や絵本、小学校低学年レベルくらいの児童文学といった、「誰にでもわかる簡単な言葉で、物事の本質を伝える」作品が好きです。
本当に大切なことや物事の本質は、簡単な言葉でこそ伝えられると思っています。
私がこの本に惹かれたのはまずタイトルです。
「すきになったら」
「好きになるということ」「愛するということ」は多くの人にとってのテーマでもあります。
このあまりにもシンプルで直球なタイトルに惹かれました。
そして、表紙の鮮烈な美しさにも惹かれました。
真っ黒い背景に「すきになったら」という文字がピンクでくっきり、という色のコントラストがとても美しく感じられました。(ピンクは大好きですし。)
実は私は絵本が好きと言いながら、言葉への興味に比べ「絵」にはそんなに興味がないのですが、表紙に描かれた少女のまっすぐな瞳と、凛とした立ち姿にはとても惹かれました。
そして絵本の中身、文章についてですが、絵本らしくというか、絵本以上にとてもシンプルです。
まず、本の印象を決める大事な部分である冒頭の見開き2ページが、
「すきになったら
しりたくなる」 です。
私はこのシンプルさと核心をついた感じが大好きです。
当たり前なことを言っているだけのようにも感じるかもしれませんが、好きになったら「知りたくなくなる」人もいるのです。
自分の幻想を壊したくないからとか、自分の価値観に合わせてほしいからという理由で。
でもそれは、相手の本質部分を好きになったわけではないからだと思います。
直感的に相手の本質部分を好きになった場合、どんなことでも知りたいと思います。
どんな部分だって、相手の本質に近づく大切なピースです。私は一つだって取りこぼしたくないです。
そして次のページでは、
「あなたのすきなものを すきになったり」
その次のページは、
「あなたにとって だいじなものを りかいしたくなる」 と続きます。
「相手の好きなものを好きになる」とは「無理して相手の好みに合わせる」ことではありません。
好きになった時点でおそらく「本質」が似ているのですから、「好きなもの」も分かり合えると思います。
相手の「好きなもの」を通じ、更に自分の世界が広がるという嬉しい予感もあると思います。
「相手にとって大事なものを理解したい」もそれと同じような思いですが、この、「大事なものを理解したい」というのが、次のページの文章、
「だって いっしょにいたいから」
に続くとても大切な「思い」なのです。
人と一緒に過ごして行く上で「相手の大事にしていることを尊重する」というのは、最も大切なことかもしれません。
たとえそれが自分には理解できなくても、大事とは思えなくても、です。
「そばにいたい」なら、それは「絶対条件」かもしれません。
私はこの「そばにいたい」から「相手にとって大事なものを理解したい」という思いは、とてもとてもピュアな「愛」だと思います。
そもそも、ただただ「そばにいたい」と思えることが私にとっては、「好きになる」ということそのものです。
相手に自分の幻想や価値観を押し付けたい人、相手を自分の都合よく動かしたい人には、ずっと一緒に居て相手の様々な面を見せられるのは耐えられないでしょう。
ただ「そばにいたい」という思いは、今までの記事で語ってきましたsyrup16gの曲「your eyes closed」や「(I'm not )by you」などにも表現されていると思います。
また少しだけ触れた絵本「100万回生きたねこ」にも、素晴らしい形で表現されています。
感情の共鳴について表現した部分もあります。
「すきになったら いっしょにわらいたいし」
「あなたのかなしみを しりたくなる」
そしてこの後には、
「どんなはなしも うけとめてあげたい」
「ひとことも ききのがしたくない」 というように、
「「悲しみ」などのマイナス感情も含む相手の全てを知り受け止めたい」思いが描かれています。
とてもとても共感できます。
ラストの、「すきになったら わたしのいちぶは あなたになる」 という部分は、tamakai先生のブログより「愛すること」について書いた記事でも挙げた、
「自分を忘れること、つまり相手にシンクロしていって、自分の意識の何割かを眠らせてしまうこと」
ということにとても共通するものを感じます。
この絵本はこんなにも深い内容を、とてもシンプルで優しい言葉で表現されています。
そして絵の方では、少女の表情や二人が徐々に距離を縮めていく様子がとても繊細で美しく、ラストの内容を表わす絵は、とても鮮烈で印象的に描かれています。
「人を愛する気持ち」をとてもシンプルにやさしく、美しく表現した素晴らしい絵本です。
このような、人間の根本的なこと、哲学的なことこそ、「絵本」という形で表現してほしい、と思える1冊です。
私は、夕方の一番美しく人恋しい時間になると、この本を開かずにはいられなくなる時があります。
私にとっては「なしでは生きられない」本です。
それではまた。