「私のお母さんは首を吊って死んだんだ」
泣きながら叫ぶ母は、泥酔状態でハンドルを握っている。
私は小学校高学年、2つ上の姉と7つ下の弟も乗っていた。
誰も、何も言わなかった。
左右に大きく揺れる車体が
目的地にたどり着けることすら、願っていなかったと思う。
今まさに訪れるかもしれない死を、静かに受け入れようとしていた。
そもそも、自宅には泥酔状態の父がいて
いつものように怒鳴り声を上げ、母に手を上げ
「全員この家から出ていけ」と言うので
とりあえず、隣町のいとこの家まで行くことになったのである。
母の運転は神がかっていて、全ての障害物を乗り越えた。
叔母さんが玄関の扉を開けると、母は抱きついて泣きわめいた。
「こんなに震えて・・・」
叔母さんが私を見て放った言葉で、自分が震えていることに気が付いた。
父親の怒鳴り散らす声が怖かったし、
ここにくるまでの道中で死ぬかもしれず、恐かった。
しばらくすると、父が追ってきた。
タクシーにでも乗ってきたのだろうか。
伯父さんが玄関に出て、今日は帰るようにと促してくれた。
そこから私たちはどうやって眠りについたのか、全く覚えていない。