こんばんは🌙



本日は、
2週間前 pixivfanboxで先行公開した『あと3日・・・あと2日・・・あと1日・・・』の一般公開です。


どうぞお楽しみ下さい♪



pixivfanboxには新しい作品が掲載されていますので、
そちらの確認も是非お願いします。





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あと3日…
あと2日…
あと1日…
(今日はもう・・・・・・・・・)




キーンコーンカーンコーン
「お疲れー!」
「お疲れ様ー!」
部活終了の鐘が鳴る。


6月3日、日曜日。
高総体の地区予選2週間前。

今日はもう覚悟を決めなきゃいけない・・・




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




私はこの学校に流れるように入学した。
偏差値的にちょうど良くて、将来大学に進学できる有望な高校。
学校説明会には1度訪れたくらいで、学校自体には特に興味も湧かず、名種高校は私の大学へのステップアップの為の学校。
そう思っていた。

4月、入学して2週間。
私は一つの決断をした。

・・・『部活動』・・・
入学時、私が想像していたのは、
(帰宅部か、ゆるい部活に入れればいいな…)くらいの軽い気持ちだった。
名種高校にも文化部はある。
合唱部、吹奏楽部、美術部・・・。
ただ入学して初めて知ったのは、文化部でもコンクールで賞を取る、展覧会に出す、県や全国大会を目指す・・・ そんな目標を掲げる部活ばっかりなこと。
合唱や吹奏楽部はコンクール活動への参加が積極的でもちろん論外、美術部も年4回の作品コンクールへの応募があって、名種高校は運動部も含めてどの部活も名門高校だった。

(私にはとてもできない・・・)
帰宅部に入るのが無難、、、心からそう思った。


でも、、、
そうはいかなかった。

「うちの高校は帰宅部はないわよ!?」
担任は驚いた顔をして、私にそう告げる。
「……へ!?」
思わず間抜けな声が出た。
「帰宅部がないって……。じゃあ、私はどうすればいいんですか?」
担任は困った顔をする。
「うーん、部活は絶対入らなきゃいけないの。特に文化部は毎日練習があるし大変かな…」
(そんな・・・)
私は絶望した。
帰宅部が無いなんて・・・。
そうは言われても、部活をしようなんて意思が私にはない。
「どうしてないんですか?」
「部活する方が勉強にも打ち込めるからだよ」
名種高校は『部活動が人を作る』って理念の高校で、部活への参加は校則で決まってて、帰宅部は許されない。
高校は勉強に専念したかった私の計画は、一瞬にして崩れた。

しばらく考えた後・・・
こんな妙案を思いついた。
『運動部に入って、選手にならずに、早退する』
その時はいいこと思いついた!…って思ったんだけど、
それが結果として、最悪な運命を辿ることになる。
一番安泰そうなバトミントン部で。

入部してから1ヶ月は平和だった。
適当に練習して体力温存、17時半には帰れて19時から塾。
選手になろうって思ってないから本気は出さない。ゴールデンウィークは家族の用事って理由で大半休んだ。
そして月日は流れて高総体の選手決めの季節。1年生にもチャンスがあって、何日間かかけてリーグ戦が行われた。
私はあっさり惨敗した。
相手はどの子も私より経験があって上手な子ばかり。
負けて当たり前だった。
悔しいとか感じない。
ただ、、「やっぱりね…」って思ったくらい。
淡々とリーグ戦は終わった。

それから少しして、
5月30日、木曜日のことだった。
「ではこの6人の子が選手に決定しました、おめでとう!」
「おめでとー!」
「頑張ってねー!」
高総体地域予選の詳しいプリントが配られる。
日程、会場、ユニフォーム等々・・・
私はそこに目を疑った。
『試合当日は選手、応援部員ともに規定の髪型と服装で身なりを整えて、名種バド部として立派な容姿を心掛けるように』
(規定の髪型・・・・・・ってなに?)
「・・・・・」
「…………。それから…、1年生は初めてだと思うけど、選手の子達は動いた時に邪魔になるから、きっちり目にかからないショートカットにしてきて下さいね」
「選手の子だけだと可哀想だから、マネージャーも、応援の子も、名種バド部みんなで揃えて、選手を応援しましょう!」
「どれくらい切ればいいかは、先輩に教えてもらうか、指定の美容院さんで聞いて下さい」
「バトミントン部の指定の美容院は、商店街のヘアールームすずねさんです。月曜日までにみんな切ってきて下さいね」
(えっ、うそ)
私は顔をしかめたけど、『ショートカットにしろ』って先輩の指示に、誰も異論を唱える人はいなかった。
「ショートにしよう!」
「どんな感じがいいかな〜」
「◯◯先輩〜!」
同級生の部員のみんなは好意的にすら受け取ってた。
(なんで?)
みんながどうして髪型を変える気になったのか、私には分からなかったし、聞く勇気もなかった。
「………優子さんは?」
「え、えっ?」
「あっ、ごめん」
私はショートカットにするなんて一言も言ってない。
みんなは楽しそうに話してるけど、私はそんな気分じゃなかった。

実際、部活が終わってから何人かはすぐ髪を切りに行く約束をしてた。
少し考えてみれば、ゴールデンウィーク辺りにはもう短くなってた子も多かったと思う。この時点でポニーテールにできるくらい長かったのは私くらい。
私もお店まで行ったけど・・・・・・・・・その日は勇気が出なかった。
(きっと今頃…みんなあそこで切ってるんだろうな・・・)
同級生の子と一緒ならまだ楽だったかも。
そんな考えがよぎりつつ、そのまま切る機会を逃した。
「どうしてそんなに髪を伸ばしているの?」って聞かれたことがある。
(どうしてだろ・・・)
本当にそう思った。
髪を切りたくない……ただの言い訳だったかもしれない。
髪に対して執着心なんてないけど、
勉強だけしていたい私に、大して興味もない部活の為に髪を切らなきゃいけないのは、ちょっと抵抗があった。
お母さんはロングが好きだし、他の女の子も「優子はショートよりロングがいい」って言ってる子も多かったから。
今までの私はそうやって心の中で言い訳してた。


平日の学校が終わって、
金曜日の夕方が過ぎ、
土曜日になった。
すると何人かが髪を切ってきた。
(金曜日の夕方って美容院、行きやすいから・・・)
先輩と同じ髪型になった子や、少し気合いが入った子もいる。
(えっ、あの子も!?)
練習はしない、マネージャーの女の子まで本当にショートカットになった。
みんなとおそろい・・・さっぱりしちゃった。

同級生の部員はみんな短くなってる。
土曜日の練習は、切っていないのは数えるくらい。
(みんな切ったんだ・・・)
髪を切ったみんなはなんだか大人っぽく見えてる気がした。
だけど私はそれが想像できない。
切らなきゃいけないってはやる気持ちと、
切りたくないって意地がせめぎ合って、心が揺れた。
(でも、このまま……切らないままってのは・・・)
そんな思いを抱きつつ、
「優子さんはどうするの?」
って問いに、
私はまたはぐらかしてしまう。
「ん……ちょっとね……」
(耳出しのぱっつんのショートヘアなんて・・・)
(まだあと1日あるから、、、)
土曜日の夕方。
私は結局、美容院を素通りした。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



そして、今日までずるずる決断の日を先延ばしにしてしまった。



6月3日、日曜日。
高総体の地区予選2週間前。

今日はもう覚悟を決めなきゃいけない・・・




高校には近くに商店街がある。
駅までの、古い商店街。
制服や運動着、文房具や学校指定のノートまで。この商店街で全てが揃う。地域や学校の為の商店街。
私もここを通って駅に行くんだけど、今日は寄らなきゃいけない場所があった。
丸刈りの野球部は『理髪 佐藤』、
好きな髪型ができる陸上部は『Barber やまだ』、
女子もスポ刈りのバスケ部は『ヘアサロン花』、
耳かけショートのバレー部は『理容KING』等々…、部活動によって指定の所が多い。
バトミントン部の指定の美容院は、
『Hair Room すずね』
商店街のちょっと外れにある、少し古そうな美容院。
最近帰るたび、ちらっと見てた。
一度だけお店の前を歩いたけど、中の様子はカーテンで全然分からない。
不安だった。
そして今日も、もやもや考えてるうちに商店街に着いた・・・。

美容院のある通りで足を止める。
“ クルクルクル…… ”
いつも通り、ピンク色の絵が描かれたサインポールが回ってる。
(やってる・・・)
今日は行かなきゃいけなかった。
明日は月曜日。
ふと髪に触る…。
ため息しか出ない。
立ち止まってる間、何人も部活終わりの同級生が横を過ぎていく。(なにをしているんだろ、この子・・・)って視線が痛い。
でも行かなきゃ・・・
そして意を決し、美容院に足を向けた。

ドアの目の前。
こんなに美容院の近くに立ち止まったのは初めて。
ちょっと間を空けて、
少し震える手で、ドアノブを押した。
恐る恐るお店の入り口を覗き込む・・・。
“ チリンチリーン…… ”
「・・・・・・」
「こ、こんにちわぁ・・・」
………
………
(誰もいないのかな・・・・・・?)
ドアカーテンの奥に隠された店内は、少し薄暗くて、古めかしい白で統一されたお店だった。
………
………
「あのぉ・・・」
と、また恐る恐る店内に声をかける。
(あ、、、)
奥から人が出てきた。
「はい」
「いらっしゃい」
私は思わず、後ずさる。
出てきたのは、40代後半くらいの女性だった。
「あら、どうしたの?」
「あ、あの・・・」
「はい?」
「あの……髪を切りたくて……」
私は下を向いていた。
(やっぱり無理!)って心の中で叫んでた。
「カットね」
「はいはい、こちらへどうぞ」
おばさんは少し無愛想に言った。
かばんを置いて、目の前の赤い古洒落た椅子に腰をかけた。
「お姉さん初めての名高の学生さんだね」
「あ、はい・・・」
「何年生?」
「い、1年です・・・」
「名前、なんて言うの?」
「ま、丸井優子……です」
「丸井優子さんね」
「は、はい」
おばさんは無愛想ながら、落ち着いたトーンで話す。
だから余計、私の緊張は解けない。
「じゃあ今日はどうする?」
「え、えっと・・・」
この質問が来るのを待ってた。。。
「み、みじかく・・・」
・・・
・・・
・・・
「んっ?」
「どのくらい?」
私は決心して言ったのに・・・・・・
(この人、、、分かってない!)って心の中で叫んだ。
「えっと、その・・・・・・」
「私、今年からバトミントン部で・・・・・・」
・・・
「あっ、そう」
“ ガタッ ”
その瞬間、急に隣の戸棚を開けた。
「バド部だったのね」
「なら最初からそう言ってちょうだいよ」
“ バサッ ”
・・・・・
“ キュキュッ ”
・・・・・
それから散髪姿になるまでは、あっという間。
おばさんは髪をカットする為のケープを取り出して、私の肩にかけた。
髪をひと束ねにされて、
ケープが首できつく括られる。
今まで伸ばしてた髪の毛が、まだ無垢なケープに広がった。
鏡に映ったおばさんの手には、いつの間にか櫛とハサミが握られていた。
・・・・・・・・・
これから起こる事を想像して、私は緊張のあまり、目を瞑ってた。
・・・
・・・
“ ジャキッ! ”
おばさんの手つきは、私の想像を超えていた。
(一番てっぺんからいくの・・・)
バサバサ…毛が降ってくる。
“ ジャキッ ”
“ ジャキッ ”
“ ジャキッ ”
そして、下の方にすぐハサミが入る・・・
おばさんの手は止まらない・・・
私は目を瞑ったままだった・・・
それでも分かる。
櫛がうなじに何度も当たる。
“ ジャキ、ジャキ、ジャキ…… ”
“ ジャキ、ジャキ、ジャキ…… ”
(刈り上げてる・・・)
(きっと・・・)
嫌でもわかった。
ケープの胸にかかってた髪も取り上げられる。
(あっ、そんな・・・!)
鏡で見える位置の髪が、躊躇なくばっさり切られた……………。
耳のあたりの髪の毛は、どんどん短く刻まれていく。
今まで聞いたことないような、はさみの音。
おでこに指が触って、
ふと目を開けたら・・・
おばさんは、私の真ん前で、 私を見ながら髪を切ってた。
(あ・・)
乱雑に前髪を梳いてる。
真っ直ぐだった前髪には、ソフトな感じで段が入った。
耳もくっきり出てる。
産毛ばかりだったもみ上げはシュッとした。
みんなと同じ髪型だった。
私は眉毛がちょっと太いくらい。
鏡に映ってる私はなんだか恥ずかしそう。
今まで見えなかった顔を晒してるみたい・・・。
「初めてでしょ?」
「・・・・・えっ?」
「ショートカット」
おばさんは、突然そう言った。
私はコクリと頷いた。
「だと思った」
おばさんは微笑んで言った。
(いまの、なに・・・?)
おばさんはずっと手を動かしたまま。
その後もひたすら梳かれて、ロングの頃の重たさはすっかりなくなった。
あっという間に時間は過ぎていった。
・・・
「・・・・・」
私はただ頷いた。
さっぱりはしたけど、鏡に写ってる私は知らない誰か。
つんつん頭の女の子。
それが自分だって分かっていても、なんだか変わった自分が理解できてない感じだった。
(こんなの私のイメージじゃない・・・)
そう思ったけど口には出せない。
テントの様なケープの窪みには切られた毛が沢山溜まってる。
その髪の毛を今すぐ返してほしい。
(みんなはこんな髪型にされてどう思ったの・・・!?)
って、心底思った。
おばさんは私のケープを外して、切った髪を払い始めた。
そして、
「はい、いいわよ」
「丸井さん、1年生だから2ヶ月後にまた来てね」
「耳に髪の毛がかかったらまた刈り上げるから」
・・・
・・・
「ありがとうございました」
「また来てね」
おばさんは、最後まで無愛想なまま私を送り出した。
(また刈り上げる・・・)
その言葉は耳から離れない。
お店のつんとした匂いも。

外に出たわたしはいきなりショートカットを痛感した。
(はっ・・・冷たっ!)
(くしゅん!)
頭をぶるぶる振った。
ポニーテールの時とは違う、全然違う、首まわりの冷たさ。
通り風が運動着の襟をさらっていく。
あざ笑うかのように涼しい。
思わず、手で首を覆ったらもっと酷いことになった。
“ ザリザリッ ”
(えっ、え?)
もう一度、触った。
“ ジョリ、ジョリッ・・・”
やだ、やだ。
嫌すぎる。
襟足が触ったらチクチクする。
髪の毛が尖ったように。
指先で触るだけでよく分かる。
“ ジリ、ジリッ・・・ ”
“ ジョリリリリィィ・・・・・・ッ ”
(みんなこんなことになってるの!?)
イヤ、いやっ・・・
やだぁ・・・
さらさらだった髪が、パサパサな髪になって波立つ。
耳の周りの毛も全部そう。

私はとにかく下を向いたまま走った・・・
駅までの商店街を全速力で走ってた。
電車がくるまでホームで待ったけど、その間もずっと俯いてた。
(恥ずかしくてたまらない・・・)
(こんな姿、誰にも見られたくない・・・)
初めて女の子ってどういうものか感じた。
(この刈り上げ、恥ずかしさ、すぐに慣れるのかな・・・)
(みんなもそうだったのかな・・・)
そう思って仕方ない。
「ただいま・・・」
「おかえり」
家に帰るとお母さんが迎えてくれた。
「どうだった?」
「・・・うん」
私は小さく頷いた。
髪を切らなきゃいけないことをお母さんは知っていた。
「あらっ、可愛いじゃない!」
お母さんは私の頭を優しく撫でてくれた。
“なでなで”って言葉がぴったりの優しい手つきだった・・・。
「ショートカットの優ちゃん」
「似合ってるわよ」
「あ、ありがと・・・」
私はお母さんに褒められて、内心は少しだけ嬉しかった。
“ ジョリッ、ジョリ・・・ ”
お母さんも興味本位で刈り上げを触ってくる。
「髪を切るのは平気だった?」
「あ、うん・・・」
「優ちゃん、大人になったわね」
なんだろう・・・って少し思ったけど、
にこにこのママに(やめてよ・・・!)なんて言えなかった。
(短くなったのに・・・!)ってふくれてたのに。ママに今まで髪型なんて褒められた事なかったから。

自部屋に戻って、鏡を見る。
帰り道では思わなかった事が心に浮かんだ。
(明日、これで学校行くんだもんな・・・)
みんなにどんな反応されるか。
昨日まではここにポニーテールが揺れてたのにな・・・

もう一度、刈り上げを触ってみる。
“ ジョリッ、ジョリ ” 
「あっ」
耳の周りがチクチクする。
「やだぁ・・・」
思わず声が出る。
はぁ・・・。
私は深いため息を付いた。

(やっぱり恥ずかしいよ・・・)





ーおわりー





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