おはようございます♪





本日は新しい小説の公開です🙌
pixivで昨日公開しましたが、こちらでも載せてみます。


・・・・・


サンタさんのバイト。
定番のクリスマスケーキ🍰、広告チラシ配りや、ファーストフード。
12月になるとよく見かけますよね♪
同級生も24日はサンタの衣装を着て、接客するみたいです🤶

サンタの衣装のおじさんが立ってるか、大学生のアルバイトの女子が立っているか、それだけでインパクトは断然違いますよね。
だからじゃあ・・・
現実はあり得ないけど、あってもおかしくないような、そんな世界を書いてみました。


・・・・・





12月初め

雪もちらついてきた冬の初めに、私はバイト探しを始めていた。
飲食業、サービス業、力仕事……いっぱいある。
大学生には選び放題。
どの仕事も魅力的に見える。
21年間、私はバイトなんてしてきたことがなかった。
実家暮らしで楽。欲しい物も、旅行も、高いお小遣いのおかげで、苦労することは一切なかった。
ただ就活の終わった今のわたしには、全く社会経験がない。
突然の社会初挑戦は辞めておいた方がいいよってどこかで聞いた。
みんなはアルバイトが大変って言うけど、
私も体験してみたくなったから、求人サイトに応募してみることに決めた。


求人サイトに応募してから2日。
何件か通知はもらったなかで、心惹かれるアルバイトがあった。
・・・
『期間限定❣️』
『風船を子供達に配る、サンタさんのお仕事』
『女性のサンタさんを募集中🎄』
『時給1150円』
『一日数時間の勤務でOK!』
『賃金は契約でお支払い』
・・・
子供達に風船を配るお仕事で、時給が1500円も貰える!
何より気に入ったのは最後の『一日2,3時間でOK』
社会経験始めたての私にはぴったりのアルバイトだった。
(これはすぐ応募しなきゃ!)
私の直感で、慣れない電子履歴書を作りながら、その求人サイトのページに応募した。
数分後、返答のお知らせにはあっさり採用。
そのメールが来た後、求人はもう消えていて、
(あぁ、間に合ってよかった〜!)
(人気のバイトなのかな。どんな人が来るんだろう・・・)
って思い込みで楽しみに浮かれてた。
メールには、
『12月10日土曜日に衣装合わせを行います。16:00に××市××町……にお越し下さい』
と綴ってあった。
1週間後の土曜日、その1週間はワクワクが止まらなかった。


比較的新しめの雑居ビルの5階。
『ハマダクリエイションズ』
よく分からない社名のガラス扉を開けて、中へ入った。
中には一人の男性。
「新人のアルバイトの方でしょうか?」
「はい」
「ようこそお越しになられました。一応お名前をお伺いしても宜しいですか?」
「鍋田美玖です」
「ご確認が取れました。本日はお越し頂きありがとうございます。それではこちらへお願いします」
隣の部屋に案内された。
入った先にはサンタの衣装があった。
「手前からS、真ん中がM、奥がLサイズです。上と下、サイズは合うものを着て下さい。
 各衣装とも昨年着用した物をしっかりクリーニングしていますので、安心してもらえればと思います」
「こちらの部屋、またはこのフロアの女性トイレで着替えて、一度見せて頂けると幸いです」
腰の低いお兄さんにそう言われて、さくっと着替えた。
着替えるって言っても、上も下も、今のお洋服に重ねて着る感じ。
Sサイズでどっちともぴったりだった。
部屋には鏡があって、上下サンタさんのお洋服になった自分を見ると、、どこか不思議で笑っちゃう。
部屋の外で待っていた、若いお兄さんに見せた。
「おお、お似合いですね」
「これで大丈夫ですか?」
「はい。あとこちらの服を着て、早速本日から風船配りしてもらいますが、大丈夫ですか?」
「はい」
「それでは先に契約書の方にサインだけ頂いて宜しいでしょうか?」
目の前のテーブルには、さっきはなかった1枚の紙があった。
それに見るからに札束封筒も。
紙面は契約書で、さくっとサインした。
「それではこちら、15日分の給与となります。どうぞお受け取り下さい」
「ちゃんとご確認して下さいね」
お兄さんに催促され、1枚ずつ数える。
しっかり9万円が入ってた。
「大丈夫です、ありがとうございました」
「それではアルバイトの方、頑張って下さいね」
「はい」
「それじゃあ一度そちらのサンタの服を着替えてもらっても宜しいですか?」
「はい」
「ん、このまま外出るんじゃないんですか?」
「私はもう行けますけど」

「17時から床屋予約してますので」

「?」
「床屋?」

「はい」
「床屋っていうのは?」
「お姉さんの予約」
「えっ?」
「え?」
・・・
・・・
・・・
しばらく沈黙が続いた。

「17時から向かいの床屋を予約してあるので、そのサンタの服じゃ恥ずかしいし、床屋さんもやりにくいので、先程の服に着替えてきて頂けますか?」
「ん、えっ、私の髪を切るってことですか?」
「はい」
「写真の長さまで。」
「写真?」
「求人ページの写真」
そんなのあったっけ・・・って困惑してたら、お兄さんが即座に見せてくれた。
求人サイトのトップの画像の3つめに写真があった。
“このくらいの長さになります”
と添文も一緒に。
「えっ、この長さまで切らなきゃいけないってことなんですか!?」
「そうですけど」
「え・・・。ちょっとそれは・・・」
「そうは言われましても」
「今の長さじゃ駄目なんですか?」
「まぁ、うん」
「女性のサンタさんってやっぱりショートボブじゃないと」
「えぇ・・・」
「今の長さも、あなたの彼氏さんなら可愛いって言ってもらえるでしょうけど、一般人を相手にしてもらうので、それなりにインパクトがなくては」
「それに今の長さじゃ、流石に長いですしね・・・」
「えぇ……」
・・・
・・・
・・・
気まずい空気がずっと漂ってた。
またしばらく時が経って、
「そろそろ15分前なので、行きましょうか」
……
「えっ、いや・・・」
「すみません、決まりなので」
「じゃあこのアルバイトは・・・」

「って言われましても、もう捺印は頂いております」
「契約書にも、貴方の髪型については契約期間中はこちらの指示に従って頂く要項もありますので、申し訳ありませんが」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
今まで愛想良く対応してた、お兄さんの突然の辛口にぐうの音も出ない。
私が理解して納得するのを待ってる。
時は少しずつ進む。
「じゃあ、着替えなくてもいいですか?」
「そろそろ本当に行かないと」
「はい・・・」
諦めた。
5分考えて、私にはどうする事もできない状況なのを悟った。
服なんてどうでもいい。
とぼとぼ下を向きながら階段を降りる。
お兄さんの後ろを歩いて、雑居ビルを出たら本当に向かいに床屋さんがあった。
お兄さんは躊躇わず、その扉を開けていく。

“ チリン♪ チリン♪ ”

「濵田君、いらっしゃい」
「こんばんは」
「今日の予約はモデルさんのカット?」
「そうです」
「濵田君も切ってくか?」
「いや、俺はいいっす。年明けにまた来ますから」
「そっか。待ってるわ」
「今日は後ろの女の子かい?」
「はい」
「あれ、今年は衣装つきなの」
「あぁ…まぁ・・・」
「やりにくいですか?」
「いや、いいよ」
「じゃあお姉さん、こちらへどうぞ」
おじさんの手招きに、足を進めるしかない。
古びた床屋の椅子。
私は観念して、そこへ座った。


「濵田君、こちらの女性の長さは、今年も同じでいいの?」
「はい」
「いつも通りでええわやね」
「はい」
「まぁ・・・、慎重にやってあげて下さい」
「そうは言われてもねぇ」
“ バサッ ”
白いケープが私を包んだ。
サンタの赤い衣装を薄めに透かしながら。
“ ウィーーーーン ”
椅子が勢いよく迫り上がって、
“ プシュ,プシュっ… ”
霧吹きで髪全体が湿らされ、
一気に私の髪を切る準備が進んでいく。


「お姉さん、バリカンは大丈夫?」
「へっ」
  いきなり発せられたそのワードに驚いた。
 (バリカン・・・!?)
 (バリカンってあれだよね、その…)
「だから」
「音、大丈夫かって?」
「・・・」
「されたことないので・・・」
「じゃあ物は試しだな」

バリカンってあれだよね。
根元から切る、。
そんなに短くするの、バリカン使うほど。
写真の長さはそう見えなかったのに。
え………。
切られる準備が完璧に整った、鏡のわたし。
刺さるような不安が襲う。



“ ザク,ザク ”
“ ジョキ、ジョキ、ジョキッ! ”
 はさみが鏡に光った瞬間、
 おじさんは一気にあご周りで断ち切った。
 いきなり
(うそでしょ、)
(そんなに切るの、、)
当たり前かのように、髪は白いケープをつたってく。
ジョキジョキ、ジョキジョキ。
もっと切られてく。
長かった髪はあっという間に床へ落ちて、消えてった。

呆気に取られてるうち、
“ チョキ、チョキ、チョキ、チョキ、チョキ、チョキ・・・ ”
さらに短く刻まれる。
もうやめて………ってくらい、短く。
ハサミの音がどんどん大きく迫ってきて・・・、耳穴の直上で、
“ バチン! ”
おっきな音とともに、耳が半分露われた。
“ ジョキ、チョキ ”
“ チョキ、チョキ、チョキ、チョキ・・・ ”
遠く遠く、はさみの音が鳴り続く。
ずっと同じ高さで。



あっという間に耳半分のぱっつん。
あり得ないくらい、短い。
ダサい。



おじさんの手にはバリカンが握られる。
椅子から伸びるコンセント。
“ ヴィィィィィーーン ”
徐々に近づいてくる、けたたましい音。
音とともに、私の首は倒される。
“ ジョリ、ジョリ、ジョリ、ジョリ、ジョリ・・・ ”
少しだけくすぐったい。
苦痛とか、不快とか、
状況が理解できてるみたいで、できてない。
羊の毛刈りみたいに機械で髪の毛をひたすら刈られてる。
けたたましい音がずっと鳴り響く。
今まで体験してこなかったシチュエーションに、
私は不安を通り越して、酔った。
“ カチャッ ”
“ カチャッ ”
何回か、バリカンの刃先のプラスチックのようなものを変えられる。
その度、うなじの肌に刃が近くなってる。


バリカンが止まって、
“ シャキ、シャキ、シャキ、シャキ、シャキッ・・・ ” 
おじさんは梳き始めた。
今まで分厚かった髪がどんどん薄くなってく。
まっすぐに揃えられた髪に似合うように。

「前髪切るから、目瞑っててな」
おじさんが前に立ちはだかる。
言われた通りに目をつぶった。それが最後の私の姿だった。
“ チョキン!、チョキン、チョキン、チョキン!”
ひんやりした刃。
おでこから感じた冷たい感触は、おでこの真ん中だった。
慌てて目を開く。
落ちてきた髪がまぶたにくっついた。
で、
遅かった。
眉を隠す長さできれいに保ってた前髪はもうなかった。
初めてのオン眉。
それもラウンド状の、
子供のような、丸っこい、ぱっつん。

「はい、仕上がりましたよ」
「濵田君、これでいい?」
私なんか目もくれず、お兄さんに聞く。
「あ、はい…」
苦笑いのお兄さん。
そりゃそうでしょ。

私にも後ろ姿を見せてくれた。
耳の半分の高さでぱっつんな、まっすぐ切られた髪の毛。
襟足は黒いぶつぶつ。
鏡のわたしは一言も発さず、苦笑い・・・

ケープを外されながら、
どこかでこの髪型を見たような・・・って、ふと思い出す。
どこでだろう・・・
その時は思い出せなかった。
しかしサンタさんの格好、ひどくない?
よく目立つけど・・・

代金は先に支払ってるみたいで、
お兄さんと私は、もう2度と来ることないお店を後にした。
「じゃあもうサンタの格好なので、早速風船とチラシ配りお願いしますかね」
お兄さんの説明を聞きながら、事務所の階段を登った。
耳半分で聞きながら、
ジョリジョリしたところを触りつつ、逆に聞いてみたいことがあった。
お兄さんには悪いけど。
「お兄さんって何歳ですか?」
「えっ?」
「31ですけど・・・」
「じゃあお兄さんから見て、私ってどう見えてますか?」
「どうって?」
「髪型」
「あ・・・いや・・・・・・」
「素直に意見欲しいです」
「大学生として、今後どうするか決めたいので」
「ううん・・・」
「・・・」
「・・・」
「まぁ正直に話せば、奇抜な髪型かな」
「毎年このアルバイトに応募する子って、この髪型になるんですか?」
「んまぁ」
「前の子達ってこれになって驚いたりしなかったですか?」
「まぁ・・・多少する子もいるかな」
「その子達って翌日からどうしてたか覚えてますか?」
「どうしてたって?」
「髪型を帽子で隠すとか」
「んー、そういうのはなかったね。3人はこの髪型のままいたよ。上手く使えばお洒落にもなるって言ってたかな。ただ1人はウイック被ってたと思う」
「ウイッグ被ってた子は確か大学生だった」
「お姉さんは就活前?」
「やっぱりそうですよね。もう就活は終わりました」
「アルバイトはその髪型でやってもらう必要あるけど、そこは崩さなかったら何やってもいいんじゃないかな」
「ではこちら、よろしくお願いしますね」
会話が途切れた上、半端逃げたいお兄さんに風船を強引に渡された。



そっか。
ウイッグか。
今日は無理として、明日の1,2限はサボってウイッグを買えるお店に行くかなぁ。
今のままでもモードヘアっぽくて大丈夫な気もしてる。
クローゼットにこのスタイルに合うお洋服ってあったっけ・・・。
お母さんの服とかかなぁ・・・。
モヤモヤ考えながら、指定された場所で風船とチラシ配りを始めた。
ひそひそ喋ってるマダム達が目につく。
ずっと上の空で考えてた私には軽微な事だったんだけど、ある家族の言葉から、モヤモヤは一気に吹っ飛んだ。


女の子1人、男の子1人、お母さんの家族。
「お姉ちゃん、風船下さい」
「は〜い」
優しい顔をして、2人にしゃがんで手渡した。
お母さんにはチラシ。
「ありがとう」
「お姉ちゃん、クレラッパちゃんみたいだね」
 (えっ)
「可愛い〜!」
「お姉ちゃん、おかっぱだー!!!」
「こら!・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
頭を下げつつ、苦笑いをしながら、すぐに去っていくお母さん。



私はしゃがんだまま、
取り残された。
………。




忘れてた。
(どこかでこの髪型を見たような・・・)
クレラッパちゃんのCM…。
おかっぱ…。
心にグサッと刺さった。

それから後も、キモい目線の男の客もチラチラ見てくるし、
同世代くらいの子にもそんな視線で見られるのが何より嫌だった。

その時間以降、
どこから話が伝わったのか、
地元の小学生から
「クレラッパちゃんだー!」
「ほんとだー」
「えーすごーー!」
「うわー、本当におかっぱだー!」
「刈り上げてるー!」
「お姉ちゃん、ヘルメットみたいー!」
子供が群がってくる。

それを見てる同じくらいの女子も、
「え、なにあれ・・・」
「ダサすぎ」
って小声でひそひそ話してる…?
視線が向くたび、そんな風にしか見えない。

立ってるまま、メンタルを粉々に砕かれてく。
さっきまで考えていたことも、アルバイトも、どうでもよくなるくらい、鮮烈に。


バイトが終わって、
誰もいない事務所でサンタの衣装をかけて、
やっとの思いで帰る。

でも、
おうちに着いたわたしに、
玄関開けて鉢合わせした、弟の一瞬の反応がトドメを刺した。
………
「え、どうしたん、、笑」
「フラれた?笑」





ただただ、泣きたかった。





ーおわりー