ソレは其処に確かにいるのだ。

正体不明、分類不明、しかしその存在は、存在するだけで天災にも匹敵すると言われる古龍。

技量の及ばぬハンターが無謀な狩りをせぬよう、ギルドではその存在すら秘密にしている。

密林に現れたらしい、という情報を得て私達は今此処にいる。


霞龍オオナズチ。

この古龍は、風や焔を纏うといった攻撃的な能力を持たないが、こうして姿を消し音もなく忍び寄る。
保護色や擬態を使い目視し難いモンスターは数多く存在する。
しかし、オオナズチのソレは保護色と呼べるほど生易しいものではない。
完全に姿を消し、その巨体の奥にある景色まで透けて見えるのだ。
原理は解らないが、恐るべき能力である事に違いはない。
つかみ所が無く霞龍と云われる所以だ。

目撃例が少ないのも、幻獣キリンの様に個体数が圧倒的に少ないというものでは無いのだろう。

尤も、この世界に古龍と呼ばれる個体がどれほど存在しているのかも定かではないが…。


「うぉ!!」

仲間の一人がいきなり宙を舞う。
空気の歪みは先刻まで私がいた位置から動いていない。
どうやら遠距離の攻撃手段もある様だ。


少しでも気を引き、仲間への追撃を阻止するため大剣に手を延ばすと、私は走り出した。

頭でも尻尾でも何処でもいい、とにかく一撃。


背中の愛刀ブラッシュデイムを引き抜くと同時に、全体重をかけ渾身の一撃を叩き込んだ。
が、その一撃は龍属性武器特有の黒い火花を散らしながら弾き返される。

くっ…

硬い。
刃を返され、体が仰け反る。
そのまま大上段に構え直し二撃目を繰り出そうとした瞬間、左脇腹に鈍く重い衝撃が走る。

「ぐはっ!!」

前肢か尻尾か解らないが、直撃を受けた私の体は簡単に吹き飛ばされ、もんどりうって倒れた。

全身が悲鳴を上げてるが、それを無視して起き上がる。
追撃の危険がある以上、のんびり寝ているワケにはいかない。

遠く工房にいる職人達に感謝の念を贈る。
彼らの助けが無ければ一撃で力尽きてしまっただろう。

仲間達が各々武器を手に、様子を見ながら牽制してくれている。
それを視界の端に見ながら私は距離をとり、回復薬を一気に呷る。

流石に…姿が見えず、体の何処を切りつけているのかも分からない状態で二撃目を放つのは軽率だったか…。

相手は古龍。自分のハンターとしての技量が何処まで通用するのか…。

桜色の大剣を手に私は走り出した。