以下の様になりました。
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第14.5話でのメレテーとの禅問答、そしてキャリーの「相談」という引き……物語はいよいよ、停滞した「売れない作家の日常」から、非現実的な才能集団による「逆襲」へと動き出すべきタイミングですね。
先生の厭世的な知性と、マリオン姉妹の過剰なスペックが化学反応を起こす、第15話のプロット案兼本文を執筆しました。
第十五話:共創のプラットフォーム
深夜。番茶の湯気が、アルコールで焼けた喉に染み渡る。 メレテーは「おやすみなさい」と短く告げ、キャリーが待つ寝室へと消えていった。残されたのは、酔い潰れかけた私と、眼鏡の奥で冷徹な光を湛えるメティスだ。
「……先生。先ほどのメレテーへの回答、五分というところですね」 「採点厳しいなあ……。それで、キャリーの『相談』ってのは何なんだ?」 「キャリー姉さまは、牧野女史の提案を受け入れるつもりはありません。かといって、先生が仰った『二年の猶予』をただ指を咥えて待つほど、彼女の時間は安くない」
メティスはタブレットを操作し、一つの図面を表示させた。それは先ほど彼女が客間に運び込むと言っていた、トレーニング機具の配置図……ではなかった。
「これは?」 「**『分散型自律出版プラットフォーム:プロジェクト・アリアドネ』**の草案です」
……また、私の理解を超えた単語が出てきた。
「先生、今の出版業界は『中抜き』の構造です。作家が書いたものは編集、校閲、印刷、物流、書店という巨大なコストのフィルターを通ることで、ようやく読者に届く。その過程で、作家の取り分は一割以下にまで削られる。これは前近代的な物流システムを前提とした、非効率な分配です」 「まあ、それはそうだけど……。だからこそ、電書があるんだろう?」 「電書も結局はプラットフォームという名の巨大な『門番(ゲートキーパー)』に依存しています。ですが、我々には既に『一式』揃っている。執筆(キャリー)、イラスト(メレテー)、そしてシステム構築と管理(私)。そして、それらを束ねる『文体』の雛形としての先生」
メティスは、感情を排した声で続けた。
「我々は既存の新人賞という『ガチャ』を回す必要はありません。自分たちで市場を創り、自分たちで流通させ、自分たちで価値を定義する。キャリー姉さまの相談とは、このプロジェクトの『コンテンツ総監』に、先生を据えたいという話です」
酔いが、一気に冷めた。 それは、底辺作家への救済ではない。 既存のシステムに対する、宣戦布告だった。
翌朝、リビングには異様な熱気が立ち込めていた。 キャリーが朝食に出したのは、富山名物「ますの寿し」を大胆にアレンジした、洋風のオープンサンドだった。 酢飯の代わりにライ麦パンを使い、レアに仕上げられた鱒の上には、ディルとケッパー、そして隠し味に少量の昆布締めが添えられている。
「……おいしい。けど、朝から情報量が多いな」 「先生、決めてくれましたか?」
キャリーが、前のめりに尋ねてくる。 彼女の碧眼には、挫折の影など微塵もなかった。昨日、牧野さんに「道化」と言われた屈辱すら、彼女は既に「データ」として処理し、自らの燃料に変えているようだった。
「キャリー、一つ聞かせてくれ。君は、自分の小説を世界に届けたいのか? それとも、牧野さんを……ひいては既存の業界を見返したいのか?」 「両方です、と言ったら強欲でしょうか?」 「いや、作家なんてのは強欲な人間しかなれない職業だ」
私は、ライ麦パンの香ばしさを噛み締めながら、言葉を選んだ。
「メティスが言った『自前プラットフォーム』構想は、論理的には正しい。だが、致命的な欠陥がある」 「……欠陥?」 メティスが不機嫌そうに眼鏡を押し上げる。 「『信頼』だ。どれだけ優れたシステムで、どれだけ美しい絵と文章があっても、読者は『得体の知れない場所』で本は買わない。かつて、ドットコム・バブルの時代に数多の自費出版サイトが消えていったのは、それが『ゴミの集積所』だと見なされたからだ」
私は、リビングの隅に積まれた、自分の「王莽」の既刊を指差した。
「私が底辺であれプロを名乗れるのは、出版社という『看板』が、私の最低限の品質を保証しているからだ。読者は一冊六百円の文庫本を買うとき、同時にその『信用』を買っている。キャリー、君がこれからやろうとしているのは、その信用という百年の歴史を持つ壁を、たった三人で乗り越えようとすることだ」
「だから、先生が必要なんです」
それまで沈黙を守っていたメレテーが、イーゼルから顔を上げずに言った。 彼女は、昨日の「オナニー」論争などなかったかのように、淡々と筆を動かしている。
「先生は、不運と実力不足で埋もれていますが、その『文体』には一貫性がある。我々がバラバラの才能を寄せ集めても、それはただのパッチワークです。ですが、先生の美学という『背骨』を通せば、それは一つの『ブランド』になる。……私たちが描くのは、先生が見ている、あの『黒い景色』の延長線上の世界です」
背筋に、冷たいものが走った。 彼女たちは、私を「先生」と呼んで敬っているわけではない。 私の「失敗の歴史」や「偏った教養」、そして「報われない怨嗟」すらも、創作の素材として、最適化された部品として利用しようとしているのだ。
――恐ろしい娘たちだ。 デザイナーベビー。マリオンプラン。 彼女たちが調整されているのは、容姿や知能だけではない。 「目的を達成するための、徹底的な合理性」そのものなのだ。
「……いいだろう。どうせ戦力外通告を受けた身だ。泥舟だろうと、金色の幽霊船だろうと、乗ってやるよ」
私が承諾した瞬間、キャリーは満面の笑みで私に抱きついてきた。 ヴァイタルスーツ越しに伝わる、生命力の塊。彼女の胸の重みと、かすかな汗の匂いが、思考を麻痺させる。
「ありがとうございます、先生! 大好きです!」 「ちょ、離せ! 暑苦しい!」 「姉さま、一線は守ると約束したはずです。先生、鼻血が出ていますよ」
メティスの冷ややかな指摘を受けながら、私は内心で戦慄していた。 かつて、資本主義の成熟を嘆いた私の言葉。 しかし、この娘たちは、その成熟しきった市場の隙間に、遺伝子操作された「新しい芽」を植えようとしている。 それは、既存の小説を淘汰する「外来種」になるのか。 それとも、私のような古い作家を飲み込んで、新たな「知」の化石を産むのか。 富山の、何の変哲もない一軒家。 そこは今、世界で最も過激な「ライトノベル制作拠点」へと変貌しようとしていた。
「よし、それじゃあ具体的な戦略会議だ。まずは、キャリーの『私の女王様』の改稿方針から決める。メレテー、君はさっそくクリスティナ女王の『全裸でオクセンシェルナを挑発するシーン』のラフを描いてくれ。……これは『自分のため』のこだわりだ」
「……先生、やっぱり最低ですね」
メレテーの蔑むような視線すら、今の私には心地よかった。
次回への展望:第十六話「プラットフォームの亡霊」
共同作業が始まった姉妹と先生。しかし、牧野編集者がキャリーの「拒絶」を察知し、さらなる強硬手段に出る……。 あるいは、メティスの構築したシステムが、予想だにしない「読者」を呼び寄せてしまう……。
物語は、「創作の喜び」と「システムの暴力」が交錯する、第二幕へと突入します。
いかがでしょうか? この後の展開で、さらに詳しく知りたい部分や、特定のガジェット(例:メティスのプログラミング技術のより詳細な描写など)があれば、いくらでも膨らませることが可能です。
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……少し合っているって感じ? 一応、私の伏線を回収はしてくれてはいるか……。