出張中でのこと。
飛行機の隣の席に見覚えのある女が座った。
中学まで一緒だった幼馴染の子であった。

不思議なこともあるものだ。
中学を卒業してから、日本で見かけたのは一度だけ。
(たしか、駅前のパチンコ屋の前。私が自転車に乗ろうとしているところを、たまたま彼女が通った。)
国外のインドシナ半島上空にて、まさか彼女に会うことになるとは。

彼女は元気そうだった。一人旅のようだった。
私は声をかけた。滞在先も、私の宿泊先とそう遠くなかったので、
夕食を一緒に食べないかと誘った。彼女はためらうことなく同意してくれた。

食事は繁華街にあった中華料理屋にした。
私は、彼女の滞在理由を聞かなかった。
彼女は結婚指輪をしていた。私もしている。
お互いにいい年だし、野暮な話はしたくなかった。

30年近く生きていて、私も彼女も仕事をしている。お互いに相手の知らないこと、関心の持ちそうな内容はいくらでもあった。
だから、訳ありの内容を訊いて、
泣き出したり、わめかれたりするのも面倒だったので訊かなかった。
話したければ彼女の方から話すだろう。その時は真摯にきいて、下手なアドバイスをしないようにしようと考えていた。
結局、アパレル業界の話だの、霞ヶ関の悪口だの、海外旅行先だの、面白い芸人がいるだの、メディアで得られる内容を話すだけであった。

中華料理屋は2人で行くものではないと、うなづき合いながら店を出る。
彼女は、昔と変わらず、えくぼを作りながら素敵な笑顔をした。
彼女は生きていたんだと、そのとき気づきほっとした。

だから、気持ちよく別れることができた。20代最後の年は感慨深い年だな。