ボクは、見ていた。君は、見ていなかった。 | One! 

ボクは、見ていた。君は、見ていなかった。

<プロローグ>

あの頃のことを、覚えているだろうか。

ボクは、いまでも、覚えている。


夏、僕らは、

少しだけ、リッチな気分を楽しみたいと思い、

海の見えるハーバー付近のレストランにいた。

5月に、僕らの部署は、東京でもバラバラになった。

エリアが飛んでしまったから、

集まれるのなんて、

金曜日、

誰かが声を掛けなければできなくなった。



ただ、飲み会を、といった感じ。

なかなかイイお店だったが、

昨今の不況もあったから、

割安だった。




でも、

久しぶりに見る君は、

みんなの笑顔に、

いつもの甘えるような

笑顔で答えながら、

どこか、

夏の潮騒と、

その匂いに包まれ、

遠い目をしていた。





僕らは、再会を、ひとしきり楽しむと、

仲間で、連なりながら、

少しだけ遠い駅へ、

歩いていた。




駅近くの二件目に行こうかの話のなか、

君と僕は、みんなより、遅れて歩いた。

僕らは、適当な話をしながら、

言葉を交わしていた。




僕らの会話も、すごく単純な話。

最近、買った靴の話。

上司が最近、老けたって話。





そこで、時が、少し、スローになる。




不思議な感覚、

目の前が少しだけ揺れる感覚のなか

会話とは、別に、

指先の距離が、縮まっていった。




その少し歪な感覚のなかで、




触れるか、触れないか。




ただ、確かに、指先には、

触れようとする

お互いの

”触れたい”意思が、

くすぐるように、感じられた。





君を見ても、

遠くの仲間を見ながら、

笑っている。

指先の世界と、

目の世界は、

パラレルに流れていた。





1秒にも満たない瞬間。

でも、その瞬間、僕の心が小さく揺れた。




僕らの指は、振り向く声で、すぐに、離れた。

その頃から、ボクの中で、何かが変わった。





人は、寂しさで、誰かに、触れたいときがある。

人は、愛しさが生まれ、その人と、繋がりたいと思う。





同じようで、全く別の感情。

寂しさと、愛しさ。

僕は、君を見ていた。

だけど、君は、僕を見ていなかった。




そう、僕は愛しく君を思い、

寂しい君は、誰かを思った。



<続く>


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