一日のなかで一番幸せな時間はいつでしょう。

朝の日差しは散歩には気持ちの良いものですが、仕事前には絶望ともいえる時間とも成り得ます。

本書で筆者は登場人物に言わせます。

それは「夕暮れ時である」と。

それは一日のなかでは、あらゆる出来事を振り返る時間であり、

人生の中では、これまでの様々な経験を振り返りながら、余生に思いを馳せる時間。

ともに過去のなつかしさと、無限の可能性の未来への期待が混在する時間です。

やっとここまできた」という安堵と「これからどうしようか」というワクワクの共演。

それこそが至福の時間である、と。

 

翻って私たちの社会はどうでしょうか。

過去の方がよかった?

今の方が優れてる?

 

本書は一流の執事の目を通して英国の歴史を概観しながら、そこに英国の”あるべき姿”を見出そうとする物語。

 

 

 

うらみわびの

【この本がおもしろい!】

第42回

 

 

 

 

 

 

 

 

カズオ・イシグロ著

土屋政雄 訳

『日の名残り』早川書房 2001

を読む

 

 

 

勝手に評価表

ストーリー

☆☆☆☆☆

アクション

☆☆

感動

☆☆☆

 

 

 目次

 

プロローグ 1965年ダーリントン・ホールにて

一日目――夜 ソールズベリーにて

二日目――朝 ソールズベリーにて

二日目――午後 ドーセット州モーティマーズ・ポンドにて

三日目――朝 サマセット州トーントンにて

三日目――夜 デボン州タビストック近くのモスクにて

四日目――午後 コーンウォール州リトル・コンプトンにて

五日目――六日目 ウェイマスにて

 

 訳者あとがき

 旅の終わり / 丸谷才一

 

 

 どんな話

 

世界大戦を終えた英国。

これは英国の豪邸ダーリントン・ホールに長年勤めている執事スティーブンスの手記である。

スティーブンスは館の主人から暇を頂き、

フォードで英国を旅する。

旅の目的はかつて共にホールを切り盛りした女中頭からの一通の手紙であった。

その文言から察せられる彼女の苦悩

いったい彼女に何があったのか。

 

旅と並行して思い出されるかつてのダーリントン・ホールでの人間ドラマの数々。

そこに見いだされる古き良き英国の姿

 

一流の執事とは。

英国のあるべき姿とは。

 

カズオ・イシグロがおくる、鋭いイギリスへのメッセージがちりばめられた名作。

 

 

必殺仕事人

 

 

 

 頭のかたい執事

 

本書『日の名残り』の主人公スティーブンスは長年、ダーリントン・ホールという、いわば大豪邸で執事を勤め上げた人物。

その人物の目を通して物語が紡がれていく。

 

この人物、かなり

 

頑固者!

 

 

いえ、悪くいったわけではありません。

換言すれば首尾一貫した人、といえます。

それに不器用ながらも環境の変化に順応しようとする姿勢も見られます。

アメリカ人のジョークについていこうとする姿は滑稽ながらも懸命さを感じます。

 

そんなスティーブンスが「頑固者」と感じる所以はその仕事観にあります。

本書はスティーブンス流ビジネス書としても読めます。

 

 

 仕事とプライベートの境目

 

 仕事は誰かに仕える、といういわば聖域のような側面があります。

 一方でプライベートは完全な私の空間。

 仕事においてはプライベートの側面は害をもたらすこともあり得ます。

 仕事とプライベートの境目は明確にしておくべきでしょう。

 

 それでも仕事とプライベートの境界線があいまいな職業もありますね。

 最近ではユーチューバーを本業としている人たちもそうですね。

彼ら・彼女らは楽しみを提供している。

そのために”楽しさ”を演じている、ともいえる。

エンターテイナーは趣味の延長線上にもみえる。

無論、そうではないのだが、少なくとも純粋に

”愉しむ”ことができないと一流とはいえない

なぜなら仕事感がでてしまっていると視聴者はそこに違和感を感じるから。

エンタ―テイナーの難しさはそこにある。

 

執事もある意味、仕事とプライベートの境界が曖昧。

住み込みで主に仕える召使。

彼ら・彼女らにとってプライベートとは

 

スティーブンスいわく、それは「ひとりの時間のみ」ということになるそうです。

つまり、休日か、寝る前か、ということです。

それ以外の時間はすべてワーキングタイムということ。

いまでいえばかなりブラックなにおいがしそうな職業にも感じます。

 

 それでもアリといえばアリともいえます。

執事とは必要な時に適切なサービスを提供する職業。

常に何かをするわけではなく、その7割ほどは”注意を向ける”時間といえるのではないでしょうか。

いつ、なにを命じられても不自由なく、応える準備。

そのために必要なのが注意力、つまりあらゆることに”注意を向ける”ことだと思うのです。

 ちなみに学校の守衛さんのような見守りを主な職業とする人は他の職業にみられるような

6時間働いたら1時間の休憩」というような決まりは法律上ありません。

それは守衛という職業上の性格が継続的な労働というよりは”注意を向ける”職業だからである、と考えられます。

執事にもそれに似た性格がみられます。

自由な時間は少ないですが、人によっては精神的・肉体的苦痛は感じないのかもしれませんね。

 

 

ここでスティーブンスの主張をみてみましょう。

 

 

いずれにせよ、私はけじめをしっかり付ける執事だったことを強調しておかなければなりません。私ども二人は、たしかに仕事の上では長年にわたり良好な関係を続けてきておりましたが、女中頭が一日中食器室に出たり入ったりするような気楽な雰囲気だけは、避けてきたつもりです。執事の食器室は、私に言わせれば、お屋敷の運営の中心となる最も重要な部屋です。戦いにおける司令本部と言っても、さほど的外れなたとえではありますまい。この部屋にあるものは、すべて私の望むとおりに整理され、常にその状態に保たれねばなりません。

 

 

カズオイシグロ著

土屋政雄 訳

『日の名残り』早川書房 2001年 p.233

 

 

 小説の薫り感じさせる土屋政雄さんの起点の効いた訳の影響もありますが、この執事、かなり神経質でジジくさいイメージ

 ここに出てくる ‘二人’とは執事のスティーブンスと女中頭のケントンのこと。このケントン、彼女の存在がスティーブンスの執事人生に陰ながら大きな影響を与えていることが読み進めるうちにわかる。

 

――なんというんだろう。職場で自分を上げてくれる人、成長させてくれる人、ってどんな人なんだろう私は時折考えます。それは自らを支えてくれる人なのか。気楽に話せるいい人なのか。それともそりが合わない嫌な人なのか。

 もしかしたら、自分にとって苦手な人の存在が自らの成長に大きな役割を果たしているのではないだろうか

 嫌な人の言動・行動は「私はああいう風にはならないぞ」という指針になります。

 嫌な人に変に指摘されないようにある意味でテキパキ動けるようになることもあります。そうすることで結果として自らと波長の合う人に好かれる行動を選択できるようになる、行動が精錬されていく、ということにつながると考えます。

 

 所詮、仕事やプライベートといった限られた領域では好き・嫌いというレベルで差が生じるとこは当たり前であり、むしろ自然なことです。

 すべての人と分かりある、ということは美的ですが、それは社会や平和、といったもっと広いフィールドで包括的に捉えるべきことだと考えます。

 その細部をみると、「この人のこういうところ”だけは”いやだなぁ」とか「え、この人、ここではこういうことしてるんだ」という発見があることも。それで減滅してしまうこともありますが、それもその人の個性の一部として受け入れていく姿勢も大切だと考えます。

 人は誰一人として同じ成分の人はいない。思考は特にそう。身近では食べ物の好みとかね。好き嫌いはあってもいい。それでいて、どこかで共有できるところがあればいいな、と思うのです。

 

 

 

(記事は(下)へ続く)

 

 

 

 

 

 

 

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今日も皆さんが幸せでありますように

 

 

 

 

 

 今日の一曲♪

 

『コバルト』(2015)

 

(歌:TrySail 作詞:谷口尚久 作曲:谷口尚久)

 

 

Trysailお三方。

麻倉ももさん、雨宮天さん、夏川椎菜さん。

 

それぞれが個人でもアーティスト活動を行っている声優三人のユニットTrySail

 

今月のテーマは「エール」。

先日より3人の楽曲をお送りしました。

 

麻倉ももさんは、困難に挑む恋人にあえて「会わない」という選択をする女性の心情を綴った

今すぐに』。

 

 

 

 

雨宮天さんは、不安に押しつぶされそうな自分を鏡の中の「自分」が励ます『Song For』。

 

 

 

 

夏川椎菜さんは「なんとかなるさ」精神の『That's ALL Right』。

(ブレないよねぇ)

 

 

 

 

同じテーマで楽曲を集めてもこれだけテイストの異なる3人

そんな3人が織りなす唯一無二のハーモニー

それがTrySailの魅力。

 

△(トライアングル)は、ベクトルの異なる3直線直線が偶然ぶつかったときにできる図形。

今後の活動にも注目です!

 

 

 

 

 

 

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