うらみわびの【きょう考えたこと】
第92回。
それが私の役に立つならば
私にとって「夢日記」というものは次の二つのものを指す、と考えています。
〇自らの将来の夢とそこまでの道筋を書き記したもの
〇昨日に自身が見た夢の内容を書き記したもの
今回は二つ目の定義で「夢日記」について考えていきたい。
あれは先日、家族とあるドラマを見ていた時のこと。登場人物の女性が昨晩みた夢の内容を日記に記していた。
それを見て私の叔母が一言。
「夢日記ってよくないんだよ」
理由を聞いてみると、どうやら、夢を日記として記し続けていると、いずれ現実と夢(非現実)の境界線が曖昧になってしまうから、だそうだ。
私の叔母が言う、ということは世の誰かがそのような話をしていたのだろう。「なるほど」と思った。
同時に私はこの意見に疑問ももった。
確かに夢日記を継続することは、夢の内容を自意識に深く刻み込む作業である。それを継続することは現実と夢の境界線を曖昧にする可能性がありそうだ。
しかし、現実と夢の境界が曖昧になってしまうことは、夢日記のいわゆる負の作用でしかない。
自分を変えようとダイエットに打ち込んだ結果、挫折して「自分はダメな人間だ」と落ち込んだり、リバウンドして後悔したりすることに似ている。
つまり、何かを為そうとした場合、それは苦痛と困難を伴う。そして挫折がある。途中で投げ出した場合、それでも「得るものはある」と言葉をかけることはできる。それでも一連の流れのある行為の中で真の目的が達成される、とは言い難いこともある。これぞ『継続は力なり』ということである。
このことを夢日記に落とし込むと、夢日記には真の目的があって、「現実と夢の境界が曖昧になる」というにはその負の側面の一つに過ぎない。負の側面の存在が真の目的を阻害するものではない、と考えるから夢日記には意味がある、と考える。
では夢日記の”真の目的”とはなにか。
それは自分の中の無意識の存在に気付く事、だと考える。
ここでいう無意識とは精神学者フロイトの『潜在意識』に言い換えられる。フロイトの提唱する潜在意識には二種類がある。
・個人的無意識 ・・・ 個人の過去の経験に依拠するもの
・集合的無意識 ・・・ 個人的無意識の奥に存在する、もっと社会的な広域的なレベルでの無意識
いずれにせよ、私たちのなかの、自分でも気づかない無意識の”私”。それは『個人的無意識』という言葉によれば、決して空空漠々とした理解できない存在ではない。なぜなら個人的無意識は私たちの体験した”経験”に依拠しているから。
無意識には私たちの気付かない”もう一人の私”がいる、といっても過言ではない。それは「なんで私、あのときあんなこと言っちゃったんだろう」的なことがあるとすれば、それは無意識のなす業ともいわれる。
私たちの無意識が映像として色濃く映し出されるのが夢である。
ロボット工学研究家の前野隆司氏は自身の著書『脳はなぜ『心』を作ったのか』で1993年に行われたアメリカの脳外科医ペンフィールドの実験を引き合いに、夢とは脳内における体験記憶の「編集作業」だと指摘する。
もっといえば、生命現象にとって、自分と外界、内と外、という分け方が無意味だったのと同様、現実と幻想、という分け方にも意味がないということだ。
このような立場で考えると、夢が何のためのものかも想像できる。夢は昼間起きていた体験を脳に記憶として定着させるためのものだ、といわれるが、確かにそう考えるとつじつまが合う。私たちは昼間に自分が行っていると「意識」したことをエピソード記憶するわけだが、昼間に体験したことは膨大で、よく覚えておきたいことも、忘れてしまってかまわないものも、たくさんある。やみくもにとりだめしたDVDのようなものだ。膨大な記憶は編集したほうがいい。つまり、エピソード記憶をもとに作り上げた順モデルを実際に脳の中で使ってみて、どれを保存しどれを消去するか決めたり、チャプターマークを入れたり、プレイリストを作ったり、いろいろと編集しておくと、あとで便利だ。そして編集作業こそが、夢という脳内シミュレーションなのだと考えれば納得がいく。
前野隆司『脳はなぜ『心』を作ったのか
筑摩書房(2010) p.161
もし以上のことが本当であるとすると、夢の内容を書き記すことは、自らの記憶を整理することに他ならない。
フロイトは、無意識の一種である個人的無意識は私たちの経験に依拠している、と主張する。
前野隆司氏は夢とは記憶の「編集作業」だという。
両者の考えを合わせると、私たちは夢によって忘れてはいけない貴重な記憶を定着させ、このようにして定着された記憶が私たちの無意識に影響を与えている、と考えられる。
夢日記をつける、という作業はその手助けをすることに他ならない。
夢日記をつけることには、もうひとつのメリットもあるだろう。それは夢の内容を通して自らの無意識が何を言わんとしているか、それを確認することができる、と考える。夢系統・催眠系のカウンセリングは以上の意味において一定の説得力がある、といってもいいだろう。
本日も皆さんが幸せでありますように。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
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