夜風が生暖かい季節となりました。少し夜風にあたるのも悪くありませんね。でも熱帯夜はご勘弁を。

 

うらみわびの「この本がおもしろい」第2回 スタンダール著『パルムの僧院』を読みます。

 

勝手に評価表

ストーリー

☆☆☆☆☆

アクション

感動

☆☆☆

 

これほど純粋な恋を見たことがあるだろうか

 

 時は18世紀終盤~19世紀。イタリアが舞台です。ファブリスという裕福な家庭に生まれた少年が主人公です。この物語は少年ファブリスが情熱にかられて、ナポレオンの遠征軍に加わるところからスタートします。そこから彼の人生は恋愛、政治に大きく左右されることとなります。はたして彼は人生において何を手に入れるのでしょうか

 この物語の大きな特徴は2つあります。1つ目は登場人物のキャラの濃さです。それぞれの人物の心情が事細かく描写されています。この物語は登場人物の様々な思惑が錯綜し、ファブリスの人生に大きな影響を及ぼします。

 2つ目は描写の事細かさです。写実主義の作家と言われた著者のスタンダールですが、彼は物事の本質をそのまま小説にしたてあげることを旨としていたようです。ストーリーの進行は正直遅いです。劇でいえば、ナレーションがめちゃくちゃ長い。しかし、そこがいい。登場人物の心情描写の細かさには目を見張るものがあります。

 

 この小説は一人の少年の生涯を順に追っていく、という構成で書かれています。そこには恋愛政治を中心としたこの世のあらゆるものが描かれています。読む人によって心に引っ掛かるものが異なることでしょう。

 

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=======ここからはネタバレを含みます。読み進められる際にはご注意ください=================

 

 

 

 

 

 

 

 

 

政治小説?恋愛小説?

 

 読む人にとっては政治小説ともとれるし、恋愛小説ともとれるこの小説。私は後者の印象の方が強かった。ファブリスとクレリアの熱い恋愛は読んでいる方もドキドキさせられた。ジレッチを殺害してしまい、牢屋送りになったファブリスであるが、自らの死を目の前にしても、クレリアに恋心をよせてしまう。彼にとって恋に勝る事象はないのだ。ましてや自らを殺そうとしている政敵、コンチ将軍の娘である。サンセヴェリナ侯爵夫人の取り計らいで脱獄の策が立ったが、ファブリスは拒否する。「クレリアに会えないなら死んだ方がましだ」ということである。ここにきて、彼にとっては長生きそれ自体には何の意味も持っていない、ということである。無味な人生は苦痛でしかない。それが彼が達した心境なのであろう。

 

 私はこの時のファブリスの気持ちに同情する。この場面で私は自らが味わった失恋を重ねた。どうやらなかには失恋を経験してもケロッとしているひともいる。私は失恋で落ち込むタイプだ。恥ずかしい話だが、私は失恋してからの5年間、いまだにその傷は完全に癒えていない。仮にファブリスが脱獄したとしても、クレリアに二度と会えないなら、彼の残りの人生は味気ないものとなっていたことは容易に想像できた。

 

クレリアの断腸の決意

 実際に脱獄後のファブリスの人生は味気のないものとなっていた。クレリアに会うことがなかなか叶わなかったからだ。ここにはクレリアの決心があった。想像するに、彼女は父親思いであり、恋人思い出もあったのだ。彼女はファブリスを心から愛していた。しかし彼と結ばれようとすることは、父親を悲しませるだけでなく、クレセンチ侯爵との婚約を破談にすることである。父親のメンツは丸つぶれだ。

 他方で彼女はファブリスの今後を案じていた。彼が一番幸せになる方法は何か。それはクレリアを忘れることである。社会が二人の付き合いを許さないのであるならば、これが最も合理的な方法である、と彼女は考えたのだ。まさしく断腸の思いである。

 以上の二人の関係をみると、そこにはイタリアの有名な悲劇、『ロミオとジュリエット』を見ずにはいられない。これはイタリアをこよなく愛し、自身も劇作家を目指していたスタンダールが意図的に物語に投影させたものなのかもしれない。

 

 しかしながら、そんなクレリアの想いをよそに、ファブリスはクレリアに会おうと画策する。彼はもとより目されていたパルムの僧侶となり、クレリアに近づくのである。彼にとっては生きること=クレリアと共に歩む、ことなのである。なんともまじめ、いや、馬鹿正直な恋である。

 一方のクレリアもクレセンチ侯爵夫人となったが、ファブリスへの想いは失っていなかった。それがうかがえるのが下巻の終盤。彼女がファブリスの説法を聴きに行くシーンである。彼女は彼が他の人の者になるのを非常に恐れていた。そこで、彼がクレリアへの情熱を暗に語るのを聞き、自らの想いを再認識するのである。なんとも心打たれる場面である。恋の妥協は危険である。安易な妥協はたった一滴の水で穴を開けられてしまうのである。

 

妥協のない結婚は存在するのか

 「初恋は実らない」という言葉がある。失恋してもケロッとしていられる人は問題にならないが、失恋を引きずる人には大問題である。失恋から立ち直れない人たちに新たな恋は訪れるのか。私の今のところの答えは「相手を比較すること自体が失礼である」だ。人間は簡単には比較できない。完璧な人間はいない。相手の良い面に目を向けて共に歩んでいくのがよいだろう。これから訪れる恋に照準を合わせよう。

 されど理想は付きまとうものだ。飽くなき理想が結婚を妨げているのかは不明だが、世の中に不倫が絶えないのは一つの興味深い事例だ。なぜ人は不倫をしてしまうのか。不倫の是非は人それぞれであると思うが、私は不倫は悪である、という立場に立つ。「隣の芝は青い」ということだろうか。一つ屋根の下で暮らすとお互いの嫌な部分が見えてきてしまうのだろうか。世の中の数々の不倫を見ていると、果たして「結婚」というもの自体が、我々に幸せをもたらすのか、疑ってもみたくなってしまう。

 

恋愛こそが至上の幸福?

 

 私が失恋から立ち直れないのは、かつての恋愛の経験が私に至上の幸福の感覚をもたらしたからである。それは相手が「あの人」だったここが理由なのか、分からない。仮に私にあらたな恋人ができたとして、またかつてのような感覚を得ることができたら、結局のところ相手は誰でもよいのかもしれない。こんなことさえ思ってしまう。 

 そもそも恋愛自体が我々に幸福をもたらすのではなかろうか。つまり、結婚ではなくその手前、相手とお付き合いをしている間がもっとも幸福な時間ではなかろうか。どうすれば、相手ては喜んでくれるのか。あらゆることに苦心し、一喜一憂する、そんな日々こそが我々に幸福な感覚をもたらすのかもしれない。結婚はお互いを近づけすぎるのかもしれない。

 であるならば、ファブリスはもしかしたら幸福な人生を歩んでいたのかもしれない。彼はクレリアと触れ合えた時間こそ短かったものの、常に彼女に恋心を潜らし、彼女のために人生を捧げた。結婚から不倫などという、泥沼に足を踏み入れることはなかった。いうなれば、スイカの真ん中だけを食べるようなものだ。なんとも甘美な人生ではないか。

 

 そのたの登場人物を見てみても、サンセヴェリナ公爵夫人の恋心も外せない。彼女は甥っ子であるファブリスに対して禁断の恋心を抱いてしまう。社会が認める美貌と聡明さを兼ね備えた彼女であるが、この恋心ゆえに常に心は慌ただしいのだ。時にはかなり思い切ったこともしてしまう。そんな彼女の恋心はいず知らず、ファブリスは彼女に笑顔すら見せることはない。「30過ぎの女じゃダメかしら」そんなことを言って諦めムードの公爵夫人。彼女はどんなときも貧乏くじを引いてしまう。それにしても当時は30過ぎたら女性は華ではなくなってしまうのだろうか。個人的には、女性は年を取るほど美しさを増す、と思っているが…。時代の流れもあるのかもしれない。私はファブリスに負けないくらい純情な公爵夫人に対して「どうか幸せになってほしい」と思いをはせながら読んでいた。。彼女は妖艶そのものであった。彼女は無償の愛を貫いていた。

 

この物語はハッピーエンド?バットエンド?

 前述したように、恋愛こそが至高の幸福をもたらすなら、最後の最後まで、くっつかなかったファブリスとクレリア、はたまた公爵夫人は幸せだったのかもしれない。「人生は苦悩の連続である」という言葉を借りれば、かれらの苦しみは「最少だった」と言えるのかもしれない。むしろ恋愛の苦しみも込みで至高の幸福と成すか。

 しかし、この物語は「清潔」な終わり方をしていない。社会では、あくどい司法官ラッシが暗躍し、当のファブリスもクレリアとの間に禁断の子を授かり、その子供を早死にさせてしまう。二人は決して貞節を守ったわけではなかった。私は前述で不倫に対して嫌悪感を示したが、その論に立てば、二人のとった行動は決して良いことではない。クレリアは夫をもっと大切にするべきだったのかもしれない。そもそもクレリアの結婚自体が彼女の望んだものではなかったが。論も極まって、私は考えがまとまらない。ここは、ばっさりと「二人が幸せなんだから、これでよし」というべきか。クレセンチ侯爵のかわいいそうなことよ。

 

 この物語は登場人物の思惑が錯綜し、混沌として幕を閉じる。ゲーム理論が当てはまる。この物語を真上から見おらすなら、社会は最適解を導き出せない、ということか。そもそも数々の最適解が混沌を生んでいるのだが。。この本を読んで,他の人と感想を語り合うときっと盛り上がるだろう

 

今日の1曲♪

紅く、絶望の花。 (歌:JUNNA 歌詞:la la larks 作曲:la la larks)

10代とは思えない大人びた歌声!

 

 

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