震災後、すっかり執筆中の作品に手がつかなくなってしまった。どうにもやりづらい。
なので、新作を!
というほどのものじゃないけど、いま頭の中にあるイメージをそのまま描いてみた荒っぽいスケッチみたいな物語。娯楽作品になる予定。
今回はその序章
えーと、SFというか、ヒーローものというか、超能力を題材にした作品です
いや、作品になる予定ですw
『ナンバー2』
「やぁ、キミ、隣、空いているかい?」
その男は唐突に現れた。唐突?ちがうなぁ、強いて言えば違和感。
「あー、はい、空いてますけど……」
『どうぞ』という言葉が出ないのは、それは素直な僕の気持ちだった。できれば遠慮してもらいたい。
「それは良かった」
何が良かったのか、僕にはさっぱりだったけど、その男は僕の隣に腰掛けた――なんで?
最初に感じた不快な感覚に似た違和感とは、つまり、この店は200円も出せば、好きなだけ居ても文句を言われないような、ちょっとした街にならどこにでもあるようなコーヒーショップで昼食時を過ぎ、席もまばらで、二人がけのテーブル席は喫煙席も禁煙席も空いているというのに、僕は大きなテーブルで3人間隔以上他人と離れて座ることができるようなときに、なんでその男が一つの席の間隔もあけずに隣に座ったかということ。そして何よりもその男が僕の気分に対して陽気で快活で清潔感があることが、どうしようもなく僕を不愉快にさせた。
そうなればもう、僕は警戒心のレベルを一段階、いや、3段階上げていつでも席を立つ準備をせざるを得なかった。もちろん、携帯の時計を見て「そろそろ行くか」とつぶやく準備も忘れない。
「『せっかく、いいところだったのに』っていう顔をしているね。なにかいいことでも思いついたかい?」
その男は唐突にしゃべり始めた。唐突?ちがうなぁ、強いて言えば違和感、そして嫌悪感。
「べ、べつに何も……って言うか、すいません、何か僕に用でもあるんですか?」
『用がなきゃ、話しかけちゃいけないかな?』とその男が応える気がして僕は身構えた。いや、正直むかついていた。
「用がなきゃ――」
なんて野郎だ!
「キミになんか話しかけないよ」
「え?」
「いや、だから、キミ、僕はね、キミに『用がなきゃ、話しかけちゃいけないかな?』って言うと怒ると思ってさ。そういうの嫌いだろう?『なんて野郎だ!』なんて、初対面で思われたくないからさ」
その男は唐突に言い当てた。唐突?ちがうなぁ、強いて言えば……僕には何が起きたかわからない。
「まぁ、いいさ、用件はこうさ。キミ、早くここを出ないと大変なことになる。僕と一緒にここを出よう」
男の表情は、それまでの紳士的な態度から鬼気迫るものに変わっていた。まるでジキルとハイド、いや強いて言うならば、天使か悪魔か?
「いいさ、じゃぁ、これならどうだい?キミ特別な能力を持っているだろう?ボクも同じさ。ここは危ない。信じてくれとは言わない。信じたフリだけで今はいいし、最終的に信じてもらわなくても構わない。キミはボクと待ち合わせして、そしてここで合流して出かけるっていう、そんな役を演じてくれればいい。」
男の表情は、鬼気迫るものだったが、ここまで一気に言い終わると、また最初の穏やかな――陽気で快活で清潔感がある、どうしようもなく僕を不安にさせる男に変わっていた。そして、トレイに乗せてあるコーヒーを一息に全部飲み干す。
「さぁ、行こうか?キミ?」
「じゃぁ、途中までご一緒に……」
それが僕にできる、精一杯の抵抗だった。今はこの男のいうとおりにするしかなさそうだが、この男を信じて結果的に救われたとしても、どうにも気分が悪い気がした。
「いいね、ボクはキミのそういうところ、嫌いじゃないよ。もっともこんな風な言われ方をするのは、キミはもっとも嫌いだろうけど、今は我慢してくれたまえ――」
また、男の表情が変わった。
「こちらも、余裕がないもので」
僕は急いでテーブルの上においてあるノートパソコンを閉じて、隣の椅子の上に置いたカバンの中に詰めて、席を立った。トレイを返却口に置き、店員の『ありがとうございました。またお越しください』の言葉を背中で聞きながら、多分、もう二度とここにくることも、あなたに会うこともない。いや、できないと思いながら、申し訳ない気持ちと、込み上げる憤怒を押し殺すのに必死だった。
店を出て並びの通りを駅の方角に歩く。僕の真横よりも少し前を、その男は足早に歩いている。小走りと言ってもいいほどだが、僕はそのペースに付き合う気はさらさらなかった。大丈夫、この程度のことなら、僕は大丈夫。運良く信号に引っかからずに交差点を渡り終えたところで背後からドーン!という爆音が聞こえた。そして叫び声。無駄だと思いながらも、僕は後ろを振り返る。さっきまでコーヒーを飲んでいた店から炎が立ち上り、店に居た客や店員が吹き飛ばされ、無残な骸をさらしている。
「車に爆弾積んで突っ込んだのか……やることが露骨過ぎるな」
「全くです。罪もない人を巻き込んで、そうまでして守るものが、彼らにはあるということでしょうが……」
男の表情は、鬼気迫るものだった。どうやら僕はこっちの方が嫌いじゃないようだ。もちろん、嫌なものと比べての話であって……
「好きでないことに変わりはない――ですか?申し訳ないです。こういう、能力なもので」
「人の心が読める。だが未来を予測したわけじゃない。他に仲間がいるということか?」
「あなたがどう思おうと、いや、あなたにどう思われようと構いません。我々にはあなたの力が必要なのです。もちろんあなたの持っている『特別な能力』もですが、それ以上に、あなたのそういう洞察力、判断力、そして決断力が」
「あなたとは途中までだ。そういったはずだ。一生一緒に過ごすなんて真っ平だ。けど、まぁ、今は、今というときには、それも仕方がない。僕は名乗る必要はないね。知っているからこそ来たんだろうからね。で、あなたのことは、どう呼べばいい?」
「申し遅れました。わたくし、こういうものでございます」
そういって男はグレイのスーツの内ポケットから名刺入れを出し、保険かなにかの営業マンのような立ち振る舞いで名刺を僕に差し出した。
「株式会社 能力開発研究所 営業2課 町村 長太郎……」
「仲間からは村長(そんちょう)と呼ばれてます」
「ふざけた名前だ。きらいだな」
「まぁ、ボクがつけた名前じゃありませんから」
「嘘だな」
「こりゃ、まいった。キミにも、人の心を読む能力があるみたいだね」
「その人を喰ったような態度は、どうにかならないのか?」
「まぁ、典型的な能力者の癖のようなもので、こればっかりは」
「ふん、それも嘘だな……と言いたいところだが、まずは、はやくここから離れないといけないね。あてはあるんだろう?」
「では、参りましょう。ナンバー2」
「その呼び方はやめてくれないかな。いや、やめてくれないと――」
男はすっかり嫌な汗を背中に掻いていた。自分の首が一瞬で胴体から千切れる様を、まるで見たような気がしたからである。『ナンバー2』という言葉は、もう二度とこの人の前ではいえない。そう確信するだけのものは、村長の能力ではなく、皮膚が感じていた。
「では、キ、キミをなんと呼べば……よろしいですか、かな?」
「僕は、誰からも呼ばれたくない。でも、どうしてもそれが不便だというのなら……知事」
「は?」
「だから、あなたが村長なら、僕は市とか県とか……そうだな、いっそのこと総理ってどうだい」
村長は一瞬冗談かと思ったが、しかし、彼の能力によってそれが違うのだということがわかった。2番は嫌だという、はっきりとした強い意思、いや、それは殺意と言っても過言ではないような危うい強さだった。
「わかりました、総理、ご案内しましょう。我らの同士のもとへ。あなたを支持する人たちのもとへ」
総理と村長はサイレンと怒号と、悲鳴とが交差する街並みの中に姿を消していった。その後姿は、あまりにもありふれた日常の一コマにしか見えなかったが、その背中から見える風景は地獄絵図だった。
ずっと、あとまで
つづく