今月のお題小説「童謡」 | 文化系寄り道倶楽部

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アラフォーで2児のパパであり、80年代の音楽をこよなく愛し、ガンプラを愛で、パソコンをいじくり倒し、台所を妻から奪い取り、キングの小説におびえ、究極超人あ~るで笑いころげ、夜な夜なUST配信をしている

お題小説 童謡

『こぎつね』

こぎつね コンコン 山の中 山の中
草の実 つぶして お化粧したり
もみじの かんざし つげのくし

こぎつね コンコン 冬の山 冬の山
枯葉の着物じゃ ぬうにもぬえず
きれいな もようの 花もなし

こぎつね コンコン 穴の中 穴の中
大きな尻尾(しっぽ)は じゃまにはなるし
こくびを かしげて かんがえる





男が二人、人気のない山道を登った小さな小屋の中にいる

一人は縄で縛られ、身動きすることができない
一人は猟銃を構え、縛られた男に向かって、なにやらわめき散らしている

「よ~し、わかった。それじゃぁ、こうしよう」
猟銃を持った男はニヤニヤしながら縄で縛られた男の耳元で話し始める
「これからゲームをしよう。簡単なゲームだ」

縄に縛られた男は顔中に痣があり、口元から血が流れている。
どうやら猟銃を持った男に散々暴行を受けたようだ。

「唄を歌ってもらおう」
猟銃を持った男は鼻歌を歌い始めた。
そのメロディは、確かに子供の頃よく聴いた童謡だ。
たしか、子狐が、化粧をしたりとか……

「さて、問題です。この曲の歌詞を間違いなく歌ってください」
まるでクイズ番組の司会者のようだったが、男が持っていたのはマイクではなく猟銃だった。

「三回間違えたら……ズドーン!です」
猟銃を持った男はカラカラと笑いながら縄に縛られた男の頭を猟銃の銃身で小突いた。

「制限時間は日の出まで……ってかぁぁぁあ、かっ、かっかっ」

狂っていやがる!
縄に縛られた男は、心の中でそう履き捨てた。
どうせ命を助けるつもりはないのだろう。

それにしても……

縄に縛られた男は、なんとも複雑な心境だった。

まさか、こいつ、知ってっていってるのか、単なる偶然か……

縄に縛られた男は、大声で歌いだした。

フックス、ドゥ ハス ディ ガンツ ゲシュトーレン
Fuchs, du hast die Ganz gestolen

ギプ エス ヴィーデァ ヒーァ
Gib es wieder hier

ギプ エス ヴィーデァ ヒーァ
Gib es wieder hier

ゾンスト ヴィァッ ディヒ デァ ィエーガァ ホーレン
Sonst wird dich der Jager holen

ミッ デム シースゲヴェア
Mit dem Schiesgewehr

ゾンスト ヴィァッ ディヒ デァ ィエーガァ ホーレン
Sonst wird dich der Jager holen

ミッ デム シースゲヴェア
Mit dem Schiesgewehr

猟銃を持った男は、一瞬ためらった。
銃身は縄に縛られた男の頭に向けられ、引鉄にはしっかりと指がかけられていた。

「おい、今のはなんだ?貴様、この期に及んで俺をからかっているのか?」

縄に縛られた男は気丈に猟銃を持った男をみつめ、口を開いた。

「この唄はなぁ、もとはドイツの民謡だ。今のは原曲だよ」

あきらかに猟銃を持った男の表情に変化がおきた。

「おいおい、本当かそれは?」

猟銃を持った男の目は、先ほどまでカラカラと笑いながら他人の命を弄ぶそれとは違っていた。

「どんな意味なんだ?日本のと同じなのか?」

猟銃を持った男の真剣な問いかけに、縄に縛られた男は一瞬戸惑った。

まぁ、いい。こういう死に方も悪くない。一つくらい自分の知識を誰かに残せて死ねるのだ。それがどんな悪党であろうと、単位をとることしか考えていない学生にドイツを教えることに比べたら、こんなに真剣に自分の話を聞いてくれるのだ。思わぬ形で最後の教鞭をとることになったが、これもまた人生なのかもしれない。

「いいだろう。教えてやる。一番はこうだ」

キツネよ、君はガチョウを盗んだね
元のところへ返しなさい
元のところへ返しなさい
さもなきゃ狩人がお前を捕まえに
鉄砲を持ってやってくるぞ
さもなきゃ狩人がお前を捕まえに
鉄砲を持ってやってくるぞ


「そして2番はこうなる」

ザィネ グローセ ランゲ フリンテ
Seine grose, lange Flinte

シースト アォフ ディヒ デン シュローッ
Schiest auf dich den Schrot,

シースト アォフ ディヒ デン シュローッ
Schiest auf dich den Schrot,

ダス ディヒ フェァプ・ディ ローテ ティンテ
Das dich farbt die rote Tinte

ウン ダン ビス ドゥ トーッ
Und dann bist du tot,

ダス ディヒ フェァプ・ディ ローテ ティンテ
Das dich farbt die rote Tinte

ウン ダン ビス ドゥ トーッ
Und dann bist du tot.

狩人の大きくて長い銃が
君をめがけて弾を撃つ
君をめがけて弾を撃つ
赤いインクが君を染めて
君は死んでしまうぞ
赤いインクが君を染めて
君は死んでしまうぞ

「これが、最後3番だ」

リーベス フュクスライン、ラス ディァ ラーテン
Liebes Fuchslein, las dir raten

ザイ ドホ ヌア カィン ディープ
Sei doch nur kein Dieb

ザイ ドホ ヌア カィン ディープ
Sei doch nur kein Dieb

ニム、ドゥ ブラォフスト ニヒト ゲンゼブラーテン
Nimm, du brauchst nicht Gansebraten,

ミッ デァ マォス フォァリープ
Mit der Maus vorlieb.

ニム、ドゥ ブラォフスト ニヒト ゲンゼブラーテン
Nimm, du brauchst nicht Gansebraten,

ミッ デァ マォス フォァリープ
Mit der Maus vorlieb.

「意味は――」

縄に縛られた男が最後の訳を語ろうとしたとき、猟銃を持った男は銃身を縄に縛られた男の口に押し当て、言葉をさえぎった。

「待て、待ってくれ」
縄に縛られた男は一瞬自分の命がこれで最後だと覚悟を決めたが、事態が思わぬ方向に変わったのだと気付いた。

「待ってくれ、その先は言わないでくれ」
猟銃を持った男の目には涙が浮かんでいた。

「俺は、今まで他人のものを奪うことも、命を奪うことも、ためらうことはなかった。俺は自分が生きるために人から物を奪い、必要とあれば……いや、そうでなくたって俺はたくさん殺してきた」

縄に縛られた男はそれでもやはり、安心はできないと死の覚悟を解けずにいた。

「俺の殺してきた奴らも、いっぱいいっぱい俺の知らないことをしってたんだなぁ、きっと……それを俺は……今まで考えた事がない」

どうにもおかしなことになってきた。しかしなんという皮肉。日ごろ自分が教えている学生はノートをとるのに一生懸命かもしれないが、この男のように真剣に他国の言葉に関心を持ったりはしない。一体自分は何に向かって教鞭をとり続けてきたのかと疑問に持ちながらも、これは喰うために仕方のないことだと、どこか割り切っていた。

「で、どうするんだ。この後のどうなったかを知りたいのなら学べばいい。それは俺を殺そうがどこでもできることだ。妙な話だが、おれはお前さんが思っているような、そうたいしたことを知っているわけじゃない。お前さんが殺した人間よりも、価値はないのかもしれないぞ」

俺は何を言ってるんだ?
その疑問に答えられるだけのものが、縄に縛られた男の内側には、何もなかった。

俺はどうしたらいいんだ?
その疑問に答えられるだけのものが、猟銃を持った男の内側には、何もなかった。

男が二人、人気のない山道を登った小さな小屋の中にいた。
二人は道に迷い、戸惑い、見つめあい、答えを求めていた。
静かなときが流れる。

二人は子狐のように小首をかしげて考えるしかなかった。




おしまい





















ちなみに3番はこうなります



キツネ君、忠告するが
泥棒なんてやめておけ
泥棒なんてやめておけ
ガチョウの焼肉は要らないだろう
ネズミで我慢しろよ
ガチョウの焼肉は要らないだろう
ネズミで我慢しろよ