『最後の晩餐~恋したっていいじゃない』⑦ | 文化系寄り道倶楽部

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アラフォーで2児のパパであり、80年代の音楽をこよなく愛し、ガンプラを愛で、パソコンをいじくり倒し、台所を妻から奪い取り、キングの小説におびえ、究極超人あ~るで笑いころげ、夜な夜なUST配信をしている

 恋したっていいじゃない!

 今日のわたしはそんな気分だった。部屋を勢いよく飛び出し、街の中に飛び出した。ついこの前まで疎ましく思えたクリスマスムードの町並みはわたしにも楽しげに見えた。

 こんな日は素敵な洋服に出会えるかもしれない。行きつけのブティックをあれこれ見て回る。財布の紐がゆるくなる。「お願いワタシを買っていって」ワゴンセールに出されたかわいいアクセサリーたちがわたしを見つめる。「ワタシあなたに着て欲しいの」店の中の洋服たちがいっせいにわたしに声をかけてくる。

 恋したっていいじゃない!

 いつかきっと、あなたたちの力を借りて、わたしは素敵な人に出会うの。でもそうね。アナタは少し前のわたしには似合ったかもしれないけど、今のわたしには必要ないわ。あー、見つけた!アナタ、今日のわたしの気分にぴったりよ。

 店の中に流れる音楽は、すべてわたしのために選曲されたみたいに心躍らせる。「OKいい?つぎのリクエストはね。ノリノリのあの曲にして頂戴!わたしの横で楽しげに買い物をしているカップルにプレゼントするわ」

 恋したっていいじゃない!

 ときは誰の上にも平等に流れていく。早く感じたり遅く感じたりすることはあっても、それはあなたがそう思うだけ。わたしがそう思うだけ。過去を振り返るのも前を向いて歩くのも、それはあなたの、そしてわたしの自由。爪先立ちで背伸びをして少しばかり遠くを眺めてみれば、目の前のつまらないことに心捕われることなんかないんだよ――やさしいあの歌は、わたしにそう教えてくれたっけ?

 両手に荷物を一杯持ったわたしは、さながら友達に荷物を持たされてトイレの前で待っているようだった。そんなわたしをあなたは――彼は見つけてくれた。

「やー、すごい荷物だね。友達と一緒かい?」
 神様、いや、仏様、いや、大明神様……わたし、どうしたらいいんでしょうか?
「いえー、これは、あのー、全部あたしの荷物で……」
 彼は優しくわたしに微笑んでくれた。
「キミは力持ちなのか、それとも……無鉄砲なのかな?」
 今日の日を忘れない。彼のあの笑顔を忘れることなんかできない。
「あ、あのー、この間は……ありがとうございました。わたしぜんぜん気付いてなくて」
 駅前の交差点。信号が青に変わろうとしている――お願いもう少しだけ時間を頂戴。
「ははぁ、調子に乗って買い過ぎちゃいました」
 ちがう、そうじゃない、他に何か言う事があるでしょう!もう、どうしよう、信号がかわっちゃう。彼の視線が信号機へ写った。
「なんかいいことでもあったのかな?キミ、この町の人?」
「いえ、えーとでも、もう5~6年になります。ここに住んでから……」
「この辺にコーヒーの専門店とかあるかなぁ?引っ越してきたばかりで、まだよくわからないんだ。豆を切らしちゃって……」
 わたしには心当たりがなかった。インスタントコーヒーしか飲まないわたしには、豆のことなどわかるはずもなかった。
「ごめんなさい、わたし、インスタントしか飲まないから……」
 あっダメ、信号変わっちゃったよ
「そう……へんなこと聞いちゃったね。じゃぁ」
 彼は人波に少し遅れて交差点を渡しだした。わたしはまるで動く事ができない。追いかけなきゃ、追いかけないと……お願い振り向いて

 恋したっていいじゃない!

「あのー、よかったら一緒に探しませんか?」
 わたしはとうとう一歩前に出た。フラフラとよろめきながらも、クラクラになりながらも、それでもわたしは一歩前に踏み出した。彼の大きな背中めがけて……