『最後の晩餐~涙の数だけ』⑥ | 文化系寄り道倶楽部

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アラフォーで2児のパパであり、80年代の音楽をこよなく愛し、ガンプラを愛で、パソコンをいじくり倒し、台所を妻から奪い取り、キングの小説におびえ、究極超人あ~るで笑いころげ、夜な夜なUST配信をしている

「うわー、もうこんな時間」
 土曜の朝のわたしは、そう、誰にも見せられない。100年の恋も冷める瞬間は毎週この時簡に訪れる。もっとも今は余計な心配というより無駄な妄想だと目の前のわたしがマヌケな顔でほくそえんでいる。

「あーあー、今日はまた、一段とお美しゅうございますなぁ~」
「う・る・さ・い。黙って仕事しなさい」
 鏡の仕事はいつも完璧だ。常にありのままのわたしを映し出す。だから嫌いだ。だから安心だ。

「お腹すいたー」
 冷蔵庫の中を物色する。いつもはがらーんとしている土曜の朝の冷蔵庫の中は、相変わらず食材で一杯だ。
「たまにはやりますか」
 タマネギ、ニンジン、ジャガイモ……そしてキャベツとウインナー。あー、エプロンエプロンっと。
 家を出るときにお母さんが買ってくれた寸胴鍋。「こんなの一人暮らしにいらないよ」というわたしに「なに言ってんの?いつまで一人暮らしするつもりなの?」と茶化したお母さんの横で、どこか不満げにお父さんが鍋を見つめていた。今のところ期待に添えず、こうして一人でがんばってます。

「随分と久しぶりだね。お嬢ちゃん。1年ぶりかな?」
「そんなことなぁいぃ!パスタ茹でたのは確か……」
「パスタ、ラーメン、うどんにそば……麺類みな兄弟」
 コンロの火をつけると鍋は自分の仕事に戻った。

「えーと、確かこんな感じよね」
 やると決めたら確かな手際で迷いはない。どうせ食べるのはわたしだけ。少し塩加減を多めにして、昨日流した塩分を補給しないと。

「どーよ、なかなかのものじゃない!」
 お腹がすいていたからか、塩分が足りなかったからか、今日のポトフはなかなかのものだった。昼真っから料理をしたのは久しぶりだ。 気分は上々。ちょっと寒いけど、窓を開けて外の空気を部屋に招きいれた。
「うー、寒い……けど気持ちいい」
 全ては「彼」へと繋がっていた、昨日の夜のことも、ポトフと作ったことも、そして気持ちのいい空が広がっていたことも。

「洗濯したら、買い物に行こーかな」
 洗濯機は無口だ。黙々と仕事をこなす。掃除機はいつもわたしの鼻歌を馬鹿にする。
「それいつの曲だい?随分懐かしい曲だよね。あー、そこ違うよ。そこはね――」
「もう!邪魔しないでくれるー!せっかく気分よく歌ってるんだから」

 久しぶりにおもいっきり家事をやった。なんだかウキウキしているわたしに部屋の中も騒がしくなっている。
「なんかいいことでもあったのかしらね?」
「さーて、どうかしらねー」
 化粧道具たちはこそこそと噂話をしている。かぼちゃが馬車に変わる瞬間、これは恋の魔法?それとも天使のキッス?

 夢見る少女の出来上がり!ってわたし、何うかれてんだろー……見事にメイクが決まった。こういう日は何かいいことあるかもしれない。
 「涙の数だけ女は強く、美しくなるの」
 季節外れの冬の蝶々。冬の空がこんなに気持ちがいいだなんて、誰も教えてくれなかった。

 「さて、いきますか!」
 季節外れの冬の蝶々。冬の空に独りぼっち。誰かに捕まえて欲しいのに。