二人で街を歩く時、ヤツは大概私より少し先を歩いていた。

 

そんなヤツに小走りで追いついては、水平チョップをヤツの鳩尾にかます・・・というのが、私たちの街散歩の恒例行事であった。

 

 

 

 

 

「どーして、真横を歩けないんだよっ・・・!? (バシッ) 二人で歩いてんだから、隣を歩けよナッ・・・!? (バシッ)」

 

 

 

 

 

「・・・・・ウッあせる (チョップを喰らう)・・・・・ウッあせる (チョップを喰らう)」

 

 


 

 

ヤツはそれ以外、何も言わない。

 

時には、そんな二人の距離は25m位に広がる事もあり、それでもヤツは頭の中で何かの脚本を考えながら、ヒョウヒョウと自分のペースで肩で風を切りながら歩き続けた。

 

そして、たまにふと我に返り立ち止まっては振り返り、私が後を付いて来ている事を確認すると、また再び歩き出した。

 

私の事を待っていたり、「早く来いよ」などと言う事もなく、ただ私の存在を確認するのみだ。

 

 

 

 

 

“背中で語る”・・・という言葉があるが、ヤツはそれが出来る男だった。


ただ単に、“街歩きの際いつも背中を見せていた”・・・という事ではなく・・・


ヤツはいつも、前を向いていた。

 

私はヤツと38年間一緒にいたが、ヤツが下を向いてため息をついているのを聞いた事は一度もない。

 

一度だけウンウンうなされて夜中に苦しんでいた事があったが、その時は、翌日から英語が不得手なヤツが、多国籍の講師陣と相部屋で何晩か過ごさなければならなかった時で、ヤツはその合宿の責任者であったので、さぞや苦しかった事であろうと想像に難くない(((^^;)

 

それもまぁ、前向きな苦しみであるので、“下を向いている”・・・という事ではない。

 

 

 

 

 

私には今でも、道行くヤツの後姿が見えている。

 

ヤツは、しっかり背中で語ってくれている。

 

 

 

 

 

「しっかりついて来いよ・・・。しっかり前を向けよ・・・」

 

 

 

 

 

人生に正解なんてない。

 

“これが正解”・・・なんていう生き方はない。

 

自分で決めて、自分の足で歩いて、そして考える。

 

それしか生きる術はない。

 

 

 

 

 

最近、道行くヤツの後姿が少し小さくなった様に感じている。

 

25m位先を行っていたヤツの背中が、少し遠くなった様に思えるのだ。

 

だが、それならそれで仕方ない・・・


それでも私は、ただ前を向くしかない。

 

 

 

 

 

今想う事は、背中で語れる男と結婚して良かったな・・・という事である。

 

いつも隣にいてくれる優しい夫というのは、家庭人としては最高であろうとは思うが、かえってそういう夫の方が、失った際に立ち直りに時間がかかる様にも思えるのだ。

 

現に、周囲を見回してみても、何年も夫の喪失から立ち直れない女性のパートナーは、非常に優しい家庭人であった・・・というパターンが多い様に思える。

 

そんな夫がいてくれたらどんなにかいいだろう・・・と永らく思っていた私であるが・・・

 

 

 

 

 

“背中で人生をナビする・・・というのも、優しさの一つの形である”

 

 

 

 

 

何故か今になって、そうも思える様になって来たのだ。

 

 

 

 

 

“生き様を背中で語れる”・・・というのは、“その人の生き方がしっかり固まっている”・・・という事だ。

 

破天荒な反面、ガラスのハート・・・

 

きっといつも、ヤツは日々を気力で乗り切っていたんだと思う。


朝にその日一日の目標を明確に掲げ、夕にそれが出来たか否か己を省みる・・・

 


 

 

 

「いい男と結婚したな・・・」

 

 

 

 

 

あらためてそう思う。

 

 

 

 

 

これから、土地勘のない、知り合いもいない場所に一人殴り込みをかけるのは勇気がいる。


ここ横浜での24年間から気持ちを切り替えなければ、新しくスタートする事なんて出来ない。


近くに両親はいるが、両親も今日明日どうにかなってもおかしくない状況だ。


考え出したら一歩も動けなくなる。


不安が限りなく増大してしまう・・・


不安とは本来そういうものなのだ。





 

段々小さくなって行く背中であるが、まだまだこれからも私の人生をナビして欲しい・・・

 

今、そう思っている。


それは、決して「この人なら、どちらの途を選ぶか?!」・・・という事ではない。


恐らく、ヤツは私が選ぶ途は絶対に選ばない。


方向を決めるのは、ヤツではなく私自身なのだ。


よく、「もし夫が生きていたら、こうしろと言っただろうから」・・・と考える女性がいるが、それは違うと私は思っている。


人生の大切な決断を他人に委ねてはいけない。


人生の大切な決断を自分自身で出来なければ、自分の足では歩けない。


ヤツの背中が語っているのは、「いつも目標を掲げて前を向け」・・・という事のみだ。






違う街に行けば、その街を歩くヤツの背中は、全て虚構のものとなる。


現実にヤツがその街を歩いた事は、過去においてもこれから先も一度も無いのである。


だんだん遠ざかって行くヤツの背中がすっかり消えてしまう前に、新天地に殴り込みをかけたい・・・


今、そう思っている。






色々考えてしまったら、絶対に動けない・・・


よって、人生はケセラセラで。


自分のバランス感覚で。


そして・・・自分の足で。






大きなお金が動くので、やり直しはきかない。


それが、かなりなプレッシャーとなって今の私にのしかかっている。






全て、出たとこ勝負だ。






・・・ま、どうにかなるだろう(^_^;)





 

ではではまたまた・・・

 

生きとし生けるものが幸せでありますようにクローバー