同じ建物に住んでいる5歳ぐらいの男の子の手を引いて外出する母子と、時々エレベーターで出くわすことがある。インド人なのかな。褐色の肌にこぼれそうに大きい黒い瞳。

 わたしが「かわいいね」と声をかけると、子供のお母さんから「仕事?」と聞かれたので「イエス」と答えると、「あなた、おしゃれね」と。まさか褒められると思っていなかったので、「仕事のときだけはね」と笑いながら返した。そんな短いやりとりが何回かあった。

 先日も友達を駅まで送った帰りに、道で母子二人を見かけたので、声をかけた。ブルーとシルバーの新品の子供用の自転車にまたがっている僕ははしゃいでいる。いつから、ここに住んでいるのか聞くと8年前で、国籍はバングラディシュだという。親子3人で暮らしているのだ。「わたしは最近、引っ越してきた」と言うと、「旦那は?」と聞かれたので、「離婚したのでひとり」と答えると、顔色を変えて「ごめんなさい。寂しいね」と私に謝った。別に好きで別れたので、それも昔の話、ちっとも寂しくないのだが。すると、彼女は慌ててスマホを取り出し、自分の携帯番号をわたしに示した。「困ったことがあったら、電話してね。夜中でも何時でも大丈夫だから」と名前まで教えてくれたのだ。

 とっさの他人からのしかも外国人からの親切に戸惑う。えっ、私って子育て世代のママから見たら寂しいひとり暮らしの高齢者なの? 高齢者の自覚のない私ははっとさせられたが、そのやさしさに胸が熱くなった。