知っている
畑の道を淡々と歩き
小麦に話しかける人
トンボを肩にのせて
淡々と家路へと歩く人
道の辺で汗を拭きながら
淡々と草原をながめている
そんな光景を見ながら
その方の住まいを想像する
きっと余分なモノはなく
清楚で丁寧に生きた証が
そこにあるに違いないと…
こんにちはと声をかけると
ごきげんようと
しわがれた声が返ってくる
ある時、ありがとうと
声をかけてみた
「おっ？」という含んだ声、
そしてしばらくして
彼は立ち上がり
ありがとうと応えてくれた
何故だろう
なぜ涙が出るのだろう？
感動の涙
まるで山の仙人に
出会ったような
爽やかで、心がキュッと
深くで泣いた
振り返ると
ご老人はナップサックを
肩に掛けて淡々と
山の道を歩き始めた
振り返る事もなく
お尻の手拭いが
手を振るように揺れている
淡々と日常をこなす者よ
どうぞ、この静けさが
明日も明後日も永遠に
続きますようにと
祈らずにはいられなかった
この奥に住まいがあるのか？
草木に囲まれた住まいは
きっと美しい静けさに
包まれているのだろう…
と思う