のらねこ物語 ~《しゃま》のこと~ | まじょねこ日記

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魔女の大切な仲間の猫たちの日常をみてください

 

《しゃま》を探し続けて

そして待ち続けて

6日が過ぎようとしていた

 

どうして《しゃま》が駐車場から姿を消したか、消さなければならなかったか、その理由はわかっている

 

《たんぽぽ》を筆頭とする仲間たちと、楽しく過ごしていた駐車場

だけど悲しい出来事は容赦なく移ろって

 

今では駐車場に《しゃま》ひとりになってしまった

 

目に見えて心が荒んでいく《しゃま》を見かねて

魔女は母親の《はるこ》に、出来る事ならば駐車場に行って一緒にいてやって欲しいと頼んだ

 

それで《はるこ》、そして《しゃま》の叔母である《こだこん》も駐車場の《しゃま》を訊ねてくれるようになったまた、それを察して、《はるこ》が《しゃま》の後に産んだ《しゃっぽ》も訪れてくれていた

 

しかし、それより少し前にどこかの家から大きな体の茶トラの飼猫が放たれるようになっていた

 

その大きな飼い猫は、野良のしきたりを知らないものだから

駐車場で傍若無人な振る舞いを始めた

 

《しゃっぽ》や《はるこ》、《こだこん》、さらに《こだこん》について来る幼い子供を虐める

その虐め方はハンパなく、追い掛け回すだけでなく、追い詰めて噛むわ、引っ掻くわ、という相当に乱暴なものであった

 

この大猫、何が卑怯って、女の子と子供ばかりを虐める

《しゃま》は虐められてはいなかったのだが

《しゃま》にしてみればそういった行為が嫌でたまらなかったのだ

 

この大猫は魔女が恐ろしくて

私がいる時は姿を消すのだが、立ち去ったとたんに女、子供の悲鳴が聞こえる

そんな日々が続いて・・

 

遂に《しゃま》は姿を見せなくなった

 

外で暮らせない体になったらいつでも保護できるようにと

私はバッグに洗濯ネットと大きな布のバッグを常に用意している

 

《しゃま》の本心は、《たんぽぽ》や《とらたん》、《らぶ》たちと暮らした場所から決して離れたくないのだ

 

 

その夜も散々探し回って、どこにもいなくて

魔女はいつも《しゃま》と過ごす場所で車止めのコンクリに座って待ち続けていた

 

もう少し待っていたら来るかもしれない

帰った後に来たら嫌だ

そんなことを思ってどうしても帰れなかった

 

飢え死にしかけてるかも知れない

そう思うと居ても立ってもいられなかった

 

時は深夜1時をまわっていた

 

 

魔女さん? 

どうしたんですか、こんな時間にこんなところで

 

そう声を掛けて来たのは忘年会帰りの隣のエリアの猫ボラさんで

 

可愛がってる猫がもう6日もここに来ないの・・

 

そう言うと

その人は、《しゃま》のことは何となく知ってるから自分も探してみる

見かけたらすぐに連絡しますから魔女さんはもう帰った方がいいと言われ

 

それで魔女がトボトボと家に戻ると、直に彼女からlineが来て

「この猫ですか!」 と写メも送られてきた

 

それを見て再び家を飛び出す

が・・ 教えられた場所に、《しゃま》はもういなかった

それから随分探したけど、見つからなかった

 

 

 

翌朝、のらさんご飯に行く前に

昨夜《しゃま》がいたという場所に行ってみた

 

 

そして・・

その場所付近の角を曲がった時

1軒の家の庭横に置かれた車の下から飛び出してきたのは・・  痩せた《しゃま》だった

 

思わず名前を叫び、柵に駆け寄る

《しゃま》は玄関先にまわってこちらに来ようとしたが、果樹園跡の建築現場に工事車両が出入りしているため、怖がってそこで立ち止まってしまった

 

でも手を伸ばせば撫でられる

門扉から手を入れ、久し振りに《しゃま》を撫でる

 

 

ずっとここの庭に隠れてたの?

 

うん・・

 

ぽくは いくとこない

 

ぼくは どこも いくとこない

 

 

俯きながら、《しゃま》がそうつぶやいた

魔女は胸が潰れそうな思いでそんな《しゃま》の言葉を聞いた

 

 

立派な紅孔雀が咲いている夏に、私はまわり道をしてこの家の花を眺める

夏の初め、花を眺めていたら玄関からこの家のご主人が出て来られたので、挨拶をしたことがある

 

さっき、ここに来る途中ですれ違った人がそうだ

 

 

《しゃま》、ここで待っていなさい!

 

そう言って私は今来た方向に走り出した

全速力で走って行くと、遠くにご主人の後姿が見えてきた

 

足を踏み出す度に大きなバッグの中の猫ご飯や食器がガチャガチャと凄い音をたて、すれ違う人たちが何事かと振り返る

 

ご主人に追いつき、後ろから声をかけた

 

 

魔女 「すみません、お急ぎでしょうか」

 

ご主人 「いや、別に急いではいませんが」

 

魔女 「お宅の庭に私が探し続けている猫がいます」

 

ご主人 「・・」

 

魔女 「あの子を・・ お宅の庭に置いてやっていただけませんか!」

 

ご主人 「・・」

 

魔女 「お願いします、あの子は他に行くところがないんです どうかあの子を置いてやってください」

 

ご主人 「・・」

 

魔女 「白で背中にキジ模様のある子です  置いてやってください!」

 

 

ご主人は前を向いたまま・・

確かに頷かれた

 

ありがとうございます!

 

そのまま立ち去られるご主人の背中に私はそう言ってお辞儀をした

 

 

それから魔女はは《しゃま》のところに戻り

あれから毎日持って歩いている《しゃま》のご飯をてんこ盛りにして食器に入れ、門扉の中に置いた

《しゃま》は直ぐにそれを食べ始めた

 

この家の隣は例の「猫は全部飢え死にさせろオヤジ」の家で

私がこうしてここにいると目立つので、《しゃま》がご飯を食べ続けるのを見届けながら、公園に向かった

 

公園の帰り道、再びこの家に寄った

食器もそのままだし、奥様ともきちんとした話をさせていただきたかったから

そこには《しゃま》はいなかったが、たぶん近くに潜んでいるはずだ

 

 

空になった食器を回収し、インターホンを押す

 

暫くすると60代と思しき女性が出てこられた

私は許可なく敷地内で《しゃま》にご飯をあげたことを詫び

その人に《しゃま》のいきさつを話した

 

すると女性は今朝見かけた猫かしら・・ と言われ

 

私は《しゃま》の特徴を言って、その子をここの庭にいさせて欲しいと頼んだ

突然のことに女性は驚いた表情をされたが

 

ご飯はお届けします

何かあったらあの子は私が引き取ります

どうか今はここに置いてやってください!

 

必死だった

今にして思えば、いきなりやってきて何を言ってるんだ、 おまえは誰だ! ってなるのだろうけど

 

私はただただ必死だったんだ

 

 

魔女  「突然伺って勝手ことを申し上げる失礼をお許しいただきたい  

     私は怪しく見えるかもしれませんが、怪しいものではありません

     そこの駐車場や公園で猫にご飯をあげている者です

     駐車場には・・ 不法侵入をして猫にご飯をあげてます」  (じゅうぶん怪しい)

 

 

ここで奥様が意外なことを仰った

 

 

奥様 「私、あなたを知ってますよ」

 

魔女 「え・・」 

 

奥様 「知ってます」    

 

魔女 「お願いです 先ほどご主人にもお願いしたのですが、どうかあの子をここに・・」

 

 

奥様 「いいですよ」

 

魔女 「いいですか?!」

 

奥様 「いいですよ、見かけたらこちらでご飯もあげます」

 

魔女 「ほんとうですか」

 

奥様 「ここでよければあのねこちゃんにいてもらってかまいません」

 

 

体から力が抜けてゆく

 

どんなにお礼を言っても言い足りない

 

ただ、どうして私を知っているのか、っていうことについては、知るのが怖くて流した

 

 

暫く奥様と話をし

滅多に下げない頭を下げて、裏手に回ると

その家の庭から出たところの空き地の隅に《しゃま》がいた

 

私は《しゃま》を撫でながら 「あそこの家にいていい、って ご飯もくれるって」 と言って聞かせた

 

《しゃま》はほんとうに嬉しそうにして、魔女の顔に自分の顔を摺り寄せた

何度も何度も摺り寄せた

 

もう大丈夫

怖い思いをして暮らさなくていいんだよ

あそこのお庭で日向ぼっこもできるんだよ

ただ・・ 隣に家には近づいたらだめだからね

 

そんなことを言って聞かせた

 

 

あの夜、魔女が家に帰った後、深夜の住宅地のあちこちを探しまわってくれ

《しゃま》を見つけて知らせてくれた猫ボラさんに感謝

 

そしてこのご夫婦には感謝してもしきれない

 

 

 

《しゃま》はこれでやっとゆっくりできる

 

 

 

 

魔女は余程のことがない限り自ら人間に声を掛けることはない

のらねこと同じ性質なのでね

 

でも猫のためならこうして人間とも話せるよ

 

 

 

猫たちのことでは苦悩の日々が続いてしまっていて

 

気づいたらクリスマスなんだね・・