奇跡の15日間 ~ 伝言 ~ | まじょねこ日記

まじょねこ日記

魔女の大切な仲間の猫たちの日常をみてください

 

魔女家に来てから直に失明し

一進一退の日々を送っていた《オダギリくん》だったが

 

お盆に入りる頃

右眼球まで表面上ではあと5mmと迫ったところで突然癌の浸潤が止まった

 

目も見えず、鼻腔はむき出しで上顎も舌の上に落ちたままではあったが

《オダギリくん》はそれまでと違ってアクティブになっていった

 

食事量も断然増え

それまでは食べられない日もあり、食べられても一日2パウチと数本のちゅ~るが精一杯だったのが

浸潤が止まってからは一日平均6パウチにちゅ~る、時には8パウチ半を食べた日もあった

 

それでも《オダギリくん》にとって、食べるということは大変なことで

頑張って頑張って、そうして疲れたなら止めにして

また数時間後、《オダギリくん》が 「食べる」 と言った時にまた与える

だから一回の量は減っても食事回数が増えたので摂取量は多かった

 

 

造りを覚えた部屋を、《オダギリくん》は毎日歩き回るので

邪魔なものは全部片付け、ぶつかるものを極力減らした

 

歩き回るうちに水の容器に足を突っ込んで溢し

濡れた足でトイレに入っちゃったりしたのだろう

部屋中には《オダギリくん》の足跡が無数だった

どれだけ歩き回ったんだ・・ と驚いたこともある

 

魔女のベッドにも同じ場所から自由に飛び乗れるようになり

私がいない時は探して歩き回り、それで疲れたら私の寝ている場所で伸び伸びとして寝ていた

 

 

《オダギリくん》は時に悪戯もした

部屋のドアを開けると、魔女のお気に入りのものがそこかしこに転がっている

大きなジャック オー ランタンやゴジラ、ナイトメアのグッズなどが散乱していて

 

なかでも特に好きな遊びは、自分で考えた魔女のベッド脇のカーテン登り

それは魔女がベッドに横になって、そのすぐ上のカーテンによじ登り魔女のお腹の上に飛び下りる、という過激なもので、

《オダギリくん》は飽きることもなく、何度もそれを繰り返したものだ

 

 

そして極め付きは 『お手紙』

 

 

私たちはよく話をした

 

 

 

 

 

 

ねえ、まじょ

 

なあに?

 

ぼくね、ずっと にんげん、きらいだった

 

そうよね

 

まじょとか すこしの にんげんは やさしいけど たくさんの にんげんは だいっきらい

 

わかるよ

 

ぼくらに いし なげつけたり どなったり おいかけたし、あしを ぶつけてきたり (蹴飛ばす) いぬにも おそわれた (犬に猫を襲わせるおばさんがいた)、  せっかく もらった ごはんだって ふみつぶすし

 

そういうことをするのは人間じゃないのよ  

 

にんげんじゃ ないの?!

 

あれはひとでなし、ていう生きもので、人とは違うの

 

じゃあ・・ ひとは とっても すくないんだね

 

でも ここにいたら あんしんだね

 

 

 

 

 

 

 

《オダギリくん》が覚えていないか、覚えていても言いたくないのかはわからないが

彼のあの尻尾は

彼がまだ子供の頃、虐待によって切断されたのだ

 

 

 

そんな中で後半は調子の悪い日もあった

その時、読者様方にたくさんの応援メッセージをいただいた

 

憔悴する《オダギリくん》に私はそれらのコメントを読んで聞かせた

すると彼は驚き、喜び、「おてがみ する!」 と言い出した

 

《オダギリくん》は彼なりの言葉で

それは一生懸命にいただいたコメントへお返事を言い続けた

 

そうしてまた元気を取り戻し始めた

 

 

まじょ やさしい ひと いっぱい いるんだね  ぼく そんなの しらなかった

 

そうよ 

 

ぼくのこと かっこいいって!

 

よかったね

 

かわいいって!

 

そうよ

 

ひーろー だって!

 

うん

 

すーぱーにゃん って!

 

そうね

 

そして おとこまい だって!!

 

そのとおりよ

 

すきって  だいすき、って!

 

よかったね ほかにも たくさんの人がオダギリくんのことを想ってくれていたと思うよ

 

そっかぁ  ぼく ここにきて よかったぁ!

 

《オダギリくん》がそれを決めたのよ

 

ぼく あのとき まじょを まった  ちゃんと まったよ

 

待っていてくれてほんとうにありがとうね

 

 

 

魔女はこんな日がずっと続くことを願ったけれど

 

だからといって《オダギリくん》が失った目や皮膚が元に戻るわけではない

食事を摂るのも水を飲むのも必死だ

他にも不自由は山ほどあって

 

私が世話をするのは構わないし、寧ろ嬉しいのだけれど

当の本猫は心は安らいでも、物理的には辛いことだらけ

 

そんな葛藤を、私は彼の前では表さない

《オダギリくん》と一緒の時、魔女は常にふざけて笑っていた

 

そんな日々が半月続き

 

突然

ほんとうに突然に・・

 

再び癌の浸潤が始まり、それはあまりに急速だった

 

口内からの出血

そして翌日には右の眼球が溶け始め

皮膚もさらに溶け出した

 

私はそんな《オダギリくんに》言った 

「もう少しの辛抱だよ」 「もう少しの辛抱だからね!」 って  

 

そう言ったんだ・・

 

 

そんな《オダギリくん》を抱きしめて、口の血を拭っていたら

《オダギリくん》が顔をあげ、私を見詰めるようにして言った

 

 

まじょ・・ 

 

やさしい ひとたちに ありがと・・ って  いって

ぼく・・ うんと  うれしかった、って

そいって・・   ください

 

ぼく にんげんを・・ きらいがった まま じゃなくて よかった

きらいがった ままじゃ なくて・・ 

 

 

 《オダギリくん》からみなさまへの伝言です

 

 

この翌日、《オダギリくん》はもうお話をすることは出来なくなってしまって

次の日の夜には・・ 逝ってしまった

 

 

 

奇跡の15日間は、3年以上を癌と戦って来た《オダギリくん》へ

お空の誰かさんからの贈りものだったのかなぁ

 

急激な浸潤は口内奥の血管に及び、彼を失血死させた

けれどそれによって、《オダギリくん》は苦しみ少なく、短い間に逝く事ができた

 

私に辛い決断をさせることなく・・ 彼はインドラに導かれ、旅立った

 

 

 

 

みなさま

《オダギリくん》に対して思いやりの心を寄せていただき

そして励ましてくださり

なにもかも、ほんとうにありがとうございました

深くお礼を申し上げます

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の名前は 《こうえん オダギリ》

 

私は《オダギリくん》を公園に帰します