8月30日 金曜日 ~ 最期の時 ~ | まじょねこ日記

まじょねこ日記

魔女の大切な仲間の猫たちの日常をみてください

 

消えゆく『インドラの矢』を緊迫した思いで見詰めていると

 

横たわったままの《オダギリくん》が動いた気がして彼に目を移す

 

ゆっくりと、ゆっくりとだけど

《オダギリくん》が前足を動かしている

 

一歩一歩交互に足を前に出し

まるで歩いているように見える

 

ゆっくりとそれを繰り返す《オダギリくん》

 

それは虹の橋に向かっているように見え

 

「インドラが見えたの!」  思わずそう声を掛けると

 

《オダギリくん》が薄っすらと左目を開ける

 

既に溶けかけている右目は相変わらず開いたままだけれど・・

 

 

暫くして手の動きは止まった

 

 

 

この夜、私は21時から『野郎ども教室』のアトリエ仕事で、車で10分程の隣の区まで行かねばならず

のらさんご飯には家族①が魔女の代わりに行ってくれていてた

 

 

《オダギリくん》にはもう時間がない

ギリギリまで《オダギリくん》の側にいたが、彼はゆっくりとした呼吸を繰り返していて・・

 

家族②が《オダギリくん》に付き添い

私は心を彼の元に残して2階に行き、着替えを始めた

 

仕事を終えて家に帰るのは早くとも23:30くらいになってしまう

私にはもう、《オダギリくん》を看取ることは叶わない・・ 

血が出るほどに唇をかみ締めながら服を着替えていると

 

家族②が 「《オダギリくん》の様子がおかしい!」 と、駆け上がって来た

 

 

《オダギリくん》の元に走る

 

先ほどいたところとは別な場所で、《オダギリくん》は倒れたまま手足をバタつかせた

私は急いで彼を抱いた

 

私に抱かれると《オダギリくん》は大きく溜息をつき

またひとつ溜息をつき・・

 

私の胸に顔を埋めて

息を引き取った

 

 

再びの痙攣

健康な心臓が《オダギリくん》にそれをさせるのだ

 

腕の中で何度かの痙攣の後・・

 

心臓が止まった

 

 

ぐちゃぐちゃな思いを抱え、《オダギリくん》の体に顔を埋め

ずっとそうしていたかったけど

 

私は仕事に行かなければならない

 

《オダギリくん》のを家族②に頼み、仕事に向かったのは9時6分前

車も飛ばしたが、すべての信号が青という奇跡に救われて遅刻を逃れた

 

 

 

家に戻った深夜

私は血にまみれた《オダギリくん》を抱えてバスルームに向かった

 

やっと・・

この子を綺麗にしてやれる

 

 

《オダギリくん》の直接の死因は失血死だ

癌が大きな血管を溶かしたのだ

 

この3日間、私は口の中から流れ出る血と、その塊を拭って暮らした

 

私がいない時、《オダギリくん》は自分でそれを拭う

それで《オダギリくん》の顔と、利き手である左手は血でカチカチに固まってしまう

 

それを時間をかけて拭き取られるのを《オダギリくん》は嫌がった

お湯を持ってしてもなかなか取れないから私もしつこくなり

「もう やだ・・」 と言われてしまった

 

《オダギリくん》が嫌がることはやらない、と決めていたので

その後は口の中の溜まった血を吸い取るだけに留めた

 

 

そして、蚤

《オダギリくん》の体には無数の蚤がいて

フロントラインが使えないため、私は常に手動の蚤捕り器を使っていた

 

それでも捕り切れない

どの猫もそうやるように、《オダギリくん》が口でもって蚤退治が出来ないことをいいことに増殖していく

《オダギリくん》と一緒に寝ている魔女もどれだけ蚤に刺され続けてきたことか

 

この夜魔女が帰宅すると、冷たくなった宿主を見捨てた蚤が這い出し始めていた

 

 

魔女は《オダギリくん》の辛さを想い、シャンプーで蚤たちを洗い流す

 

「痒かったでしょう 辛かったでしょう」  口を突いて出る言葉はそればかり

 

しぶとい蚤たちを退治した後は丁寧に顔と手を洗う

赤いお湯が足元を染める

 

常に浅く開いたままで既に溶け出していた右目を閉じ

左のつぶらな可愛い瞳を閉じ

 

口の中の血溜まりをタオルでそっと拭う

何度も、何度も拭っているうちに

この子を虐めたものの全てが憎くなって

どんどん憎くなって

 

憎くて、憎くて

悔しくて、悔しくて

 

憎悪のあまり

涙が止まらなくなって

 

声を出して泣いた

悔しさのあまり泣いた

 

 

 

 

もう《オダギリくん》を虐めるヤツはどこにもいない

 

 

2時間以上をかけて《オダギリくん》の体をきれいにし、時計を見たら午前3時半になっていた

 

《オダギリくん》の毛を乾かし

部屋に戻って私たちはいつものようにベッドに並んで手を繋いで寝た

《オダギリくん》はそうやって寝るのが大好きだった

 

昇る朝陽が部屋を照らし始める

 

 

 

扁平上皮癌に侵されて

顔の皮膚を溶かされ続け

失明し

牙も抜け落ち

上顎は落ちてしまって

大きく開いた口からは常に血と涎が流れ出て

立て続くくしゃみで顕になった鼻腔からは血飛沫が飛ぶ

 

それでも耐える《オダギリくん》の、少しでも役に立てばと世話を続けた42日間

 

 

これからの自分が想像出来ない

また元の生活に戻るだけだということはわかっていても

壮絶な42日間が魔女にそれをさせない

 

明日からどうやって暮らそう・・

 

《オダギリくん》、私は明日から何をしたらいい?

 

懸命に話しかけても

《オダギリくん》は返事をしてくれない

 

 

ねえ、《オダギリくん》・・

 

《オダギリくん》・・

 

 

 

 

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本日の《オダギリくん》の告別式に掌を合わせてくださった方々

《オダギリくん》を想ってくださった方々

ありがとうございます

心よりお礼を申し上げます

 

 

 

 

魔女のお友だちや生徒さんからお花が届きました

お友だちからはお蒲団もいただきました

《オダギリくん》、昨夜はふかふかのお蒲団で寝ました

 

 

 

 

 

可愛い子はきれいなお花に囲まれて・・

 

 

 

 

《オダギリくん》の体の骨はこれまでの子たちの中でも抜きん出て立派で

病気にさえ侵されなければ、まだまだ元気に生きられたことを証明しておりました

残念でなりません

 

 

 

おかえりなさい、《オダギリくん》

 

楽になったよね・・

 

 

 

 

 

 

魔女はいまだ気力が湧かず、不義理を続けております

申し訳ございません