この手前の貯水槽は幅が80cmくらいある
魔女はしゃがんで地面に這うようにしながら
手前の貯水槽のアルミの蓋の桟の隙間から中を覗き込んだ
「《シャンボ!》」
中に向かって声を掛けると、《サンボ》の悲壮な声が聞こえた
その声は辺りに響き渡り
貯水槽の壁の一箇所にある小さな丸い空洞から《サンボ》の顔が覗いた
そこから顔を上げて私を見た途端
《サンボ》はさらに気が狂ったように鳴き始めた
その姿を見て心臓が止まりそうになった
なぜなら《サンボ》は網の向うの私に向かって体を伸ばし・・
しかしそこから一歩足を踏み出せば、または足を滑らせれば、下の貯水に落っこちてしまうからだ
水の深さがわからない
それがもし深かったら《サンボ》は溺れてしまう
これが貯水槽の中で
《サンボ》は画面左にちょっとだけ見える穴から身を乗り出して鳴いていた
※ 写真は後日に撮ったものです
その時は写真を撮るなんてこと思い及ばなかった
魔女はアルミの蓋をどかそうと必死になった
しかしそれは周囲を土で固められており、ビクともしない
小枝を拾って来てアルミの桟に詰まった土を高速で掘る
高速で掘り返す
おおまかに掘って蓋を持ち上げようとするが、桟の間隔は狭くて指先が少し入るくらいだ
しかもやたら重たいのでまったく動かない
そうしている間も、《サンボ》は私を見上げ、身を乗り出して泣き喚き続ける
「危ないから体を乗り出しちゃダメ!」 思わず声が荒くなる
私は完全にバグっていた
どうしよう
どうしよう
公園管理事務所に連絡しようか
でも知らない人が来たら《サンボ》は驚いて逆戻りをし、迷路のような穴のどこかに逃げ込んでしまうかもしれない
警戒してここに出て来なくなったらお終いだ
穴は土手の下の地下をも伝っているかも知れないから、そこに潜まれたら助けようがない
どうしよう
どうしよう
バールのようなものがあればこの蓋を開けられるかも・・
魔女は道路に飛び出した
作業車が通り掛れば何かしらの道具が積まれていると考えたから
車を停めて道具を借りよう!
しかし、それでなくても交通量の少ない道を作業車などなかなかやって来やしなかった
私はおろおろとしながら道と貯水槽を何度も走って行き来した
そうやって私の足が遠のくと、《サンボ》はシンとなってしまい
戻ると姿が見えなくなっている
けど、《サンボ》の名を呼ぶとまた穴から顔を出して泣き喚くのだ
もう頭が爆発しそうだ
どうしよう
どうしよう
人通りも少ない道で、だがひとりだけ通り掛かった女性がいたが
地面に顔をつけるようにして貯水槽に向かって呼びかける魔女を見たとたん、逃げるようにして去って行った
もうどうしたらいいか分からない魔女は、蓋の周囲を固めるように詰まった土を拾ってきた枝でガンガン堀返しながら家族①に電話をしていた
運の良いことに、たまたま家にいた家族①に、 バールを持って来て! と頼んだ
家にはバールなんてない、と言われた
バールなんてなかった・・
家族①は家にある一番大きなドライバーを持って行くという
私は家族①を待つ間、冷静になって考えようと思ったが、《サンボ》が泣き喚くから心臓が痛くなってきてそれも出来ないでいた
それでもあれこれ考えた
《サンボ》が穴から覗いている貯水槽の蓋を開けられたとしても
地上から穴までは手が届かないじゃないか
私がそこに飛び込んで助けようにも、貯まった水の深さがわかならい
よしんば浅かったとしても、《サンボ》は穴から出せるが、貯水層が深すぎて《サンボ》を地上に戻すことが出来ない
勿論私もまた出られないのだが・・
でも人間はあっぷあっぷしていれば、いつか誰かが助けてくれる
《サンボ》さえ地上に戻せればいいのに
この深さではそれも叶わない
その時
隣の一段高いところにあるさらに大きな貯水槽からも《サンボ》の鳴き声が漏れているのに気づいた
どこかで繋がっている・・
そう思って、そちらに飛び移り、蓋を持ち上げようとすると、これは少しだけ動いた
地面から数十cmほど高くなっているせいで蓋の周囲に土がないからだ
しかも中を覗いたら底には水が溜まっていない
ここならどうにかなるかもしれない・・
しかしこの貯水槽は《サンボ》がいる隣のそれよりも倍近あり
指さえろくに差し込めないこの重たい蓋をひとりで持ち上げることは、どう頑張ってもできなかった
とにかく《サンボ》が水に落ちないことだけを願って、私は必死で大きな貯水槽の蓋を持ち上げる努力をしながら家族①の到着を待った
気が付くと私のまわりには公園組の猫たちが集まっていた
ごめん
またしてもつづきます
土曜日はブログがお休みなので皆様に気を持たせてはいけないので先に言っておきます
《サンボ》は救出しました