ネパール日記 ~ホテル生活 Ⅰ~ | まじょねこ日記

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魔女の大切な仲間の猫たちの日常をみてください

魔女


前回は退院してきたところまで書いた、と思う

これからは帰国に向けての通院治療のため、10日間のホテル生活を送る


病院からホテルに戻ると、ルナが早速魔女の髪を洗ってくれた

ルナは私の片足にビニール袋を巻きつけ

ナイトテーブルをバスルームに運び

そこに魔女を座らせて、片足を便器に乗せろと言う


久し振りの洗髪で、汚れた髪は大量のシャンプーを消費し

魔女のおかしな格好とシャンプーの消費量の凄さに

私たちは洗髪の間中、ゲラゲラと笑い続けた


9月5日


朝ホテルで目を覚まし、うすらぼんやりしていると

誰かが慌しくドアをノックした

扉を開くとユリちゃんとゴパルが立っていた


ゴパルはこのところ魔女の姿が見えないことを気にして、ちょうど通りかかったユリちゃんに尋ねたそうだ

ユリちゃんは身振り手振りで彼に説明したという


ゴパルはリキシャ マン

毎日客を乗せ、リキシャを引いている

町ですれ違う度に、陽気な声で魔女を呼ぶ

その声がとても大きいから、乗っている客も町の人々も私を見て笑う


暇な時はいつもタダでリキシャに乗せてくれる


ゴパルは毎日リキシャを漕ぐ

悪路や上り坂になると体を浮かせて力いっぱい漕ぐ

そういう時は必ず

「オンマニ! オンマニ! オンマニ ベッツメフム!!」

仏様! 自分に力をお与えください、と言わんばかりにマントラを唱える


躊躇しているゴパルを部屋に招き入れる

ゴパルは眉間に深い皺を寄せ、悲しそうな顔で魔女を見詰めた


それから包帯の足を懸命に撫でて

「可哀想に・・ 可哀想に・・」 と何度もつぶやいた


陽気が売り物のゴパルのこんな顔を見たのは初めてだった・・


まじょねこ日記-Gopal

            リキシャマンのゴパル

カメラを向けられて笑顔を作ってくれたものの・・ 些か無理があるな

サヌカンチャがドーナッツを持ってやって来た

2つしか買うお金がなくてごめんなさい、と彼は言った

心からありがたく、それを噛み締めて食べた


彼らは、お腹が減ったら家でダルバートを作って来ますよ、とか

洗濯物があれば出してください、洗って来ますから、と言ってくれた


貧しい人が新聞紙に包んでくる1個のパンが

ポケットから取り出す1個のりんごが

一生懸命魔女の足をなでてくれるその手が

ありがたく、ありがたく、心に沁みる


彼らの収入はささやかではあるが、大切な日々の糧を家族にもたらす

魔女のことは心配いらないから、もう仕事に戻ってください


どんなに貧しくても、みんなが元気に明るく暮らしてくれることが私にとっては何よりで

働くみんなの、いつもの明るい笑顔が大好きだから

魔女の前では笑っていて欲しい


ママがこの日帰国のユリちゃんと絵描きのおじさんに土産を持って来てくれた

魔女にはでっかいパパイヤと好物のパイだ


午後、またサヌカンチャがやって来て

ユリちゃんとおじいさんはホテルを出発するまでの時間を、みんな魔女の部屋で過ごしていた

魔女なしで帰国することに不安顔のユリちゃんに

事細かに帰国の手順を説明した


まじょねこ日記-Sanu

      見舞いに来てくれたサヌカンチャ

        まじょねこ日記-Mr.F

              サヌカンチャの絵を描くおじいさん

夜、階段の上から彼らを見送った

迷惑をかけてごめんなさい

無事に日本に着いてください



今回のことは魔女に良い時をもたらしてくれたと思っている


普段は互いに席を同じくすることもなく、語り合おうこともないだろう人々が・・

カースト・民族が全く違う人々が・・

その階級に関係なく、貧富の差にも関係なく

時には深刻に、そして時には和気藹々と皆で語り合っていた

それは病室と言う場ではあったが

私はそんな彼らの様子を眺めているのが何よりも嬉しかった


        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


魔女が現在の状況を日本の家族に伝えたのは帰国予定日の2日前だ

帰国が延びることになり、否が応でもそれを伝えなければならなくなった


私は人に心配をされることを好まない

どんなに誰かが心配しても状況が変わるわけではないのだから


それならば人に与える心痛は短いほど私は気が楽だ

それだからギリギリまで家族には知らせなかった