魔女
その女性に手渡された写真に目を落とすと・・
そこには見覚えのある少女が写っている
これは・・
ルパだ・・
ママとロミタとその女性が、私の前に立ってにこにこと笑っている
戸惑いながら写真を見詰める私に向かって、ママが言った
ママ 「魔女が撮った写真よ」
ロミタ 「その写真の女の子はこの人の娘なの」
女性 「写真を、本当にありがとうございました、これは私たちが持つ1枚だけの写真です・・ 私たちの宝です」
魔女 「ルパのお母さん・・ だったんですか」
女性 「はい、私はルパの母親で、ガドゥンといいます」
・・・・・・・・・・・
今年の春
それはホーリー祭の日のこと
ママの娘のルナたちとロミタの家の屋上で水掛合戦に興じていた魔女の目に
下の道にひとり佇む少女が映った
家々の前で、家の中から、嬉々として水袋を投げ合う子供たちの中にあって、彼女はその様子をじっと見ているだけだった
楽しそうでもないし、水袋も持っていないし、走り回るわけでもない
ただ立っているだけだから、水をぶつけられるばかりだ
私は下に降りて、家々から水が飛ぶ中を
その子の手を引っ張り、屋上まで連れて来た
そしてプワム(ロミタの息子)に、この子も一緒に水投げをするように言った
プワムは 「いいよ!」 と答えてその少女にも水袋を作ってあげた
少女はこの祭り(ヒンドゥーの祭りだから・・)に慣れていないらしく、人に当たらないようにそれを投げた
人にぶつけるんだよ、と言ってもなかなか出来ない
まあ、楽しきゃ何でもいいんだから、と好きにさせた
少女は暫くそこで遊んで帰って行った
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ここにあるのは、その時に撮った写真だ
私はカトマンズで撮ったママ関連の写真をひとまとめにして、帰国後、EMSメールでママ宛てに送った
そこにはママ一族の他にも
寺院の清掃をしたりプジャのための花売りをする人々、マチンドラ近隣で露天を営む人々、ネワール音楽を奏でるネワール族の人々、近所の子供たちのものなどもあって
それを写っている人たちそれぞれに渡してください、という添え書きをしたためた
その中にルパのこの写真もあった
これを写した場所がロミタ宅の屋上であったため
ママからロミタを経由し、ロミタが近隣を訪ね歩き
ルパの母親に届けられたのだった
私が撮った1枚の写真がこんなに大切にされているなんて・・ 思いもしなかった
思いもしない出来事だったから
自分の心が現実としてこれを捕らえるまでに時間が掛かった
それからルパの話を聞いたりし
「仕事を中断させてごめんなさい」
そう謝っておいとましようとした
するとガドゥンは、山積みの毛糸の隅から、自分が編んだというアームウォーマーとヘッドバンドを持って来て
「こんなものしかないのですが、使っていただけますか・・」 と言いながら、私の手にそれらを握らせた
温かみのある・・
素朴で優しい毛糸だった
ガドゥンが編んだアームウォーマー(左上)とヘッドバンド(下)
(黒いニット帽は前日ソヌの義妹からもらった物)
通りまで出て、いつまでも手を振ってくれたルパのお母さん
買って来て下さったコーラのことが・・ 今でも申し訳なく
戴いたアームウォーマーとヘッドバンド・・ 本当に有難く
そして、何よりも嬉しかったのは
ルパがこんなに優しいお母さんと一緒に暮らしていると知ったこと