水玉
あれからずっと、《アゾ》は自分の役目をきちんと守り
毎朝決まった時間に魔女を起こしている
アゾ (ガリガリガリ!!) 「め、めっだかしゃんの ごっはんのじかんなんだ~!お、おっき まっせいっ!!」
魔女はそんな早起きにずいぶん慣れたみたいだ
おかげで僕らもちゃんとした時間に朝ご飯を食べられるようになった
メダカにご飯をあげて、魔女がお部屋に入って来て言った
「今日も《涼子》がいない・・」
もう3回より多く寝たくらいの間《涼子》が物置に帰って来ない
それで魔女は心配して笑わなくなった
《涼子》が一人暮らしを始めたのはこの前のこのくらいの時だった (ちょうど1年前という事が言いたいのです・・)
あれからお化け屋敷(壊れかけの無人アパート)の2階
僕の利き手から3っつ目の部屋で暮らしていたんだけど
どうやら悪いものを食べたらしく
部屋で動けなくなっている所を、みんなで救出した
それ以来《涼子》は
夜は家の物置、昼はお化け屋敷の庭で過ごすようになっている
壊れかけの物置の屋根の上でお昼寝中
その《涼子》がこのところいないんだ・・
魔女は毎日タャラスから《涼子》の名前を何回も呼んで
夜もあまり眠ってないみたい
その証拠に、《アゾ》が起こしに行くと、すぐにドアが開く
そして一日中深刻な顔でブツブツ言っている
「《涼子》がいない・・ 《涼子》がいない・・」
魔女 「《水玉》、《涼子》を探して来て!」
僕 「また僕なの! この暑いの中を探せってか?」
魔女 「また悪いものを食べてどこかで倒れているのかも」
アゾ 「《あ、あじょ》は そっこらじゅうを うろうろついているが どっこにも 《りょこたん》 おっちてませんがの」
魔女 「なら、どこかの物置入り込んで、その家の人がそれと知らずに戸を閉めちゃって閉じ込られているのか・・
てことは、熱中症・・ 水も飲めなくて脱水症・・ 飢え死に・・ 大変だ!! 《水玉》、近所の物置を一軒一軒あたって!!」
僕 「ちょっと待ってよ・・ あの用心深い女がよその物置に入り込むなんて有り得ないよ」
魔女 「じゃあ・・ どこかのオス猫に襲われた・・」
僕 「待ってくれよ、ここらは僕の支配下だぞ! 誰にもそんな事出来る訳ないじゃん」
魔女 「そおなの! 《水玉》が支配してるの?!」
ジョン ブリアン 「そうだよお!知らなかったの!? 《水玉》はものすごく強いんだから」
僕 「《ジョン ブリアン》、いいから魔女に教えてやれよ、この辺りで僕がどのくらい強いかをさ」
ジョン ブリアン 「わかった! 《水玉》はね、下の先のあっちの方のアパートのおばちゃんからご飯を貰う時、いつだって一番なんだから! んでもって、その後ろの壁の影で大型ノラ猫のハナクソやポチがそれをうらやましそうに、よだれを垂らしながら、しかもこっそり見てるんだよ。 それで《水玉》がご飯を残すと、こそこそやって来てそれを貰うんだ。 すごいでしょ!」
魔女 「・・」
僕 「・・お、おまえ」
ジョン ブリアン 「しかもそのご飯てば、すっごいご馳走なんだよね、《水玉》!」
みんな 「・・・」
ジョン ブリアン 「あれ・・? みんなどうしたの?」
僕 「おい・・ おまえぇぇぇぇ・・」
ジョン ブリアン 「え? え・・? あっ・・ 言っちゃった・・」
すごく気まずい空気が流れた
ここは・・ すべてなかったことにしなくちゃいけない・・
僕はそう思って、取り合えず首を掻いてみた
後ろ足でもって、必死で首を掻き続けた
首が痛くなって来た 掻き過ぎた・・
仕方ないから体をなめることにした
僕は体中を延々と、延々と・・ なめ続けた
何かをしていたかった
顔を上げたくなかったから
何もかもなかったことにしなくちゃならないから
何もかも忘れちゃわなきゃならないから
僕はなめ続けた
すると・・
「うっ・・ ク・・ クッ・・クエ~! ク、クエェェェ~!!」
お、お腹がゴボゴボして来た
「グゲエェェェ~~!!」
そして僕は・・
大量の毛玉を吐いてしまった・・
魔女 「《水玉》・・ もういいから、《涼子》を探して来て・・」
僕は文句も言わずに家を飛び出した
《涼子》を探して家に連れて帰れば
きっと、みんなはさっきの事を忘れるだろう
そう思った
とにかく、《涼子》を探そう
それしかない・・
魔女 (忘れねえよ・・)