彼との恋が死んだ弔いをしたいと思いながら日々に忙殺されてうやむやになってる気がします。
誰に言えるでもないこと、ここで綴ります。




彼と出会ったのは、22歳の時。
バイト先の社員さんでした。



私はホールとキッチンを繋ぐディシャップという役割を任されていて、ホールでのトラブルやキッチンでのトラブルをうまく双方に伝えて円滑に仕事が回るようにする役。中で働く人の相関図が不思議と見えてくる。



彼は黙々とキッチンで仕事をしていて、とにかく声が小さい。人と距離を置いている印象で、冴えなかった。



忙しいと苛立ち人に対してあたりがきつくなる人や、調子にのって人を傷つけるような発言をする人がいるなか、彼はどんな時も変わらなかった。



冴えないけど、弱い立場の人に優しかった。洗い場のおばちゃんへの気遣いは必ずしてた。
キッチンの人のミスもその人が気付かないようにさっと直してあげてた。
どんなにあたりがきつくなっても、ずっと耐え忍ぶ人だった。




でも、無表情だった。ぼそぼそ喋るし、なに考えてるかよく分からない人だった。




たぶん、気になってたんだろうな、この頃から。
ずっと喋ってみたい!って思ってた。



キッチンで陽気なおっちゃんがいてて、私のこと勝手に「フジッコ」って読んでるおっちゃんがいた。そのおっちゃんが「フジッコ~!釣りいくぞー!」って誘ってくれた。「行きます!誰が来るんですか?」「え?俺だけやけど」「え、嫌です。誰か誘ってください」って会話の流れで彼にお呼びががかかった。おっちゃん、ええ仕事する!ってめちゃ思った。





彼に「明日来れますか?」と聞くとぼそっと「雨やろ」と返ってきて…「晴れたら来ますか?」「うーん…(あまり乗り気じゃない)」「私てるてる坊主作っててでも晴れさせます!来て下さい!」って言うたら狼狽えてた。笑∥




その日は残念ながら雨。
なんとなく、彼が私に興味ないこともわかってて、強引に誘ったことに気恥ずかしくなった。




次の日バイトで彼と会ったとき「雨でしたね、すごく残念でした」とだけ伝えて引いた。彼が行かないなら釣りにはあまり興味はないからもう実現しないだろうなって思ってた。




そしたら、彼からおっちゃんに釣りに行きたいと何度か言ったらしく次の予定が決まった。その日待ち合わせ場所に行くと誰よりも早く来てる彼の姿があってびっくりした。




釣りの餌の海老を見ながら「なんか可愛そうやな」って呟いてた。でも、釣りの間すごく楽しそうで今まで無表情しか見たことなかったからすごく嬉しかった。帰り際、なんだか離れがたくて…彼もじっとこちらを見て…でも無言だった。おっちゃんが「なんやお前ら俺を置いてくな」と茶々を入れてきた。そのまま帰路についた。




私は、彼の連絡先を知らない。
何も出来ずに終わった。



彼は次の日からも変わらず無表情で黙々と仕事をしてた。何も変わらない日常。ただおっちゃんが釣りの話をすると時々にやっと笑った。




勇気を出して連絡先を聞いた。
メールした日は眠れなかった。ずっと待ってたけど返事はなく、完全に脈無しだと思った。




ある日、深夜に着信があった。
電話に出ると向こうは酔ってて…何を話したかは覚えてない。でもすごく嬉しかったのは覚えてる。




それから時折深夜に着信があった。




ある日、飲みにいきましょうとメールが入ってた。具体的なことをこちらが送ると返信はなく、これが社交辞令なのかなと落ち込んだ。




でも、こちらからいつにするかメールした。シフトを調べて◯日はどうですか?と送った。
◯日は無理ですとだけ返信があった。




彼が何を考えてるかわからなかった。
だから電話した。




「◯日はだめですというのは、予定が入ってるから別の日にということですか?それとも社交辞令で飲むつもりはないというお断りの文句ですか?」



「前者です。その日は予定があるので違う日なら行けます。」





安心した。それから程なくして彼からこの日ならOKという日を教えてもらった。二人で初めて会えた日。本当に嬉しかった。




本当に色んなことを話した。この人はこんなにしゃべる人なんだとびっくりした。彼は幼い頃母を亡くしていた。母を亡くして何故、こんなに真っ直ぐなんだろうととても尊敬した。ただ、彼は自分の未来に期待してはいなかった。




長いエスカレーターで彼が、大切な人を亡くすくらいなら一人でいた方がましだと言った。



ズキンと胸が痛んだ。



なんだか色んな思いが込み上げて口をついて出てた。


「そんなこと言ってたら死ぬとき本当に独りですよ!私は死ぬとき、家族がいて欲しい。でも、その家族だって自分で作らなきゃできないんです。友人だって同じです。病床で周りを見渡したとき心配してくれる人が一人もいない生き方選んで本当に幸せですか?」



「それは、確かに寂しいな」と彼は呟いた。




その後暫くしてから彼と付き合い始めた。




彼はよく、自分は長生きしないと言ってた。母親が癌でなくなったことで自分もいずれそうなると勝手に思い込んでて、こんなやつもいたなと思い出してくれたら幸せだなって何度か言われた。



いつも軽く怒って終わってたけど、めちゃくちゃ叱ったときがある。彼の誕生日の前だった。




「そういうこと言うのはずるいです!最愛の人を失って苦しい思いした人間が、あなたを思う人間に対して同じ思いを味合わせるんですか?失う想像して辛いのは私もおんなじやんか!もう言わんといてください」




そうぶちきれた日から言わなくなった。
その年の誕生日、30本の蝋燭をケーキにぶっさしまくったら彼が大笑いして「この蝋燭は無理がある。何年続ける気?」と聞くから「100本まで!」と言うと…「それもいいね」と何とも言えない笑顔で笑ってくれた。否定しなかった。




「死んだらあかんよ」
「わかった」




…でも、この恋は結婚という形にはならなかったからもうケーキに沢山の蝋燭をぶっさす楽しい夢はもう叶わないんだなと思う。ずっとそばであなたの生きていることを祝い続けていたかったよ。




あなたは最初の頃、私の誕生日は私の欲しいものを聞いてくれた。でも、私は選んでほしかった。



あなたが大切な人を思ってプレゼントを選ぶ時間そのものを、私は欲しかったの。




付き合って2年くらいしたとき馬鹿高い電子辞書をお願いした。それはね、選んでくれなかったから。労力を使ってくれないならお金で示してもらうしか愛情を感じられなかったから。




でも、何故か嬉しくなかったの。虚しかった。




私が、あなたからもらった過去すべてのプレゼントの中で一番嬉しかったのは、遠距離恋愛をしてて新幹線で帰ろうとしたときコンビニで買ってくれたお弁当と暖かいお茶だった。




だって…私のことを本当に思って何がいいかあなたが考えて買ってくれた最初のプレゼントだったから。




一生懸命私のことを思ってくれたならただの石ころでも嬉しかったんだと思う。あなたそのものが私にとって大きな価値があったから。





お弁当が何よりも嬉しいプレゼントだったことを伝えると、次の年から誕生日に何が欲しいか聞かなくなった。そして素敵な花を送ってくれるようになった。




お花やさんにあなたがいる姿は想像しただけでも笑えて、本当に似合わなくて…私を思って柄にもないことをしてくれることが嬉しかった。




いつも、毎日思ってた5年間だったよ。片時もってことはもちろんないけど、1日のうち必ず何回か思ってた。美味しいもの食べたら彼にも食べさせてあげたいと思った。綺麗な景色を見たら一緒に見れたら幸せだなって思った。




横で眠るとき、最初の頃はうなされたり、時折ビクッと硬直したりして安心して眠れてない感じだったのが、何年か経つうちにぐっすり眠れるようになってたのも嬉しかった。何かに怯えるようなところも、いつの間にか消えててゆったりと構えている人になってた。




私が包むように寝ていたのに、いつからだろう…いつの間にか包まれる形で眠ることが定着してた。
とてつもない安堵感があった。




二人で同じ方に向かって歩いてるって思ってた。
でも、最後の方は私が駆け足であなたを置いていったのかもしれないね。





すべてが懐かしくて、もう戻らない。




いつかこんなこともあったねと笑い会える日がくればどんなにか幸せだろうか。結婚にはたどり着けなかったけれど、私はあなたが大好きだと思う。




出会えて、あなたに恋をして、沢山の日々をあの人を思いながら過ごして、その一瞬一瞬に何も後悔はしていない。きっと今の私があの頃に戻っても、あれ以上のことはできない。一生懸命だったから。
先が見えないから頑張ってこれたよ。





あなたにとっても、素敵な思い出でありますように。今は嫌な思い出だと蓋をしたとしても、いつか私と過ごした日々を素敵な思い出だと懐かしく思いながらお酒を飲んでくれる日が来ますように。