昔、昔、遥か遠い北の国に一人の孤高の王がおられました。
王の即位の時に合わせて、ダイヤモンドの様に冷たい氷の地にて、世界最古であり、世界で最も高い孤城が建てられました。
はじめは極僅かだった王の家臣の数も、世界に轟く王の武勇に引き寄せられる者が次から次へとやって来て、数ヶ月後にはで倍の数に、一年で更に倍の数へ増え続けました。
しかし、国が栄え街が賑わおうと、王はいつまでも変わらずに孤高であらせられました。
民が増えれば治世は乱れる。
私利私欲に心を染めた者しか王の側へは寄ってこない。
王はそう考えておいででした。
そして、自らが城下で民と交わることを決してよしとはされませんでした。
孤高の王が国を治めて、人の年で一年が経ったある日のこと。
ベランダから城下を見渡していた王の眼に、赤い鳥が一羽空を飛んでいるのが見えました。
遠い空にある豆粒のような点が、次第に大きくなり、城へ向かって真っ直ぐ飛んできました。
そして、鉛色の空を一度大きく旋回すると、王の立つベランダに降りてきました。
白銀に鈍く光る腰まで届く長い髪。
右の瞳は鮮血の赤。
左の瞳は大海の蒼。
紙の様に白い肌。
真っ赤な翼を持った鳥は、人の姿をしていました。
突然現れたその者は、王の御前に跪き、深く頭を垂れて言いました。
『吾が真名において、永久に変わらぬ忠誠をここに誓約する。吾が全てては吾が君の御為に…』
王は驚きに見張っていた目を和らげて、その者の見ました。
王はその者が何者か、御存知でした。
そして、鮮血の翼を持つ者の真名を呼び、誓約を交わしました。
これは、今よりずっと、遥か昔の始まりの物語。