これまでの記事はやや戸建て住宅に偏っていた感じなので、最近「マンション防災の新常識」(釜石徹、2020) を読み直しました。
氏はマンション防災士を自称し、マンションの防災に詳しいそうです。読んでみるとほとんどの事が納得できる内容でした。そのサワリを紹介すると、
*東京湾北部地震などでは1週間以上の停電を覚悟すること ➡ 湾岸の火力発電所12基はほぼ停止する
*マンション防災の目的は
① 自分のマンションから死傷者を出さない ➡ 家具の転倒防止、ガラス飛散防止フィルム
➁ 人命救助と初期消火ができる備え ➡ 室内に消火器
③ 長期の在宅避難に備えるノウハウを広める ➡ 1週間以上の各戸備蓄 (共同備蓄は勧めない)
*「マンション防災スマートシート」で防災活動のチェックを (釜石氏オリジナル)
等です。いちいちなるほどという内容です。
しかしトイレについてはちょっと疑問があります。お風呂の残り湯を流してはダメだというのです。震災時にトイレなどを流すと、下水機能が損傷している場合に1階で逆流して吹き出すことがある、というのです。
お風呂の残り湯については昔から議論がありますが、大切な資源です。またトイレが流せないというのは、点検しないで流してしまうと稀に支障がある場合もあるということです。
◆あらためて調べてみましたが、マンションの排水機構は次のようになっているそうです。
各住戸の便器➡ (各戸の) 横引き管➡ 排水立て管 (共用、住戸のタテ一列ごとに1本ある)
➡ 建物下の横引き管 (共用) ➡ (その建物の) 汚水桝 ➡ (公共)下水桝➡ 公共下水管
排水立て管はほぼ垂直なので詰まることはなく、問題は各戸の 横引き管だと思われますが、これは各戸の専用部で仮に詰まっても共用立て管とは無関係であり、他戸が迷惑することはないはずです。
洗剤カスや皮脂、髪の毛で詰まる恐れがあるといわれますが、風呂桶で石鹸を使うのは日本では稀ですし、髪の毛は除ければいい。そもそもウンチを流そうというのに微量の石鹸とか皮脂が問題にはならないでしょう。
建物下の横引き管で固まるのが心配かもしれませんが、それは小水の排水などでときどき水を流す方が固まりにくくて良い、ということになります。地下の横引き管が地震動で損壊する可能性は地上部よりかなり低いでしょう。
◆公益社団法人 空気調和・衛生工学会の小委員会 (2017-2020、長谷工、鹿島などが参加) がマンションの災害時トイレ使用についてガイドラインを発表していますが、管理組合で下水の流下機能を確認して問題なければ、バケツで流してよい、としています。
https://www.mckhug2.com/20200625_siryou02.pd
◆下水道機能自体の喪失ですが、これはごく稀です。下水が詰まって1階から汚水が吹き出したという話を調べてみると公共下水道の故障や閉塞ではなく、マンション側の管や揚水器の損傷などがほとんどです。地震は多いですが公共下水道が壊れて機能停止というのはあまり聞きません。
能登半島地震でも、石川県下水道局の報告書では、修理箇所は多かったが下水道機能自体が喪失したという箇所はなかったそうです。上水はズタズタで、そのためにトイレが流せなかった所がたいへん多かったのです。
東日本大震災では海岸付近の終末処理場が津波で損壊して機能停止したということがあったようですが、あれは地震動よりも津波が主因でした。八潮市の件は地震ではなく老朽化でした。いま全国で点検が始まっており、補強作業が進むはずです。
◆国土交通省で震災時に風呂の水を流すのは厳禁とPRしている、という情報が流れていますが、そのような資料は見当たりません。悪質なフェイクです。
検索でやっと見つけた「あいち水道職人」さんのサイトでリンクされている国交省PDFは、1階から下水が噴き出すことから始まるマンガですが、全体としては国土交通省のマンホールトイレ設置PRのために作成されたパンフであり、マンションのトイレ問題を解決しようというものではありません。
要するにマンションでは定期的なメンテナンスと、震災時の「下水の流下機能の確認」が大切だということではないでしょうか。
