マジだみの「本当の狙い」という

謎ワードに

支部長も顔役もポカンとする一方、

 

千鶴子さんは訳知り顔で

ほほ笑んでいます。

 

 

。。。。先日の、

タヌキが自転車の飲酒運転騒ぎを起こした夜

タヌキの他にも、自転車の飲酒運転をした

可能性のある人がいます。

 

マジだみの暗い声に

顔役が「あ、」と声を上げました。



 

「祝勝会に参加した

子ども達のパパママさんたちよね?」

 

千鶴子さんの指摘に

マジだみは頷きながら

 

あの日は地区大会の日で

嬉しいことにウチのスポ少チームが

優勝しました。

優勝したのは久しぶりで

だから急遽「祝勝会」を開くことになったと

その日の夕方、タヌキから連絡を受けています。

 

ただ、繁華街の居酒屋で

大勢集まれる場所を確保できなかったので

この地域から少し離れた

監督んちの近くの飲み屋を

監督の顔キキで貸し切ったんですよね。

 

うちのタヌキもですが

保護者さん達の中にも

自転車で飲み屋に駆け付けた人もいるはずです。

 

 

「いや、パパママさん全員

自転車だったんじゃねーか?

俺ぁ、あの日現場(仕事)入ってたから

かあちゃんに頼んで

現場から飲み屋まで車で

連れてってもらったけどよ」

 

と顔役が呟いた後

会議室に沈黙がおりました。

 

 

マジだみは一呼吸おいて

 

ミニだみが警察関係に就職したい、

という事もあって

私は警察のことを色々調べていたんですが


。。。。今はどうか知りませんが

ちょっと前までの警察官は

出世のために

「違反の検挙率を上げる」

ってのがあるようで。。。

 

 

「ああ、確かにそうみたいね」と

支部長は相槌を打ちます。

 

 

多分、これから

警察による自転車の飲酒運転の取り締まりが

強化されると思うんです。

今回はたまたま

飲み屋の近くで検問を張っていなかったし

タヌキの自損事故だけで済んだので

良かったですが。。。

 

今後、祝勝会の帰りに保護者さんが

自転車の飲酒運転で捕まったら

目も当てられません。


 

「お父さんお母さんを喜ばすために

子ども達は試合を頑張ってるのに、

そのせいでお父さんお母さんが

会社をクビになったら、悲惨よ」

 

 マジだみが懸念したことを

千鶴子さんがズバリ言い当ててくれます。



「こりゃあ。。。

思ったより深刻な話だぞ。

なぁ、シゲちゃん」

顔役は支部長を見やります。




マジだみは

シゲちゃんと呼ばれた支部長に向き直り


ちなみに、子ども連合って

その運営のために

市からの助成金を使ってますよね?

と投げかけました。



急に水を向けられた支部長は

「あ、ああ。」と

ビクリとしながら頷きます。



子ども連合の体育部の方々(監督衆)は

よく飲み会をされてると思うんですが

「足」はどうされてるんですか?



支部長はたじろぎながら

「ま。。。ぁ、徒歩の人もいるけど

自転車もいるな、いや、

僕も自転車を使ってるなぁ。。。」



面目無さそうに

支部長が頭をかくと


いえいえ、これまでの話は

もう良いんです、と

マジだみは助け舟を出して



仮に、これからも

自転車で飲みにいく

どこかのチームの監督さんがいたとして

それを町の人が

見かけたとするじゃないですか。



その中には、親切な人がいて


別にその監督さんが警察に捕まらなくても

わざわざご丁寧に市役所に

連絡を入れると思うんです。


「市の税金使ってる連中が

自転車の酒酔い運転してるぞ!

そんな所に税金使っちゃいんだろ!」と。



マジだみの誇大妄想とも言える話に

いや、そこまでは。。。と

言いかけた顔役を

何か思い当たることでもあるのか

支部長が制しながら


「確かに、その可能性はある」と

強い口調で断言しました。


マジだみは頷きながら


このご時世、

TwitterみたいなSNSで情報が早く回りますし

もし炎上でもしたら

全く関係ない人達が面白半分に

市役所へじゃんじゃん電話を掛けてきて

市役所にもご迷惑かけますし

それが原因で子ども連合の存在も

危うくなってしまうかもしれません。





「。。。時代は変わったね。」

千鶴子さんの言葉に

少し呆然としていた支部長は

気を取り直したようで


「ちょうど、今度の週末に

監督達の飲み会があるんだよ。

早速、自転車禁止にして

バスを使ってもらうよう、

監督達に連絡入れなきゃな。。。


。。。まぁ、その、

みんな守ってくれると良いんだけど

。。。うっかり自転車で来ちゃう人も

いるかもしれんな。」


支部長のセリフの最後は

自信なさげな雰囲気を醸しています。




「そこなんです」


マジだみは少し強い口調で


仲間うちで禁止したり

皆さん気を付けましょう、

というだけでは

ただの標語になってしまって


皆さん自分事としてなかなか

捉えてくれないと思うんです。


そこで、

先ほど「建前」と言いましたが

今回のタヌキの辞任と処罰を

そのために使ってほしいんです。



「。。。あー、そっか、

なるほどねぇ。」


顔役はすぐに理解してくれたようで


「つまり、『飲酒運転したら

タヌキさんみたいな目に合うぞ』と、

えーっと、なんつーか、

人身御供?吊るし上げ?みたいな形に

したいわけね。」と

顎をなでています。



マジだみが是を示すと


「でも、そうすると

タヌキさんの立場が。。。ねぇ。

実際、警察に捕まったわけじゃなし」と

支部長がタヌキにフォローを入れます。


すると

今まで黙っていたタヌキが


「あ、いや、

飲酒運転をしてないつもりなんですが

飲酒運転を疑われても仕方ないことを

私はしでかしました。


それに、吊るし上げを覚悟するよう

ウチの奥さんから言われてますし、

それで皆さんが少しでも

飲酒運転をしなくなるんだったら

私は構いません」と


タヌキはやっと漢を見せました。



また会議室に沈黙がおります。


「。。。わかった。」

顔役がうん、と伸びをして


「この件は監督と相談して決めて

追って連絡させてもらうから、

それまでは悪いけど

タヌキさんはいつものように

スポ少のコーチをやってちょうだい。


実際、タヌキさんがいないと

子ども達の練習が出来なくなるからさ」


承知しました、と頷くタヌキ。


一方、支部長はしかめっ面をして

「うーん、こっち(子ども連合)に

関しちゃねぇ。

処罰っつっても前例がない。

それに、下手にタヌキさんに

何か罰を受けてもらっても、

その後にもっと大きな事をやらかした人が

出てきたら

もっと大きな罰を。。。

って話になりかねんしなぁ」と

ブツブツ呟いています。



「だったらさ、

『説明責任を果たす』って感じで、

皆んなの前で今回の出来事を

タヌキさんに説明してもらったら

良いんじゃない?」と

千鶴子さんがアイデアを出してくれます。


「あ!それ良いね!」

支部長は猫背になっていた背中を

ピンと張ります。


「なんか政治家みたいだけど

よしよし、それで行こう!

えーっと、じゃあ早速、会長に連絡入れるわ。

タヌキさん、悪いけどそれで良い?」


軽く会釈するタヌキ。


今度の定例会はいつだったっけ?

支部長がスマホを取り出し

カレンダーを確認しています。



。。。あ、すみません、支部長。

最後にもう一つお願いがあるんですが。。。


ん?と

支部長は顔はスマホに向けたまま

目だけこちらに向け

マジだみの言葉を待っています。



子ども連合は

地域の祭りやスポーツ振興以外に

防災・防犯を地域に啓蒙する役割を

担ってますよね。

警察署と連携してる行事とか

あるんでしたっけ?



あー。。。と

支部長は首をかしげ


「地域の消防団と一緒に

活動することがあるから

消防署とは連携してるけど

そういや警察署とはしてないな。」



じゃあ、今すぐでなくとも良いんですが、と

マジだみは前置きして


これから自転車の飲酒運転を

撲滅する活動をやるんですから

いっそのこと、

警察署にも協力してもらったら

どうでしょうか?



ほう、と支部長が唸ります。



自転車罰則の厳格化は

飲酒運転だけじゃなくて、

スマホやイヤホンの「ながら運転」も

含まれます。


うちのスポ少の子達だけでなく

野球部の子たちも

遠征には自転車を使います。

なので、例えば

市民祭の時に警察署にお願いして

自転車の安全講習をやってもらうとか。



子ども連合側の担当者として

うちのタヌキを使っていただいても

良いですし。




「え?ちょっ、そんな話、聞いてないよ!」

タヌキが慌てています。



ほとぼりが冷めたら

アンタのことだから

またお酒で失敗しそうだもん。


だけど警察署に関わることになれば

ちょっとは気が引き締まるよね?


マジだみが口を尖らせると


あはは、と千鶴子さんは吹き出して

「まぁ、誰が担当になるかは置いといて

良い考えじゃない、ねえ?支部長。」



んー、と支部長は天を仰ぐと

「もう今年度の計画は立てちゃったけど

新しいイベントを考えるのも

我々の役目だから

そこら辺も会長に相談してみるか。」



お忙しいところ申し訳ありませんが

よろしくお願いします、と

マジだみは丁寧に頭を下げました。






さ!これで

タヌキさんの事情聴取は終わり!


千鶴子さんは立ち上がると

町内会館に備え付けてある

冷蔵庫を開けます。


お、こりゃ美味そう!


千鶴子さんが持ってきたのは

手作りのチーズケーキで、

一気に場がなごみました。


今、コーヒーも淹れるから

ちょっと待っててね。




※※※※※※※※


翌日の早朝


マジだみはいつもの散歩ルートを変えて

タヌキが倒れていた神社まで

やってきました。


血溜まりが出来てた、と

ミニだみがリポートした事故現場は

ここ数日の雨ですっかり洗い流され

その面影はなく、

地面には

落ちた木の葉が風に舞っています。



用意したお賽銭を

賽銭箱に投げ入れ、

手を合わせます。



神様、

タヌキを救ってくださって

ありがとうございました。


これで、

良かったでしょうか?


これからも、この地域に住まう人達を

お守りください。。。




境内を出て

住宅地の路地に入る時


自転車の後ろにちびっこを乗せた

ワークママが

滑らかにマジだみを追い越して

保育園へ急いでいます。


今日も気を付けて

行ってらっしゃい。




おしまい。