新型コロナウィルスが
日本中を席巻する前の2020年2月、
話題の映画がひとつ公開されました。

タイトルは「犬鳴村」。。。

このタイトルを聞いて
ああ、あそこがネタなのね、と
ピンときた方は多いのではないかと
思いますが

映画「犬鳴村」とは
福岡県中部に位置する心霊スポット
「犬鳴峠」が
舞台となっていまして

心霊が原因かどうかは分かりませんが

若い女性が犬鳴峠へ連れ去られたり
男性の焼死体が発見されたりするなど

実際に
怖い事件が起こった場所でも
あります。


肝っ玉の小さなマジだみは
この手のホラー映画が大の苦手で
当然「犬鳴村」も観るつもりは
ございませんが

若気の至りと言いますか

マジだみが大学生の頃に一度だけ
この「犬鳴峠」に
行ったことがあるのでございます。


マジだみが通っていた大学は
「犬鳴峠」から
わりと近い場所にありまして

マジだみの男友達には
バイトで稼いだ全財産を
日産シルビアの改造に注ぎ込む
「走り屋」君
(峠をドリフト走行など
運転テクニックや速さを競う輩)が
いたものですから

必然的に
「犬鳴に行ってみようぜ」という
話になります。


で、当時のマジだみは
今のようにビビりであったものの
怖いもの見たさのスリルを味わいたい
欲望が先に立ち

友達数名と夜の犬鳴峠へ
ドライブする約束をしました。


ところがドライブ当日。。。

バイトが入っただの
彼(彼女)とのデートに誘われただのと
ドタキャンが相次ぎ

結局、参加メンバーは
走り屋君とマジだみと
二人だけになってしまいました。


うーん、ふたりだけかぁ。。。

この事実を走り屋君から聞かされた時
マジだみは尻込みしましたが

物理的に
運転手の走り屋君がいれば
犬鳴峠までは行けますし

友達を迎えるため
自分の愛車を掃除していた
走り屋くんの動向を知っていましたし

「マジだみが行きたいなら運転するよ」と
走り屋君が気を遣ってくれまして

今考えると
走り屋君は「やっぱ行かない」という
マジだみの言葉を
待っていたのかもしれませんが

ここで断りゃオンナがすたる、と
勘違いしたマジだみは

脈拍の上がる心臓を押さえつけて
「せっかくだから行こうよ!」と
笑顔で快諾してしまいました。。。



心配性の両親には
「大学に泊まってくるから」と告げ

(マジだみの大学では
模型などの課題を仕上げる為に
泊まり込みする学生が
珍しくありませんでした)

夜の11時、大学近くのファミレスで
マジだみは走り屋君と落ち合い

そこで小一時間、お茶をしてから
深夜の犬鳴峠を目指しました。



遊園地を目指すドライブなら
参加メンバーが少なくとも
次第に気分は上がってきますが

マジだみ達が走る道路の先にあるのは
日本屈指の心霊スポットであります。

車の中では
両手の指からこぼれるほど語られる
超常現象の噂話が
マジだみ達の口を塞ぎ

空気を読まないFMラジオのDJが
元気良くj-popのヒットナンバーを
カーステレオから垂れ流していました。


そして午前1時。。。
ようやく犬鳴峠のある山の麓に
到着しました。


※犬鳴峠にまつわる超常現象は
「犬鳴トンネル」というトンネルの中、
あるいはその周辺で見られるお話です。

そのトンネルは
新しく整備された国道にある
「犬鳴トンネル」ではなく
旧道の「犬鳴トンネル」のことを指します。

現在、旧道への道は封鎖されていますが
マジだみの学生時代には
まだ封鎖されていませんでした。




マジだみ達の目の前には
夜空よりも黒々しい
壁のような険しい山がそびえ立ち

車のヘッドライトは
数十メートル先の闇に
飲み込まれています。


「いよいよだねぇ。。。」
走り屋君とマジだみは
お互い引きつった笑顔を交わし
また無言となって
整備された国道を登ること10分。。。


山の中腹あたりに差し掛かった時
国道沿いの白いガードレールが途切れ

「旧道→」

と小さな字で書かれた
古ぼけた看板が目に入りました。

あ、と
マジだみが声を上げる前に
滑らかにハンドルを切る走り屋君。

走り屋君の愛車シルビア180は
マフラーの低い唸り声を上げながら
旧道に入りました。


。。。。。


マジだみは生まれてこのかた
幽霊を見たことはございませんで

言葉で表現するのが難しいのですが
旧道に入った途端

「空気が変わった」

と感じました。


旧道の脇には
手入れされていない雑草が伸び放題で
それらは車よりも高く
蛇行する旧道の視界を遮ります。

旧道のところどころには落石も見られ
その落石の先には、これまた
覆いかぶさりそうな崖がそそり立ち

それを見ただけでも
ドライバーの心が折れそうになるのですが

「漫画か?」と疑うタイミングで
いきなり
車が霧に包まれてしまいました。


もう、目の前全ての風景が
「ここから先に行くな」と全身で
マジだみ達を引き留めていて

むろん
引き返したいのはやまやまなのですが

なんせ細い道なので
車を切り返せるような広い場所が
見当たりません。


ここでマジだみがパニックに陥ると
走り屋君に大迷惑を掛けてしまうので

出来るだけ平静を装い

「こりゃ、広い場所に出るまで
進んだ方が良いね」とマジだみは提案し
走り屋君も是を示したので

ヘッドライトが乱反射する霧の中

落石に注意しながら、ゆっくりと
徐行運転を続けておりました。


すると。。。。

今まで真っ白で何も見えなかった
濃霧の中から突然

まるで
ボロボロの死装束を纏ったかのような
「犬鳴トンネル」が
目の前に浮かび上がりました。


犬鳴トンネルの入り口には
犬鳴峠の断末魔を封じ込めるように
古びたコンクリートブロックが
押し込められていて

その姿は日中見ても
かなりインパクトがあると思います。


あまりにも突然の事に
マジだみと走り屋君は
悲鳴を上げるのを忘れ

呆然と彼を見上げるばかりでした。



マジだみには
犬鳴トンネルの姿以外
何も見えません。

。。。が、
見えない体質で本当に良かった、と
心の底から思いました。


そのくらい鈍感なマジだみでも
「いる」気配を感じておりまして

また、これは不思議なことですが
「後ろにはいない」とも感じました。



ふいに、カーステレオのDJが
リズミカルなポップスを流し始めまして
それがふたりの金縛りを
緩めてくれます。

もともと
峠に慣れている走り屋君ですから

冷静に
「じゃあ帰りますか」と呟くと
闇に包まれた後方を振り返り

慎重にハンドルを切り返して
犬鳴トンネルに背を向け

走り屋君とマジだみは
決してバックミラーを見ずに
元来た道をゆっくりと戻って行きました。



むろん、この経験をした後
マジだみは犬鳴峠には行ってません。

しかし
どこかをドライブしている最中
ふいにとても嫌な気持ちになることが
ございまして

帰宅後に地図を確認しますと
そこは犬鳴峠から
半径10キロ以内の場所だったりして

偶然なのか必然なのか
今でもマジだみにはよくわかりません。


ただ
コロナウィルスが目に見えないのと同じで

見えずとも「いる」

と感じる何かが
この世には存在するのだなぁ、と
マジだみは思うのでございます。



ところで
犬鳴峠のような超常現象は
日本の専売特許ではございませんで

世界各地にも
心霊スポットが数多く存在し

その在り方や伝えられ方は様々で

国によっては
その超常現象を宗教として崇め
日々の暮らしに取り入れているところも
あるかと思います。


その中で
超常現象と国家とが強く結びついた
歴史を持つのが
お隣の中国でございます。


風水など
古くから日本に伝わる占いの多くは
中国を起源とするものであり

マジだみはその方面に疎いので
その詳細は
風水に強いブロガーさんに委ねるとして

「鬼門」と聞くと
占いに興味がない日本人でも
何となく気になってしまう人も
いるかと思います。


で、
その占いの本家本元の中国において

支配者である中国共産党は
超常現象を否定するような
政策をとっているようで

場合によっては
ウェイボー(中国版Twitter)で流れた
超常現象の噂話を
中国共産党が削除することも
あるようです。


何故なら
超常現象が発生するのは
人民にとって
悪い政治が行われている証拠であり

国家の転換期(王朝が滅びるなど)の
前兆である、と
中国の古い歴史書に遺されていて

中国の人々はこのことを
わりと本気で信じており

それらは中国共産党にとって
都合の悪いことだからです。


最近でも

明清朝時代の旧王宮で
歴史的建造物でもある
「紫禁城」(しきんじょう)の
出入口のひとつ「東華門」(とうかもん)に

長い髪の女性が運転する白いポルシェが
追突事故を起こした、という事件が
あったようです。(噂話です)

その東華門は
紫禁城の「鬼門」にあたるようで

中国の人々は
その事件を超常現象として捉えたのか
ウェイボーですぐに拡散されたようですが

程なくして
中国共産党に削除されてしまった
ということでした。


それほど敏感に
中国共産党が不思議な出来事に
反応するのは

中国の人々の心が
占いや超常現象の類いに揺れやすく

ひとつ間違えれば、人民の心が
国の歴史を変えるほどの威力を持つ
という証拠なのでしょうし

その事を逆手に取れば

中国の人と何かの交渉をする際
例えばその方にとって
風水の観点から良いとされる
お土産のひとつでも持参すれば

商談がスムーズに行くように思います。



日本において
安倍晴明が暗躍した平安時代なら
超常現象が国家を揺るがしたのかも
知れませんが

安倍内閣が政権を持つ現代において

超常現象による経済の混乱で
動きの鈍い政治の在り方を
非難されることはあっても

超常現象そのものを政治と結びつけ
安倍政権のせいだと非難し
政権の転覆を謀る日本人は
あまりいないように思います。


超常現象を巻き起こす心霊スポットや
ご利益を授けてくれる
名高いパワースポット、

柳田国男が記した
「遠野物語」などの伝承作品や
浮世絵に描かれた幽霊の絵に対して

政治などの
リアルな世界と切り離した
人それぞれの結界の中で

心惹かれたり
想いを寄せたりと

国家や宗教に邪魔をされず
オカルトやスピリチュアルな世界を
自由に楽しめるのは

日本の良さのひとつだなぁと

マジだみは思うのでありました。


今日もくさくてゴメンなさい。イヒ