先日、お気に入りのパティスリー(というよりはおしゃれなケーキ屋さんと言った方がこのお店の良さが伝わる気がする)にケーキを食べに行った。

いつも座る窓側の席が空いていなかったので、作業台目の前のカウンター席に座ることになった。


その時の私は、ここ数日の自分にえらく失望していて、その気持ちを吹っ切ることができないままいたずらに時を過ごしていた。気分を変えたくてここにきたというわけではないけれど、苛々していて自分がどうしたいのかわからない。とりあえずケーキでも食べるか、と思い付き、さらには、どうせ食べるなら美味しいケーキがいい、という食い意地ではるばる(というほど遠くはないが)ここまでやって来たのだった。


頼んだのは桃のミルフィーユ。生地がパリパリとした食感のまま、私の口を楽しませてくれる。いつも残念な食べ方になってしまうミルフィーユだが、皿を汚すことなくフォークに収まってくれるのも嬉しかった。


しばらくすると作業台でパフェ作りが始まった。円形のパフェグラスの底に桃を敷き詰め、ホイップとカスタードクリームを絞っていく。さらにその上にキューブ状になったスポンジをぽんぽんと乗せ、その隙間にホイップを絞って…という作業を見ていたら楽しくなってきて、自分を責めていた気持ちがどこか遠いところへ行こうとし始めていることに気が付いた。

──夢が創り上げられている、と思った。

それは食べたら消えてしまう儚い夢であると同時に、食べた人の中で永遠に生き続ける実在の夢でもあった。きっと世の中の出来事、出会い、体験のすべてがそうなのだろう。


そんなことを思ううちに、パフェにはクッキーやアイスクリームがのせられ、その完成は間近に迫っていた。

さっきまでの、怒りやら悲しみやら悔しさやらで苛立っていた、とりとめのない感情はほとんど消え、代わりにドキドキワクワクした気持ちが弾けるように身体全体をめぐり、あたらしく、私の中にぼんやりと何かが現れてくる。


そしてついに、パフェにアーチ状のホワイトチョコレートが飾られた。それはプレゼントを包むリボンのように、そのパフェの特別感を演出していた。


パフェが注文した人の元に届けられたと同時に、私はその店を後にした。美味しかったミルフィーユ。美しいオブジェのようなパフェ。

私の中に、今度ははっきりと現れてくる。

そうだ、絵を描こう。

美しいデコレーションのクリームと、みずみずしく艶やかな白桃、宝石みたいなトッピングたち。絵を見たらいつでも、この日の光景が蘇ってくるように。


そしてこの絵を書き終えたら、きっとまた、新しく何かが現れてくるだろう。