気持ちを切り替えたくて、仕事の合間に家を出た。車を降りたら、前方から満面の笑みで走ってくる女の子がいて、その笑顔のなんと可愛らしいことか。私は一瞬にして心を奪われてしまった。

道の先でママが待っている、そのことが彼女にとって何よりも嬉しい様子だ。脇目も振らず、母親に向かって懸命に歩を進めている。両手に携えた荷物が幾たびも地面に落ちそうになるけれど、そんなことを気にして足取りを止めるより1秒でも早くママに抱きつきたいという彼女の思いが伝わってきて私は、「がんばれがんばれ」と心密かにエールを送った。

彼女が私の横を通り過ぎた時、横目にヘルプマークが見えた。(え?ヘルプマーク?こんなにくったくなく笑っているこの子が、病気?)私は振り返って彼女を見た。

よく見ると確かに、ステロイドをとっている人特有のむくみがある。自分も子どもの頃そうだったのでよくわかる。けれど遠くから走ってくるその姿を見た時には少しぽっちゃりしているのかなくらいにしか思わず、病気だなんて全くもってわからなかった。彼女から発せられる生命力は元気いっぱい、逞しいほどで、病気とは無縁であるかのように見えたのだ。

彼女は生きていた。
生を楽しんでいた。
病気であることに支配されていなかった。

私はハッとした。
今自分が日々の暮らしについて、次にやってくる支払いについて、やらなければならない手続きについて、さまざま思考をめぐらしているということが、こんなにも自分を不自由にしている…

目の前に現れた天使は、私からその思考を一瞬にして消し去っていった。
私は心の中で天使を抱きしめた。
そして背中の透き通った美しい翼を、彼女の姿が見えなくなるまで眺めていた。