「3人打ちの店を出そう」





5月末、ようやく人手不足がほんの少しマシになってきたところ、間髪入れずうちの暴れん坊将軍である社長は新店舗を7月に出すことを決定





社長は計画や策略を練るタイプではなく、自身の感覚を頼りに経営を展開していた





「僕の感覚的には〜」





このフレーズによって、会議のために集められたデータはいくつも葬られたらしい





たまに現場に出て本走にも入る社長は当然麻雀も自身の本能を頼りに打つ





ゼンツする割に牌効率もできないため、出勤するたびに炎上するもアウトは全額店持ち






店の向かいにあるごはんおかわり自由の定食屋と勘違いしているのかと思うほどアウトのおかわりをしていた





今年の3月、4月にはコロナの影響で経営が厳しく、人件費削減のため社長自ら週6で出勤





しかしながら毎日-10000p以上のダメージを店に与えるため店長に





「そんだけ店のアウト出すんならバイトの子シフトに入れたってもらっていいすか?」


と言われる始末






お客さんからも「明日社長おるんなら朝から並ぼかな」と言われるほどの期待値を秘めていた





話を4年前の5月に戻そう





人手不足がマシになったと言っても、社員に1ヶ月で4日休みを与えられる程度であり、未だ人手は不足していた





そんな中で決定された3人打ちの新店舗オープン




それを聞き、ナイアガラのように汗を流している男がいた





うちの連勤術師ことケンさんである



ケンさんに関しては21話を参考にしていただきたい





ようやく人並みの休日を手にしたケンさんの顔は、その歯並びよりもグシャグシャになっていた





「俺、死にたくないよ...」





そう言っていたが本能型の社長の決定はほぼ揺るがない





大阪のミナミに大炎を感じとった社長はケンさんに告げる



「ケン、お前異動」





死にたくないと言っていたケンさんは華麗にフラグを回収





しかし知略型のケンさんには到底理解できないこの突撃命令




ケンさんは力なく「はい...」と返事をしていた





7月末、俺はケンさんの様子を見に行った





店に入るとフリーは立っておらず貸し卓は1組だけ




ケンさんはタバコを吸いながら時計を見つめていた





「お、お疲れ様です」





少し心配しながら話しかけるとケンさんは煙を吐き出し「...うす」と弱々しく返事を返してきた





オープン初月、副店長に任命されたケンさんの労働時間は驚異の400時間超え





呼吸する代わりにタバコを吸わないと、今にもぶっ倒れてしまう




そんな冗談を言っていたが、死んだ魚のような視線は俺には向けられず、ずっと時計を見つめていた





難波に店を建てたにも関わらずフリーは立たない日も多く、貸し卓はきても1日に2組ほど





大炎を巻き起こすつもりがお客さんはまったくこず、売り上げは大炎上





社長の突撃命令により、振り回されたケンさんはほぼ無駄死に状態だった




たまに店を見にくる社長に
「おかしいな〜僕の感覚ではもっと人来るはずやねんけどな〜」と毎回言われているケンさん






その瞳は「店に火をつけるんじゃないか」と思うほど黒く濁っていた