【小説】年齢はただの数字だ
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第一話 桜井 出会い

「他に好きだって言ってくれている子がいる。さっちゃん、ごめん。」

二年前に小百合がフラれた時の台詞だ。
猛アタックして付き合えた三ヶ月。
一度も手を出されなければ、キスだって数えるほどしかなかった。
新しい彼女はスタイルの良い子だった。

小百合だって決してブサイクの部類ではない。
若手女優のようなナチュラルな黒髪に、癒し系の顔立ちだ。
ただちょっとぽっちゃり。いや、正確に言えばジーンズのサイズは32インチだ。

そんなフラれ方をされて以降、何故か小百合はおじさんウケが良くなった。
通い慣れたいつもの飲み屋では、たいてい払うのは自分からオーダーした最初の一杯だけ。
まるでバブルかと小百合は思った。

おじさんの相手は楽しかった。
自分が経験しえない話や、知らない分野の話がたくさん聞けるからだ。
おじさんも若い子が興味を持って話を聞いてくれるのは嬉しいらしい。
そのおじさんの中でも小百合が熱心に話を聞いていたのは40過ぎて独身の桜井だ。
桜井は科学とSFものが大好きで、語り出すと瞳をキラキラさせて細かい理論まで説明しながら話してくれた。

桜井は酒が入らなければ硬派な男だ。親から継いだ珈琲屋を営みながら暇な時にSF小説を読むのが趣味。結婚歴は無い。
小百合はそれまで珈琲なんてたいして興味はなかったが、奢ってくれた桜井が店をやってると知ってからは度々、桜井の店に顔を出すようになった。
桜井の店は雑誌とかで見るお洒落なカフェとは違い、寂れた商店街にある時代遅れだがどこか落ち着く雰囲気たっぷりの店だった。
小百合は桜井から珈琲の苦味や酸味、挽き具合で味が変わることなどを教えてもらい、桜井が選んだ豆をいただくのが習慣になった。
「今日の豆はどう?」
「今日のはちょっと酸味?が強い感じなのかな?」
「はは、さっちゃんは酸味が苦手かぁ?まだまだお子ちゃまだな。」
酸味や苦味なんて細かい事は正直よくわからない。
でも桜井もそれはわかっているみたいだった。

桜井は若い小百合が珈琲に興味を持ってくれてるのが楽しかった。
親から継いだ店とはいえ桜井も珈琲に関しては興味があったし、若い小百合が足しげく通って来てくれるのが楽しみであった。

「さっちゃんてさ、若い感じしないよね」
「はぁー?なにそれぇ~。じゅうぶん若いんですけどー。」
「いや、そーゆー意味じゃなくて、高校生とかとはやっぱ違うなと。」
「平成生まれの高校生と比べられたらきっついなぁー。」
「あはは、ほら、どっちかと言ったらこっちよりだよね、話すことが。」
「失礼なっ。平成になったのリアルタイムじゃ知らないんですけどっ!」

小百合がおじさんウケが良いのは若さを感じないこと。
小百合はぎりぎり昭和生まれだが、小百合の両親は桜井とたいして歳がかわらない。
そんな両親の元で育った小百合だから、昭和30~60年代のヒットチャートで桜井と語れるのだ。
ヒットチャートだけでなく、小百合は浅間山荘事件や山一証券の破綻、リアルタイムだと地下鉄サリン事件までわりとよく知っていた。
それは単に小百合の歴史好きからくるものだったが、20以上歳の離れた桜井にはまるで同年代と話している気さえしていた。

小百合は桜井の過去の話を聞くのも好きだった。
桜井は今でこそ硬派な珈琲屋の店主をやっているが、若い頃は相当なやんちゃぶりだったようだ。
中でも小百合が面白がって聞いていたのは桜井の歴代の彼女の話だ。
桜井は聞き上手な小百合に唆されているのをわかりながらも、ついついあの子はいい女だった。と話してしまうのだった。