洗剤使用の基礎知識「3つの原則・3つのポイント」➀ | お掃除とメンテナンスのプロ 矢部要のブログ

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洗剤を使用するにあたって、覚えておくべき基本事項を3つの原則・3つのポイントとして教えています。先ず、3つの原則とは

  1. 洗剤とは・洗剤の役割
  2. 洗剤の強さ(pHについて)
  3. 洗剤の方向性(酸を使うかアルカリを使うか)

になります。順に説明していきましょう。

1.「洗剤とは・洗剤の役割」

 ○洗剤の役割

 ①水と油を仲良くさせる(有機物汚れの除去)

 ⓶水の表面張力を落とす

洗剤の主成分は界面活性剤と言い、図のような恰好をしています。

片方が親水基(水に馴染む部分)、もう片方が親油基(油に馴染む部分)です。御覧の写真での左側には水の中に油が入っています。水と油ですので、仲が良くありません(分かれています/油が水の中に溶け込むことがありません)。即ち、油汚れが水では落ちないことを示しています。しかし、この中に洗剤を入れると、界面活性剤が油の粒子と水を結び付ける事で、水の中に油を溶け込ませます(乳化)。即ち、油汚れ(有機物)を取り去る事が出来る事を示しています。

界面活性剤のもう一つの働きは表面張力を落とす事です。手に泥を付けた写真をご覧ください。これを水洗いしただけでは、あまりよく落ちない事はよく知られています。しかし、石鹸(洗剤)を使用すると、すぐにビックリするほど奇麗になります。泥は有機物(油)ではありません。無機物なのですが、これが奇麗になるのは、水の表面張力を落とす作用によるのです。泥は細かな粒子がくっ付いたものですので、虫眼鏡で見れば小さな割れ目が一杯あるのですが、水は表面張力が強いので、中にあまり入れないのです。一方、石鹸水は表面表力が落ちていますので(非常にサラサラなので)割れ目の中や、手の指紋の間に容易に入り込み、汚れを洗い流してくれるのです(無機物の汚れを落とすメカニズム)。

私達の身の回りの汚れの80%は親水性の汚れと言われています。そうしますと、水拭きでは20%残ってしまうことになります。洗剤を使用することで100%落とす事が出来るのです。日々の清掃作業で、80%と100%の積み重ねが大きく異なる事は言うまでもありません。水拭きではアマチュアとの差を出すことはできません。生産性を上げ、プロ的な仕事をするためには洗剤使用は必須なのです。洗剤使用の重要性をしっかり知ることがプロへの第一歩になるのです。

 

2.洗剤の強さ

汚れの強さ(落ち難さ)はpH値(水素イオン濃度)に準拠しています。pH値について簡単に説明すると、水はH+とOH―が緩やかに結合したものなのですが、水の中の内容物によってH+やOH-が増えるのです。H+が増えると酸になり、OH-が増えるとアルカリになります。濃度は10倍ずつで一単位になっています。即ち、pH11の洗剤を水で薄めて10倍にするとpH10になります。100倍にすれば9になるわけです。これを覚えておくと、例えばワックス床の上につくブラックヒールマーク(靴のゴム汚れ)をpH10の汚れを覚えておけば、pH11の洗剤では落ちるはずですし、10倍にしても落ちるハズだと目の子がつくのです。従って、プロが使用する洗剤にはpHが付いており、どの程度の汚れに対応しているかがすぐに分かります。アルカリサイドで落ちる汚れを例にとれば、アルカリを強くしていけば、どこかで落ちますので、その強さを覚えておけば、どの洗剤が有効か容易に判断することが出来るのです。

ここでちょっと問題なのは希釈する際に、いつも10倍とは限らず、端数(50倍とか64倍とか)が出る場合の計算方法です。本来は乗数ですので、図の赤い線のようになるのですが、私達が使用するのはお掃除ですので、科学実験のような正確さは必要ありません。分数で考えてしまいましょう。pH11の洗剤を水で50倍に薄めたとしたら、最初の10で単位が1下がり、pH10になりますね。残りの5を0.5としてそこから引いて、9.5と考えてしまいます。正確ではないので、約9.5とか9.5程度としておけばよいというのが、この世界での計算方法になっています。

もう一つの注意ですが、pH8(アルカリ)を水で薄めてもpH6(酸)にはなりません。pH7(中性)の水で薄めるのですから、pH7のままです。アルカリをいくら多くの水で薄めても酸にはならないという事です。

3.洗剤の方向性(酸を使うかアルカリを使うか)

洗剤の必要性を知り、洗剤の強さも理解しました。そうすると次は、実際に洗剤を使う事になります。その際に、真っ先にしなければならない事は、その場所(その汚れ)に対して、酸を使うかアルカリを使うかを判断することです。酸でなければ落ちない汚れに対して、アルカリを使用したら、いくら強くしても効きません。逆の場合も同じになります。この判断が重要なのですが、意外に簡単なのです。なんとなれば、私達の身の回り汚れは圧倒的にアルカリ側で落ちるのです。酸で落ちる汚れはほんの少しです。従って、酸で落ちる汚れを覚えてしまえば、それ以外はアルカリで落ちるハズ・・・という事になります。

さて、メンテナンスの守備範囲は基本的に建物の内側です。そこで内側に限定しましょう。そうすると、建物の内側で酸が必要な場所は

「トイレ、浴室、流し(台)、錆び」

です。それ以外はアルカリと覚えましょう。勿論特殊なのを挙げればきりがありません(コンクリートのエフロレッセンス、カーペットの色戻し、古いタイプのカーペットの消臭剤・・=これらはごく特殊なものなので、出てきた場合に覚える事にしましょう)。

先ず、トイレですが、便器に付く尿石と水垢ですが、尿石はカルシウム(Ca、アルカリです)になりますし、水垢はカルシウム(Ca)と二酸化ケイ素(SiO=ガラスの小さな粒と考えてしまいましょう)が主成分です。どちらもカルシウムが大きく関係していますね。カルシウムはアルカリですので、酸が必要になります。

浴室は皆さんが石鹸やシャンプーを使用しますが、これらがアルカリですので、これが堆積(アルカリ残留)するので、酸が必要になるのです。

流し台も洗剤を使用しますが、それがアルカリですので、上記と同様にその残留分を除去するのに酸が必要になります。

錆びは鉄Fe2に酸素O3が付いた状態Fe2O3が錆びですが、そこに塩酸(HCl)を使うと、H2つで錆びのOを一つ持ってきますね、CL(塩素)も酸素を2つ持ってきてClO2(二酸化塩素)になり、Fe(鉄)がO(酸素)が無くなって元に戻る(Fe2)(正確な化学式ではありませんが)還元作用を使って錆びを落とすのです。

Fe2O3 + HCL ⇒ H2O CLO2

トイレ、浴室、流し、錆び

と覚えましょう。それ以外はアルカリサイドですので、アルカリを強くしていけばどこかで汚れは落ちてくれることになります。

逆に、トイレ・浴室・流し・錆びは洗剤の方向性が逆で酸が必要になります。ここをしっかり覚えないと、トイレ清掃やお風呂場(水回り)で苦労する事になるのです。

次回に続きます