仕事の途中で、三葉に電話をする。
担当の森さんに変わってもらう。
「森さん。議事録がおかしいです。前役員の滝井さんが『おかしいからハンコは押せない』と言って、小谷さんも押印せずに『今期の理事長に任せます』と言って、昨夜わが家に持ってきたんです」
「え~っと。どちらがおかしいんですか?」
「共用部の損害保険です。『更新』『承認』となってますが、要検討ということで『保留』でしたよね」
「え~っと。いえ、承認だったと思うんですが」
「それはおかしいでしょう。私の記憶とも違うし、もし森さんの言うとおりなら、滝井さんや小谷さんがハンコを躊躇わないでしょ?」
「う~ん。私は承認だったと思うのですが~」
言い張る気かな。
「今、事実だけを言いますと、『1名も押印していない定期総会の議事録』が私の手にあります。現理事長として申し上げますと、私の記憶とも異なり、保険の更新は認められません。議事録の訂正を要求します」
「う~ん。私の方から、定期総会の参加者にお電話で確認をとってみたいと思いますので。よろしいでしょうか?」
「それは構いませんよ。行なってください」
「では、その確認をしてからということで」
「森さん、もう一つ。理事長印の押印を求める書類が届いてるのですが、あれはなんですか?」
「あ、前理事長に押印いただいたのですが、書類に不備がありまして」
「で、なんの書類ですか? 支払い請求書とかだったような。なんの支払いですか?」
「あ、え、その損害保険の支払いです」
「230万円以上の、あの支払いですか?」
「ええ」
「小谷さんはハンコを押したんですか?」
「ええ、まあ」
「・・・。・・・それに不備があったんですね」
「ええ」
「これには押印できません」
「あ、え、ですから、参加者に電話で聞いてみますので」
「わかりました。そのうえで私に連絡ください」
たぶん「はい」と言ったのだろうが、スマホから耳をすぐに離した私は、通話を切った。
昔の黒電話なら、受話器を叩きつけていただろう。