会が終わって、雨漏りが気になり平野さんを探した。

 

平野さんは、管理会社の森さんと、やはり雨漏りについて話していた。

 

「では、まず調査いたしますので」という森さんの言葉が聞こえたので、少し安心した。

 

 

僕は、今期から理事会を行なうと決めていた。

今まで全くやってこなかったので、いきなり月に1度なんていうのは厳しいだろう。

戸数の少ないマンションなんだし、まずは3か月に1度開催してみるつもりだ。

 

今期の理事は、副理事長が草野さん、会計が平野さん。監事が榊原さん。

 

榊原さんは、上品な方で、おそらくは60歳くらいの女性。

新築で購入した古株だが、意見はほとんど言わない。でも、自分が役員のときの総会にはキチンと参加している。

妻が言うには一人暮らしらしい。

 

妻は僕と違って、ほとんどの住民のことを知っている。

さすが、女性はコミュニケーションが上手いなぁと感心する。

 

本来は山村不動産も役員なのだが、住んでいるのは賃貸人で、管理規約にのっとり月1000円の協力金を支払って、役員を免除されている。

 

よって、今期の役員は4名なのだ。

その全員が総会に参加していたので、3か月に一度、理事会を行ないたいとお伝えした。

 

みんな、少し迷惑そうな雰囲気が、ないではない。

協力的なのは、草野さんかな。

 

僕は「詳細は追って連絡します」と言った。

やる・やらない、を検討する気はなかったのだ。理事長権限で開催すると決めているのだ。

 

幸い、今期役員のみなさんは、控えめな方々で、反対を訴えられることはなかった。

 

 

会議室の片付けをし、戸締りをして廊下に出た。

 

 

妻は、女子会的に参加した女性陣とおしゃべりしながら先を歩いている。

 

 

 

その女子会の1人だった、滝井さんが振り向いた。

 

 

滝井さんは珍しく、お一人での参加だった。いつもならウチと同じでご夫婦で参加されるのだ。

 

ご主人は、うるさ型のタイプで声が大きい。

車はスカイラインGTRだ。

車好きなら、ため息が出るだろう。R32なのだ。

 

黒で、めっちゃカッコイイ。

 

毎日アイドリング中に、車を磨いている。

10分は磨いている。

 

 

ちなみに奥さんは、とてつもなく変わっている。

 

訂正。

奥さんは、とても個性的な方だ。

 

 

僕が初めて参加した5年前の役員会。

エレベーター前で、寒くて、長時間で、腰が痛くて。

 

その5年前の役員会に、参加しなくていい世帯なのに、自ら進んで参加していた。

 

しかも、どうでも良いことを、いつまでもグチグチ言って、いたずらに話しを長引かせるのだ。

 

「では、質問も無いようですね・・・」と管理会社の森さんが締めようとすると、

 

「ちょっとよろしいですか」と、手を上げる。そして、些細なことが気になると言う。

 

「では、その点も総会で議論しましょう」となり、終わりの空気になると

「いや、でも、私はそんな大ごとにしようと思って言ったのではないから、気になって言っただけだから、総会の議題になるのは・・・。それは必要ないんです」と、またまた言い出す。

 

滝井さんの意見にならないとなると、とにかく粘る。納得できないと繰り返す。

 

根負けで、滝井さんの意見にしようとまとまりかけると、「私の意見が採用されるのは、責任が重いからいや」と言う。

 

単に、話を長くしたいだけとしか思えなく、椎間板ヘルニアで腰痛に耐えている僕には拷問だった。

 

あやうく僕は切れそうになり、妻に裾を引っ張られ、かろうじてこらえられたのだ。

 

そんなこともあって、僕は、滝井さんの奥さんには強烈な印象を抱いた。

 

 

今回の総会では、古株の油谷さんの意見に対抗して、まるで僕の意見を擁護してくれた、そんな感じだった。

 

ありがたい、とも思うけど、なんか怖いような感じもする。

 

 

そんな滝井さんが振り返って、僕に大きな声で話しかけてきたのだ。

 

 

「奈星さん、玄関の修理、13万円ってどうやって調べたんですか?」

「あ、インターネットで近くの業者を検索して、で見積もりを取ったんです」

 

「そ~なんですか~。奈星さんは、どちらの大学を出られたんですか~?」

「え? あ、僕は高卒ですよ」

 

「そ~なんですか~」

 

あら、それは失礼、という感じで、そそくさと女子会に戻っていった。