真っ暗な部屋。カーテンの隙間から差し込む仄かな光が照らすのは闇色の薔薇。

 

「貴方はあくまで私のもの」

 

決して許せない罪を犯した者を忘れられない時、その想いは「愛」と呼べるのだろうか?

 

 

 ※※※

 

 

 たった一人の部屋は広くて静かだ。テレビを付けても、音楽を聴いても、何をしても。静かな部屋に一人で居ると、考えるのは決まって彼の事だ。

 

 

 「彼」

 

 

夫だった人。形式は未だ夫でも、夫と思えなくなった人。他の女性を好きだと言った。妻を裏切る「不貞行為」はしていない。けれど 一緒に居ると楽しいと、「好きだ」という気持ちはあったと打ち明けた。

 

 

「友人だ」と言ってくれれば、嘘でも良いからそう言ってくれれば、嘘をつき通してくれたなら、私は彼を許せた筈だ。その言葉を疑わない無邪気さで、あるいは心の広い女の振りで。

 

 

それなのに、自分の気持ちを全て曝け出して来た。馬鹿正直に、他人の気持ちを慮れない愚直さで。困り果てた様に、苦しそうに、彼女に対する恋心を打ち明けた後、やけにすっきりとして見えた。その顔を見た時、私の何かが壊れたのだ。

 

 

「全部話せば許して貰えると思った?」「貴方の懺悔の代償に 何故私が傷つかなくてはならないの?」心の中は色々な言葉で溢れているのに、私の口から出たのは「考える時間が欲しい」「どうするか気持ちの整理が付くまで 別れて過ごしたい」だった。

 

 

 

※※※

 

 

 「憎い」という気持ちはどんな物なのだろう。殺してやりたい?報いを受けさせてやりたい?そんな事を私は思っていない。あるのは只、これからどうしたいのかだけだ。一人になってから、いつも その事を考えている。何事も無かった様に過ごす事など出来ない。やり直す為に努力出来る自信も無い。ならば、いっそ別れてしまえばいい。そう思った次の瞬間、蘇るのは初めて抱き締められた時の記憶だ。そして一緒に笑っていた日々。泣きたいくらいに幸せで、そのくせ虚しくて哀しい想い。こんな気持ちを抱えたままで、夜の部屋で一人、どれ程の時を過ごさなければならないのだろう。

 

 

 苦しい。寂しい。怖い。

 

 

「気持ちが残っているなら、やり直す事は出来ませんか?」そう言った人に聞いてやりたい。こんな気持ちが愛情なのか。この気持ちが愛だとすれば、いずれは辛さも忘れてしまうのか。こんな思いをさせる人を許す事が出来るのか。

 

 

 忘れる事なんて出来ない。許す事も出来ない。一度 黒く染まった花は、二度と赤くは開かない。

 

 

 

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 「黒い薔薇は自然には咲かない。深い赤い薔薇や、人工的に作られた物を黒薔薇と呼ぶ。」

 

 

 

窓の外が白み始める。新しい陽が上り、明るくなった部屋の中。窓辺の薔薇は何色に咲いていますか?

 

 

 

 

     

 ~ Fin ~