相棒(白ネコ)の桜


春に
根が活動を始め
成長し
華やかなピンク色の花を咲かせ




夏には
葉を茂らせ




暑さも和らぎ
朝夕の肌寒さを感じる頃

色とりどりの葉色となり
落ち葉となり


葉が全部落ちた後

晩秋の頃


桜の木は
一旦休憩し
深い眠りに入るのです




そして
寒さが訪れ

冬の間は
少しずつ少しずつ
栄養を蓄え
花の蕾の準備を始める



桜の木や枝は
できれば
切らない方が良いけれど

成長と共に
どうしても
切らなければいけなくなる
枝もある


どの季節に剪定しても
良い訳でもなく


寒さが和らぎ始める頃
根が活動する春や

活発になる夏に
枝を切ってしまうと

切り口から樹液が滲み
樹勢も弱くなり
病気になったり枯れたりする


花を咲かせる為の準備中の
低温時期の乾燥した冬
病気に対する抵抗力も低い時
切ってしまうと
原木が
花を咲かせようと
蓄えている栄養を
傷を治す方へと流していく


桜の枝を切る時期は

桜の木が
全ての葉を落とし
一旦活動を休憩し
深い眠りに入る秋



桜が深い眠りに入った時が
人間に例えるとするのなら

手術前の麻酔



枝を切る前に
剪定バサミを
消毒しなければいけないのは

手術のメスも同じ


 
枝を切る事が
人間の
指や腕や足を切るのであれば

切る場所が太ければ太いほど
回復するのに時間も
体力も
その為の栄養も必要になる


枝の切り口に
保護剤や癒合剤やツギロウを
厚めに塗らなければいけないのは

人間が切り口に
消毒やガーゼや包帯をするのと同じ



他の木の種類によっては
剪定する事で
そこから
沢山の枝や芽が出たり

自ら復活する力があったり


枝を切る事が
爪を切ったり

髪の毛や毛先を整える

身だしなみ程度だったりもする



でも
桜の枝や木は

切った部分が腐りやすく
樹全体に
病気を引き起こす原因となる



剪定する枝は
・枯れた枝
・病気の枝

そして

他の枝と交差したり絡み合い
放置すると風で
枝同士が擦れて
傷ついてしまったり

主幹から伸び過ぎ
風通しや日当たりを悪くしたり
芯となっている主幹の成長を
阻害してしまうような枝


・懐枝
・腹切り枝
・交差枝
・からみ枝
・込み枝
・徒長枝
・車枝
・かんぬき枝
・平行枝
・逆さ枝
・立枝
・下り枝
・幹吹き枝/胴吹き枝
・ヤゴ/ひこばえ枝

どうしても
切らなくてはいけなくなった
枝達が
 
剪定後
捨てられる事なく
接ぎ木として
又は
命が尽きるまで
誰かの元で大事に
花瓶に生けられていてほしい


でも
秋に切った枝が
桜の時期
室内で飾る時まで
維持できるものなのだろうか?



相棒の桜は
うちに来る前に


木の全体を
支える役目の
中心となる幹が
切られていました



病気になって
やむ終えず
切られたのだろうか

枝数を増やす為
桜の木の負担にならないよう
まだ細いうちに
主幹の高さの成長を止める為の
カットなのか


それとも

桜の花を室内に飾る人達の
ほんの僅かな一時の
観賞の為に

切り花用に
切られてしまったのだろうか


幸い
相棒の桜は

切り口から
「腐朽菌」が侵入し
繁殖する事もなく
腐って枯れていく事もなく

頑張って育ってくれました

でも
桜の木は
病気になり枯れていかなくとも

その後
枝が切られた原木は
何らかの
ダメージを受けてしまう


これから木の全体が
大きく高く育つ為の
中心の幹

背骨の様に
支える役目だった筈の
切られた部分からは
もう2度と
桜の枝は
成長する事はないのです


そして
切られた辺りの2本の小枝からは

花が咲く事もなく
主幹が負けてしまいそうな位
異常に伸びた枝
主幹を切られた事で
アンバランスな状態に
成長してしまいました

風の強い日に
折れやしないかと
心配するくらい長く太い
【徒長枝】


【徒長枝】は
剪定した辺りから
発生する事が多く

枝葉の成長の勢いが強すぎて
他の
どの枝よりも長く太く伸び

花芽を付ける事なく
吸収した養分を
成長の為に消費して

他の枝の養分も奪ってしまう

逞しく太く育ってほしい
土台となる
芯の幹の栄養分も
他の小枝達の栄養分も


このまま成長し続けると
【徒長枝】の重みに堪えかねて
風の強い日に
まだ
いろんな枝を
支える太さに成長してない
主幹ごと
折れてしまいそうで


中心の幹の太さの成長にも
影響している様で

中心の幹が
太く大きくならないまま
【徒長枝】だけが養分を吸収し
ぐんぐん育っていくのを
この先ずっと
放置してると

この相棒の桜は
いずれ力尽き
枯れていくかもしれません


秋には
私の手で
剪定をしなければ
ならなくなってしまいました

特に
思い入れのある木を切る事は

正直つらい


秋までに
また成長し
この2本の【徒長枝】は
ぐんぐん
伸びていくだろう

どうか
剪定時期の秋まで
中心の幹が
耐えてくれますように


風の強い日や台風の日に
重みで枝が
折れたりしませんように


今は
お世話をしながら
見守る事しか出来ないのです




桜を育てていると
自然に
子供の頃を思い出していました

まだ
幼稚園にも行く前の
幼かった頃

母が描いた
色んなパターンの
生け花のデッサンのノートに

花を想像しながら
自分なりに
左右非対称の美しさを
描いてみました
枝や花の色を
バランスをみながら
思うがままに
母のデザインに大胆に描き足して


自慢の力作を
母に披露し
ずいぶん
叱られた事がありました


母が一生懸命描いた物の上に
描いてしまった事
何も考えず
悪気なくしてしまった事

大事な母のデッサンのノートに
落書きをして
悪びれる様子もなく
自慢気に見せに行った自分が

恥ずかしく
申し訳なく



草花や木を
想像して描くのは
楽しかったけれど

花を生ける時の
【剣山】は
子供の頃
どうしても苦手でした

いつの時代の物だろう

使う事の無い
年期の入った
「剣山」と「鋏」
引っ張り出してみた


幼い頃
剣山の針上に突き刺した
花や草や枝達を
人間に例えると

まるで
人が足を切られて
ぎゅっと剣山に刺され
ポーズをとらされている様で

生けられた花達が
綺麗だと思える心が
持てませんでした

生けられた植物と水との接点の
水際が
命の出発点

器を大地と考えても
その器が
たとえ
どんなに立派な物だとしても
自然の大地には敵わない

水際からぐんぐんと
太陽へ伸びていく様子を思いながら
生けた花達を
眺め
命ある物の素晴らしさを
感じる事より


土に根を張った
四季折々の木や草花が
太陽の光を浴び
時には雨風に耐え
時の流れと共に
左右非対称に
変化していく様子を
眺める事に
命ある物の
素晴らしさや儚さ
美しさを感じてしまう

たとえ
虫食い葉や
先枯れた葉
枯れた枝になったとしても


当たり前のように
花屋には
切り花が並び

御祝いの日には
花束

御供えには
切り花を飾る


人間は
毎日何かの命を
犠牲にして生きている

何かの命を頂いて
自分の命を繋がなければ
生きてはいけない

昔は
狩りをして動物を殺め
植物の命を頂き

寒い季節には
殺めた動物の毛皮で
暖をとり
冬を乗り越え
春へと命を繋いだ


それがだんだん
命を頂く自覚が薄れていき

毛皮も
ファッション重視になっていった

そして
自分の命を繋ぐ事とは
無縁の
人間が決めたルール上の
植物や動物の殺生


受け継ぐ心が
根本から外れ
ズレ始めると
その加速度は止まらない


でも私は
その加速度に乗る事もなく
これからも
私のまま



2019.4.2    相棒の桜
今年最後に残った
花びら1枚


1週間後
最後の1枚の花びらは
ハラハラと
土へと
去っていきました


相棒の桜の木が

どんな理不尽にも困難にも負けず
枝を切られようと
懸命に生きようとする姿
そして
命の儚さを

私に
教えてくれたようでした