朝、Sにツアーの代金を支払ってレシートを受け取る。
Sは、元気なさげにつぶやいた。
「昨日電話しなかったね。寂しかったよ。」
彼が、何を期待していたのか知らないが
こんなにガッカリするもんなのかというくらいのショボクれ具合で
顔がシワシワだった。
そして朝までに、ツアーの詳細を書いておいてと頼んでいたのに書いてなかった。
えー、と思ったけど、あまりSと話をする気になれなかったし
運転手が全部分かっているようなので、
そのまま宿を出た。
車で迎えに来た運転手(以下K)に挨拶をし
私はバックシートに座った。
これから向かうジャイプールまでかなりの時間があるので
寝ておこうと思った。
Kが運転席から何か話しかけてくる。
私の英語力のなさからか、何をいってるのかよく聞き取れず
何度も聞き返す事になった。
Kが前の座席に来るように勧めてきたけど
「次回はそうするね。」
とよく分からない返答をして断った。
ただ、やっぱりバックシートは会話がしづらいし
昨夜は割と宿で寝てしまって車で眠れず、
結局、前の座席に移った。
前の座席に座って、やっと会話がかみ合うのかと思いきや、、、
K 「 私 言った。 旅 長い 喋る。(英語にて) 」
このドライバーは、一体何者なんだ・・・。
インドでは学校に行けない人が沢山居ることや
ヒンディー語のみで暮らす人が居ることも分かっていた。
ただ商売のために
ストリートチルドレンでも流暢な英語を話す。
(本人達が、”英語は観光客から、耳で聞いて覚える”と言っていた。)
でもKは、ボキャブラリーも文法もほぼ理解していないよう。
ツアーの車の運転手だから
英語圏の人と触れ合う機会も多いはずなのに、、
何故かはいまだに不明。
ただ、下手に英語や日本語でペラペラ話しかけられるより
簡単な英語で話す方が私も楽だったので、
結果的には良かったのかもしれない。
ただ、最初に言っておこうと思ったのは
ドライバーの食事代は払わないという事。
Sから、
「運転手のご飯代は払わなくても良い。
チップも気持ちで良い。」と
言われていたのでKにも
「あなたの食事代は払わない」と言って置いた。
Kは微妙そうな顔をしていたけど分かったと言った。
昼、入ったレストランで初めてインドのカレーを食べた。
私が食事代を払わないと言ったからか
彼はタマネギのような野菜と安いナンしか頼まなかった。
ちょっと気の毒だったけど、私には関係ない。
・・・でも、この炎天下で働いてタマネギだけって・・・。
途中で倒れられても困るし、やっぱり
食事代は出すという事にした。
車にもどり、またジャイプルに向かって走り出した。
Kは最初は控えめでいたけれど
だんだんシモネタの話になり
結局、どうでも良い質問を適当に流す時間が続いた。
ちなみに、彼は自分のインド人女性との失恋話をして
最初は可愛そうだなと思っていましたが
今は、絶対嘘だと思ってます。
客に良い印象を与えるための「同情作戦」です。
ただそうするうちに、Kの言葉もだんだん理解できるようになった。
どうやら、彼は現在形と過去形が、ごちゃまぜになっているようだ。
その辺が分かれば、なんとなく話の内容は推測できた。
しばらくして、ふと、Sの気持ち悪さを伝えてみた。
以前からSとKが知り合いなのかと聞くと今日が初対面だったという。
知り合いじゃないなら良いやということで、
たまっていたストレスを吐き出すように、Sの話をする。
「Sって会って一日目で愛してるとか、結婚したいとかいうんだよ。
結婚したら日本に行くとかいってさ。
そんなんで騙されるわけないじゃんねー!
気持ち悪いよねー!」
と、さんざん言って見ると
Kが笑いながら
「それは・・・仕方ないよ。
だって
君が美しいから。」
と返してきた。
あなたはどこの劇団員ですか。
というか、Kは私の話を聞いていたんだろうか。
初対面で、歯の浮くような台詞を言う男を
私は気持ち悪いと言ったのに。
後で分かったことだけど、大抵のインド人は口説き文句で同じ言葉を使う。
学校に行かなかった人や英語の読み書きが出来ない人が
ボキャブラリーを増やすには、他人の言った言葉を聴くしかなく
それをそのまま持ってくるから、皆同じ口説き文句になるらしい。
(後に知り合ったインド人が言ってました。)
その後もKは 君は美しいとか
君を一目見たとき神だと思った 。
と続けていた。
( たぶん”神の贈り物” God's gift と言いたかったのかも。
インドの神様って、全身青かったり手が沢山あったり、人間ぽくない。
というか、私だって自分の外見偏差値くらい分かってるし
どう考えても、その文句は厳しすぎる。
ただ、彼が欲しいのは、お金・遊び・もしくは日本のVISAなわけだ。
ただ、SのようにI love you とは言わないのでまだマシだった。
Kについては、その後きっぱり無視しても良かったのだけど
せっかくの旅なのだから面白く行きたい。
ネタといったらネタだし。
お酒は飲むのかと聞かれたけれどほんの少しと答えた。
宿についたらインドのビールをあげるよと言われた。
そしてジャイプル到着。
今日は移動日なのでそのまま宿で休むことにした。
部屋内は涼しくて快適で少し眠った。
しばらくして夕飯の時間になり、Kが迎えに来た。
外のレストランを探すか、宿の屋上のレストランか選べって。
私は、なんとなく屋上のレストランにした。
レストランで食べていると、他のドライバーもやってきて
結局、私、k、ドライバーの三人でご飯を食べた。
このドライバーは自分が未婚であること、彼女が沢山居ることを話し始めた。
(実は既婚者だと後で知る。)
彼は携帯で彼女に電話をかけ、
何故か私に「彼女と喋ってくれ」と言ってきた。
私は電話口でナイストゥーミーチューとだけ言い
そのまま電話を返した。
10分前に初めて会った男の彼女と、
電話で一体何を話せと言うんだろう。
何がしたいのか、
行動の意味がつかめない、インド人。
それから貰ったビールを飲み、良い時間になったので
寝ることにした。
Kが 「君の部屋って好きだなー。」と言って
部屋の前まで付いてきたが、1人で帰って寝た。
ちなみに、私はこの日Kの携帯を、落として壊した。
液晶にヒビが入ってしまった。
弁償するよと言ったけど、以外にも高く
日本円で数万円するらしい。
明らかに自分の失敗で壊してしまったけど
この場合どうするべきだろう。
半分払う、とか、一緒に修理屋に行こうとか言ったけど
結局、もう良いよというので、何も払わず済ませてしまった。




」


