
「あっち行ってこれ食べようよ」
ベンチに向かって歩きながら留美子はバッグの口を広げて見せた。
「何?おぅ、おにぎりじゃん」
「やっぱり持ってきて正解ね」
並んで座るとウエットティッシュを一枚取り辰雄に渡す。
自分も丁寧に指先を拭うと大振りのおにぎりを2個取りだし
ちょっと考えてから一方を辰雄に渡した。
「留美子が作ったの?」
「うん」
「すげーじゃん」
「おにぎりくらい誰でもできるよ。はい、昆布」
「おっオレ昆布のおにぎりが一番好きなんだ」
「だよね」
「何で知ってんの?」
「いつか言ってたよ、ふじっこ命って」
「えーっそんなこと言ったっけな。そんでそっちのは?」
「これは梅干し。お婆ちゃんが毎年作るの」
「へぇー、うちは梅酒は漬けるけど。梅干しも作っちゃうのかぁ」
「うまーい」
境内のベンチで取り留めのない話をしながら食べた、ふたりだけのご飯。
「いつかさ、レストランで食べたいね」
「おにぎり?」
「ばーか、ステーキとかワインとか」
「うん、ふたりで行こ。テーブルにロウソクとかあってさ、ナイフとかフォークとかいっぱい並んでて」
「それって結婚披露宴じゃないの?」
「違うの?」
「違うよ!ホテルとかじゃなくってさ、もっと普通のレストラン」
空気は冷たかったが風はなく、葉の落ちた枝先から降り注ぐ太陽が心地よくふたりを包んで暖かかった。
笑うふたりをちらちらと警戒しながら真っ白な野良猫が公園の真ん中をゆっくりと通り過ぎていく。