
「出られた!」
そこは夜だった。熱帯の森のような植物の間から無数の星たちの瞬きが見える。温かく穏やかに風が流れている。
「湖だ。」
かなり大きいが、対岸の森が星明かりにうかんで見える。ここはどこなんだろう?僕を助けてくれた人はどこにいるんだろう。
水に手を入れてみた。星明かりでも底が見えるほど澄んでいる。喉がむしょうに渇いていることに気付いた。両手ですくって口に含んでみる。ひんやりとして気持ちいい。何回もすくって飲んだ。
「うまい。こんな美味しい水は初めてだ。」
一息ついた時、体のあちこちが痛み出した。今まで気がつかなかったのが嘘のようにあちこちがひりひりする。擦り傷や打ち身が沢山あるようだ。
着ていた物を脱ぎ水に入った。傷をそっと洗い、こびりついていた血や泥を落とした。髪も洗った。
水から上がると優しい風が全身を包んだ。
人のいる気配が全くない。車の音も鳥の声も何も聞こえない。
「誰もいないんだ…」
そう思うと疲れが全身にしみ出してきた。裸のまま横になり星を見上げた。何を考えたらいいのか思い浮かばなかった。しばらくそうしていた。
明るい流れ星がひとつ空を横切ったが、宇宙のまぶたは閉じられた後だった。